アパート経営に興味を持ったものの、どこに物件を建てるべきか、そして自前の事務所を構える必要があるのかと悩む方は少なくありません。立地は長期収益を左右し、事務所の有無は運営効率と信頼性に影響します。本記事では、初めてのアパート経営で失敗を避けるために、立地選定の基本から事務所設置の実務までを順序立てて解説します。最後まで読むことで、物件探しの視点が整理され、スムーズな経営準備が可能になります。
立地選定の基本は需要と供給の見極め

重要なのは、賃貸需要の高さを示すデータと地域特性を組み合わせて判断することです。まず人口動態を確認し、増加傾向のエリアか横ばいかを見極めましょう。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2025年以降も都心三区と政令市中心部は微増が続く一方、郊外の人口は緩やかに減少すると示されています。つまり賃貸ニーズが安定するのは、交通利便性が高く通勤・通学需要が集まる地域です。
一方で供給面も忘れてはいけません。同じ沿線でも新築ラッシュが続く駅周辺では、空室競争が激化しやすくなります。2025年8月の国土交通省住宅統計によると、全国平均のアパート空室率は21.2%ですが、新築供給が多い駅では30%を超えるケースもあります。このようなデータを把握して過剰供給エリアを避けることが、長期安定経営への近道です。
加えて、周辺の生活利便施設や公共サービスも収益に直結します。スーパーや病院、行政窓口が徒歩圏にあるだけで入居者満足度は大きく高まります。立地を選ぶ際は、昼夜の交通量や騒音も踏まえ、将来自分が住みたいかどうかの視点で評価すると失敗しにくくなります。
オフィス需要が賃貸市場に与える影響

まず押さえておきたいのは、事務所エリアの拡大が周辺賃貸需要を底上げする仕組みです。企業が集まる地域では、一人暮らしや共働き夫婦の入居需要が増加し、空室リスクが相対的に下がります。東京の丸の内や大阪の梅田周辺を例にすると、オフィス稼働率が90%を超える時期はワンルーム賃料が平均3〜5%上昇する傾向があります。
さらに、テレワーク普及後も出社ニーズはゼロにならず、利便性の高い立地への回帰が目立ちます。東京都産業労働局の2025年調査では、週3日以上出社する企業が調査対象の65%を占めました。つまりオフィスと住宅が近接する地域は、今後も安定供給を受けつつ賃料水準を確保できる可能性が高いわけです。
一方でオフィス供給過多の地域では、賃料下落と空室増が連動し、周辺の居住ニーズも減るおそれがあります。名古屋駅南側の再開発エリアでは、大規模ビル竣工後にオフィス空室率が16%まで上昇し、それに合わせてワンルーム賃料も2%下落しました。立地選定時は、オフィス需要が持続的か一過性かを見極める視点が欠かせません。
データで読み解く2025年の空室率と将来性
ポイントは、最新統計からエリアの将来性を数値で確認することにあります。先述の全国アパート空室率21.2%という平均だけで判断するのは危険です。都心五区に限れば空室率は11%前後にとどまり、逆に郊外の地方都市では30%前後に達する地域もあります。
総務省「住宅・土地統計調査」では、単身世帯は今後10年で全国平均4%増加する一方、三世代世帯は減少傾向が続くと予測されています。つまりワンルームから1LDKの需要は底堅いと考えられますが、広めのファミリータイプはエリア選定を誤ると空室リスクが高くなります。
投資対象駅を絞り込む際は、将来の人口ピラミッドにも目を向けましょう。後期高齢者割合が50%を超える市町村では、若年層転入が見込めず、賃貸需要が縮小する可能性が高いからです。反対に大学キャンパスやITベンチャーの集積が進むエリアは若年世帯が流入し、賃料下落が緩やかにとどまる傾向があります。
立地選定を成功に導く実践ステップ
まず物件候補を10駅程度まで絞り、現地調査を通じて5駅前後に厳選しましょう。現地では平日昼と夜、週末昼の三つの時間帯に訪れ、駅から物件候補地まで歩くことで実際の生活動線を確認できます。不動産ポータルの賃料相場だけでなく、街灯の数や人通り、治安情報もメモに残すことが大切です。
次に、過去3年の賃料推移と募集期間を不動産会社にヒアリングします。賃料が横ばいでも、成約期間が延びているなら需要が鈍化しているサインです。ここで気になる情報があれば、近隣に新築アパートが建つ予定か、市の開発計画があるかを役所で確認するとリスクを抑えられます。
金融機関に提出する収支計画書も並行して作成しましょう。空室率は国交省統計の平均よりやや厳しめに設定し、返済比率(返済額÷家賃収入)は45%以内に抑えると融資承認が得やすくなります。実はこの段階で計画が甘いと、希望エリアに良い物件が出ても資金繰りでつまずく恐れがあります。
事務所設置で経営効率と信頼性を高める
基本的に、自宅兼事務所でも法的には問題ありませんが、入居者や金融機関の信頼性を高めるなら専用事務所が有効です。オーナー名義の小規模オフィスを物件近くに構えることで、緊急対応や定期巡回が楽になり、管理会社との連絡もスムーズになります。
事務所コストを抑える方法としては、レンタルオフィスやシェアオフィスを利用する選択肢があります。東京都心のレンタルオフィスは月額3万円台から利用でき、固定電話番号を取得すれば信頼性も確保しやすくなります。また2025年度の中小企業庁「小規模事業者持続化補助金」は、賃貸経営を含む個人事業者でも事務所開設費用の一部が対象となります(申請期限は2026年1月予定)。
一方で物件と同一建物内に管理室を設ける方法もあります。小規模なら帳簿保管や入居者対応に十分で、住居スペースと切り分けられます。ただし消防法上の制限や用途地域の規定があるため、建築前に自治体窓口で確認しましょう。
まとめ
ここまで、アパート経営を初めて行う際に欠かせない立地選定の視点と事務所設置の考え方を解説しました。需要と供給のバランスを統計で確認し、現地調査で生活視点を確かめることが空室リスクを抑える鍵です。また、オフィス需要が周辺賃貸市場に与える影響を読み解くことで、長期的な賃料成長も予測しやすくなります。さらに、専用事務所の設置は運営効率と信頼向上に直結します。今日得た知識を基に、まずは希望エリアを歩いて情報を集め、理想の物件と経営スタイルを具体化してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 https://www.mlit.go.jp
- 国立社会保障・人口問題研究所 将来人口推計 https://www.ipss.go.jp
- 東京都産業労働局 テレワーク実態調査2025 https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査 https://www.stat.go.jp
- 中小企業庁 小規模事業者持続化補助金 https://www.chusho.meti.go.jp