不動産投資に興味はあっても、総事業費が「1億円」と聞くと尻込みしてしまう方は多いものです。自己資金はいくら必要か、建築費はどこまで削れるのか、空室リスクに耐えられるのか――悩みは尽きません。しかし、要点を押さえて計画すれば1億円規模でも堅実に運営できます。本記事では建築費の考え方を軸に、資金調達から収益シミュレーションまで初心者でも理解できるよう解説します。読み終えるころには、自分に合ったアパートプランを描くための具体的な手順が見えてくるでしょう。
そもそも1億円規模のアパート投資とは

まず押さえておきたいのは、1億円規模のアパート投資がどのようなスケール感かという点です。一般的に土地と建物を合わせた総事業費が1億円前後になると、戸数は木造2階建てで8〜12戸、軽量鉄骨やRC(鉄筋コンクリート)なら6〜10戸が目安になります。
次に資金構成を見てみましょう。自己資金は2〜3割が理想とされ、2,000万〜3,000万円を用意できれば金融機関の審査が通りやすくなります。一方で、昨今はフルローンやオーバーローンを組むケースもありますが、返済負担率が高まるため慎重な収支計画が不可欠です。
建築費の内訳を知るとコスト管理の視点が磨かれます。建物本体工事で約60%、外構・付帯工事で10%、設計料や各種申請費で5%、残りが諸経費です。つまり建築費を抑えるには、坪単価だけでなく外構や設計仕様を含む総合的な視点が必要になります。
最後に空室リスクを確認しましょう。国土交通省住宅統計によると、2025年8月の全国アパート空室率は21.2%で前年より0.3ポイント改善しました。平均が2割を超える状況下でも立地や間取り、賃料設定を適切に行えば十分に勝負できます。
建築費を左右する三つの要素

重要なのは、建築費を決める主要因を理解し、自分でコントロールできる部分を増やすことです。要素は「構造」「仕様」「発注方式」の三つに集約できます。
最初の要素である構造は、木造か鉄骨かRCかという選択です。木造は坪単価が40万〜60万円程度と低く、建築期間も短縮できます。一方で長期修繕費や減価償却期間が短いことを踏まえ、長期の修繕計画を早期に立てることが大切です。鉄骨やRCは坪単価が70万〜100万円に上がるものの耐用年数が長く、金融機関からの評価が高まる傾向にあります。
次の仕様では、設備グレードが収益性に直結します。たとえばIoT対応のスマートロックや宅配ボックスを導入すると初期コストは上がりますが、家賃に上乗せできるため効果的です。重要なのは設備投資額が家賃増加分で何年で回収できるかを試算することで、回収期間が7年以内なら導入する価値が高いと言えます。
最後の発注方式は、一括請負と分離発注のどちらを選ぶかです。一括請負は価格が分かりやすく工期管理も楽ですが、マージン分が建築費に上乗せされます。一方、分離発注は専門業者と直接契約するためコストを10〜15%削減できる場合があります。ただし工事管理の手間とリスクが増えるため、初心者が挑戦する場合は建築士やCM(コンストラクション・マネジメント)会社を活用すると安全です。
融資戦略とキャッシュフロー設計
実は、建築費を抑える努力と同じくらい融資条件を引き出す交渉力も大切です。金利が0.3%下がるだけで30年間の総返済額は数百万円規模で変わります。
まず金融機関の選択肢を広げましょう。都市銀行は金利が低い代わりに自己資金20%以上を求めることが多く、木造アパートでは融資期間も短くなりがちです。一方で地方銀行や信用金庫はエリアや取引実績を重視するため、地元での取引拡大が交渉材料になります。2025年時点ではネット系銀行が投資用アパートに最長35年、金利1%台前半のプランを提示する例も出てきました。複数行を比較し、返済期間・金利・融資割合のバランスを取ることで月々のキャッシュフローを安定させられます。
キャッシュフロー設計では、家賃収入から返済、管理費、固定資産税、修繕積立を差し引き、年間キャッシュフロー率(税引き前CF÷総事業費)を7%以上に保つことを目安にすると健全です。さらに、空室率を平均値の21.2%より厳しい25%で設定し、金利も1%上乗せしてシミュレーションすると、想定外の事態への耐性が確認できます。
減価償却を活用した節税も忘れてはいけません。木造なら22年、鉄骨は34年、RCは47年の法定耐用年数を基に、圧縮記帳や加速度償却を上手に組み合わせることで所得税と住民税を抑制できます。顧問税理士にアドバイスを受けながら、最適な償却スケジュールを組み立てると良いでしょう。
立地と間取りが収益を決める
ポイントは、建築費を削っても立地と間取りを妥協すると長期的な損失が大きくなることです。つまり「建築費削減=コストカット」ではなく、「費用対効果の最適化」を目指す視点が重要になります。
立地では駅距離だけでなく生活導線を検証します。徒歩10分圏内にスーパーやドラッグストアがあれば、単身でもファミリーでも入居率は安定します。また、大学や工業団地が近いエリアは賃貸需要が周期的に入れ替わるため、長期空室を回避しやすい傾向があります。
次に間取りです。2025年の賃貸検索データを見ると、30㎡前後の1LDKが20代後半から40代の単身・DINKS層に人気で、平均家賃も1K比で15〜20%高く設定できます。同じ延床面積でも8戸の1LDKにするか12戸の1Kにするかで、総家賃収入の構成が大きく変わります。家賃単価の上昇余地と設備コストのバランスを取りながら、ターゲット層に合わせた間取りを決めましょう。
さらに賃料査定には、類似物件の募集賃料だけでなく成約賃料を確認すると精度が上がります。不動産流通機構の成約データや地元管理会社のヒアリングを活用し、募集家賃を5%下げても回転率を高めた方がCFが向上する場合もあるため、複数シナリオで比較することが大切です。
コスト削減と品質確保を両立させる発注のコツ
まず押さえておきたいのは、価格交渉だけでなく工程管理の工夫が最終コストを左右するという点です。発注前にVE(バリューエンジニアリング)を実施し、性能を落とさずにコストを下げる代替材料を洗い出しましょう。
たとえば外壁材はサイディングからシーリングレスの金属サイディングに変更すると、10年目の再塗装費を削減できます。屋根材をガルバリウム鋼板にすれば、初期費用こそ上がりますが30年超の耐久性が見込め、長期的な修繕コストは下がります。
工期短縮も効果的です。建築期間が1カ月延びると、家賃30万円の機会損失に加え、金利負担も増えます。モジュール工法による規格化とプレカット材の活用で、従来6カ月の工期を5カ月に短縮できれば、トータルコストは約3%削減できます。
品質を確保するためには第三者検査を導入しましょう。住宅性能評価機関や建築士事務所が実施する中間検査・完了検査を受けることで、引き渡し後の瑕疵リスクが低減します。検査費用は総工事費の約1%ですが、将来の修繕コストやクレーム対応を考えれば十分にペイする投資と言えます。
まとめ
本記事では「1億円 アパート経営 建築費」というテーマを、資金計画から建築コスト、融資戦略、立地・間取り、発注方法まで幅広く解説しました。建築費は構造・仕様・発注方式を見直すことで10〜15%削減が可能ですが、その分を立地と設備に再投資する柔軟さが成功の鍵です。また、厳しめの空室率と金利でシミュレーションし、年間キャッシュフロー率7%以上を確保できれば長期安定経営にぐっと近づきます。まずは複数の金融機関と建築会社に相見積もりを取り、自分だけの最適プランを練り上げましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 – https://www.mlit.go.jp/statistics/details/
- 日本銀行 金融システムレポート – https://www.boj.or.jp/statistics/
- 不動産流通機構 成約賃料データ – https://www.reins.or.jp/
- 住宅金融支援機構 金利情報 – https://www.jhf.go.jp/
- 全国賃貸住宅新聞 賃貸トレンド調査 – https://www.zenchin.com/