ビットコイン不動産取引が実現した背景
ブロックチェーン技術と法整備の進展
ビットコインによる不動産売買は、もはや夢物語ではありません。この革新的な取引を可能にしたのは、ブロックチェーン技術の発展と各国の法整備です。
ブロックチェーンは取引履歴を改ざん困難な形で記録し、高い透明性を実現します。スマートコントラクト(自動契約)により、契約条件の履行と同時に資金決済を行う取引の自動化も可能になりました。
日本では2017年の改正資金決済法で暗号資産が支払手段として位置付けられ、法律上、暗号資産による不動産代金決済が許容されています。世界的にも、エルサルバドルが2021年にビットコインを法定通貨として導入したほか、EUでも2024年にMiCA規則が採択されるなど、法的位置付けが明確化されつつあります。
市場拡大と投資家の成熟
暗号資産市場の拡大も大きな追い風です。2024年にはビットコインネットワーク内の年間取引額が19兆ドルを超え、市場価格も史上初めて1BTC=10万ドルを突破しました。
値動きの大きいビットコインで得た利益を不動産という実物資産に移転することで、ポートフォリオのリスク分散を図る投資家が増えています。暗号資産決済なら一度法定通貨に換える手間なく大口資金を動かせる点も魅力的です。
世界と日本の実例
アメリカ:先進的な取り組み
2021年には米国フロリダ州マイアミの高級ペントハウスが暗号通貨決済で**2,250万ドル(約24億円)**で売却され、当時の暗号資産決済による不動産取引として史上最高額を記録しました。
米大手高級不動産仲介のクリスティーズ・インターナショナルリアルエステートは2025年に暗号資産専門の取引部門を新設。同社によれば、暗号資産での購入希望物件は既に総額10億ドル(約1,470億円)以上に上り、今後5年で「米国の住宅不動産取引の3分の1以上が暗号資産決済になる」と予測されています。
実務上は、BitPayのような決済代行サービスが間に入り、買主が暗号資産で支払い、サービス提供者が法定通貨に換金して売主に送金するスキームが広く用いられています。
ドバイ:官民挙げての推進
中東のビジネスハブであるドバイも、暗号資産での不動産取引が活発な地域です。2022年には暗号資産を使った不動産購入件数が前年の4倍に増加したと報じられています。
ドバイの不動産開発大手DAMACプロパティーズが2022年にビットコインとイーサリアムによる支払い受け入れを公式に開始するなど、民間主導で暗号資産決済を取り入れる動きが広がりました。
2025年6月にはドバイで2件の高級マンションがトークン化され、世界35カ国から投資家が殺到し数分で完売。購入者の70%がドバイ不動産初参入という結果も出ています。
日本:大手企業の本格参入
日本でも暗号資産で不動産を購入できる時代が現実のものとなりつつあります。2025年1月、大手不動産会社のオープンハウスグループがビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)による不動産決済サービスを開始すると発表し、大きな注目を集めました。
国内の暗号資産交換業者における口座数は2024年時点で1150万口座を超え、預かり資産残高は約2.9兆円に達すると報告されています。こうした環境整備を追い風に、大手企業による本格的な暗号資産対応不動産販売が始まりました。
2025年には東証上場企業のマーチャント・バンカーズ株式会社が暗号資産取引所と提携し、3億円相当のビットコインを購入して不動産決済サービス事業に本格参入すると発表しています。
投資家にとってのメリット
決済スピードと手続きの簡素化
ビットコインなど暗号資産による支払いは、国際送金であっても数分~数十分程度で完了します。SWIFT電信送金にありがちな3~5営業日の待ち時間や、煩雑な中継銀行手続きが不要で、資金移動が非常にスピーディーです。
暗号資産決済の導入によって従来の3分の1の時間で不動産売買契約が完了した例も報告されています。
コスト削減と大型送金の容易さ
従来の国際送金では為替手数料や銀行間手数料を合わせて1~3%程度のコストがかかりますが、暗号資産送金のネットワーク手数料は金額に関係なく低廉です。高額物件では数%の違いが数百万円~数千万円の差となるため、大きなメリットがあります。
また、暗号資産なら送金額に上限がなく、1回で数百万ドル規模の支払いも技術的に可能です。銀行の場合のような金額制限や事前申請が不要で、スムーズな取引が実現します。
国際取引の円滑化とプライバシー
海外の不動産を購入する際、暗号資産決済ならウォレットとパスポートさえあれば煩雑な銀行手続きを大幅に省けます。一旦現地通貨に両替する手間なく支払いが完結するため、外国人投資家にとって極めて魅力的です。
また、暗号資産決済では銀行を介さないため、プライバシーが保たれやすい利点もあります。特に著名人など富裕層にとって、身元の秘匿性は重要な要素となっています。
注意すべきリスク
価格変動リスク
ビットコインの価格は日々変動し、1日で5~10%動くことも珍しくありません。このため実務では、契約時に金額を法定通貨建てで固定し、その時点のレートで暗号資産量を確定する方法が一般的です。
変動リスクを嫌う場合は、USDT(テザー)やUSDCなどのステーブルコインで支払うケースもあります。
税務上の問題
暗号資産で支払う行為は、多くの国で資産の譲渡(売却)とみなされ課税対象になります。日本の場合、購入時より値上がりしたビットコインで物件を買うと、差額が譲渡益として課税されます。
これは雑所得扱いとなり累進課税(最大55%程度)となるため、数千万円単位の税金が後から発生し得る点に注意が必要です。
コンプライアンスとセキュリティ
高額不動産取引では、暗号資産の来歴(取得経路)を示す書類の提出が求められることがあります。日本では不動産業者は500万円超の取引時に本人特定事項の確認義務があります。
また、暗号資産送金は一度送ると取り消し不能です。誤って間違ったウォレットアドレスに送金した場合、その資金は回収不能になる恐れがあるため、送金アドレスの確認を何重にも行う必要があります。
今後の展望
市場の一般化と企業参入
これまでの成功事例が積み重なるにつれ、暗号資産決済は不動産取引の場で徐々に一般化しつつあります。米Opendoor社やクリスティーズ、日本のオープンハウスなど、大手企業の参入も相次いでいます。
数年後には暗号資産対応が不動産会社の差別化要素というより必須条件になっている可能性があります。
技術インフラの深化
不動産のトークン化(Tokenization)により、物件を細分化したデジタル証券として発行・売買することで、小口投資家でも数万円~数十万円からグローバルに不動産投資できるようになります。
将来的には、物件購入から権利登記までを全てブロックチェーン上で完結させる構想も現実味を帯びています。所有権証書をNFTで発行する動きや、スマートコントラクトで融資契約を管理する試みなど、関連プロジェクトが増えています。
まとめ
ビットコインで不動産を購入する選択肢は、技術的・法的基盤の整備により確実に現実のものとなっています。決済の迅速さ、コスト削減、国際取引の円滑化など多くのメリットがある一方、価格変動リスクや税務問題など注意すべき点も存在します。
不動産業界は今まさに変革の時を迎えており、その原動力の一つが暗号資産とブロックチェーン技術です。投資判断にあたっては最新情報の確認と専門家への相談をお勧めしますが、この新潮流の可能性にぜひ注目してください。
参考文献・出典
- ネクスパート法律事務所 Web3サイト「ビットコインで不動産購入|広がる市場動向とそのリスク」https://nexpert-law.com/web3/bitcoin-realestate-purchase/
- Business Insider Japan「約24億円のマイアミの豪邸は、代金が暗号通貨で支払われた最も高い不動産」https://www.businessinsider.jp/article/236414/
- Cointelegraph「ビットコインで不動産が買える5つの都市」https://jp.cointelegraph.com/news/5-cities-that-let-you-buy-real-estate-with-bitcoin
- CoinPost「仮想通貨で高級不動産を購入可能に、米クリスティーズ=報道」https://coinpost.jp/?p=636234
- 株式会社オープンハウスグループ プレスリリース「暗号資産での不動産販売を開始いたします」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000677.000024241.html
- BitPay「How to Buy a House with Cryptocurrency」https://www.bitpay.com/blog/buy-a-house-with-cryptocurrency
- Astons「Where You Can Buy Real Estate with Cryptocurrency in 2025」https://www.astons.com/blog/buying-real-estate-with-cryptocurrency-how-and-where-to-do-it-in-2025/
- Cointelegraph「Dubai Won The Real Estate Tokenization Play」https://cointelegraph.com/news/dubai-real-estate-tokenization
- 株式新聞Web「米不動産大手オープンドア、住宅購入でビットコインと暗号資産の受け入れを決定」https://kabushiki.jp/news/716953