不動産の税金

不動産投資 節税 VS キャッシュフロー徹底比較

不動産投資 節税 VS キャッシュフロー徹底比較

不動産投資を始めるとき、多くの人が「節税になる」と聞いて興味を持ちます。しかし本当に大切なのは、節税で生まれた現金と物件運営で得られるキャッシュフローをどう比較し、長期的な利益につなげるかという視点です。本記事では、2025年9月時点で有効な税制を前提に、節税効果とキャッシュフローのバランスを初心者にも分かりやすく解説します。読み終えるころには、自分に合った投資方針を描けるはずです。

不動産投資で節税が注目される理由

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まず押さえておきたいのは、不動産投資が他の資産運用より税務面で優遇されやすい点です。給与所得と損益通算できる赤字計上や、減価償却費を活用した経費計上が代表的な仕組みになります。つまり現金の流出がない経費を計上でき、手元資金を温存しながら所得税や住民税を抑えやすいわけです。

国税庁の令和6年(2024年)申告状況によると、不動産所得がある個人の約3割が赤字計上を行っています。赤字申告の平均控除額は約72万円で、年収600万円の会社員なら所得税率10%の場合でも7万円超の税負担が減ります。また住民税も一律10%なので、合計で14万円近い節税効果が期待できます。

しかし節税額だけを追うと「黒字倒産」に陥る危険があります。減価償却で損失を出しても、ローン返済や修繕費は現金支出です。帳簿上の赤字が大きいほど税額は下がりますが、手残りが減れば資金繰りは厳しくなります。このギャップを理解し、節税とキャッシュフローを同時に検討する視点が欠かせません。

代表的な節税スキームの仕組み

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重要なのは、節税スキームがどのように税額を減らし、同時にどのようなリスクを伴うかを具体的に知ることです。減価償却と青色申告、そして法人化の三つが王道ですが、それぞれメリットとコストが存在します。

減価償却は建物や設備の価値を年数で割り、毎年経費化する方法です。例えば鉄骨造の法定耐用年数34年を中古物件で残存20年とすると、購入価格2,000万円のうち建物評価1,200万円を20年で割り、年間60万円を経費計上できます。現金支出がないため、節税しながら内部留保を増やせる点が魅力です。ただし耐用年数終了後は経費枠がなくなり、課税所得が増えるため長期シミュレーションが必要です。

一方で青色申告特別控除は2025年度も最大65万円が適用可能です。複式簿記で帳簿を付ける手間は増えますが、個人投資家でも大きな控除を得られます。法人化による節税は、所得分散や役員報酬の設定で効果が高まるものの、設立費用や事務コストが上乗せされます。つまり節税策は一長一短であり、投資規模とライフプランに合わせて選択する必要があります。

節税メリットとリスクのバランス

実は、節税効果が大きい物件ほどキャッシュフローが悪化しやすい傾向があります。木造アパートをフルローンで買い、耐用年数を短期で償却すると、帳簿上は大幅な赤字になりますが、毎月の返済額も大きくなるからです。

日本政策金融公庫が公表した2025年上期の不動産投資融資平均金利は2.1%で、自己資金1割・返済期間25年の条件では年間返済比率が家賃収入の60%前後を占めます。減価償却で税金を抑えても、空室率10%を上回るとすぐに赤字転落する試算です。またローン完済後は償却費が減るため、課税所得が一気に増える「税金の谷」が発生します。

ポイントは、節税額を将来的な修繕費や繰上返済に回す設計です。例えば年間20万円の節税が得られるなら、その全額を毎年の大規模修繕積立に充てることで、10年後に200万円の外壁工事費を自己資金で賄えます。税金を減らすこと自体が目的ではなく、資金繰りを滑らかにする「防波堤」として節税を位置づける発想が重要になります。

税制優遇とキャッシュフローの実践比較

まずシンプルなシミュレーションで、節税重視型とキャッシュフロー重視型の違いを見てみましょう。

  • 物件A:木造築18年、価格1,500万円、ローン1,500万円、利回り10%
  • 物件B:RC築5年、価格4,000万円、自己資金1,000万円、利回り6%

物件Aは耐用年数残り10年のため、年間建物償却額90万円を計上できます。税率20%なら18万円の節税です。ただし返済比率は家賃収入150万円に対し70%を超え、手残りは年間15万円程度になります。

一方で物件Bは減価償却が年間80万円、節税効果は16万円とやや少なめです。しかし自己資金を投入しているぶん金利負担が軽く、返済比率は45%に収まります。結果として年間キャッシュフローは70万円ほど確保できます。

この比較から見えてくるのは、節税額だけを指標にすると実際の手残りとの乖離が起こるという現実です。投資目的が赤字通算で所得税を抑えることなのか、家賃収入を生活費に充てることなのかによって、選ぶ物件と融資条件は大きく変わります。

2025年度の制度活用と今後の視点

基本的に、2025年度も不動産投資家が使える国の主な優遇策は「住宅ローン控除(マイホーム用)」「固定資産税の新築軽減」「不動産所得の青色申告特別控除」の三つです。投資用物件で住宅ローン控除は使えませんが、自宅を所有しつつ投資用不動産を買う場合、住居部分の控除で可処分所得を増やし、投資資金を確保する戦略が取れます。

また固定資産税の新築軽減は、アパートや戸建て賃貸でも3年間(長期優良住宅は5年間)税額が1/2になります。2025年末に完成する新築木造アパートなら、地域によって年間30万円程度の税負担軽減が見込める計算です。ただし軽減終了後の税コスト増を織り込まなければ、4年目以降にキャッシュフローが急減するため注意が必要です。

今後、国土交通省は既存住宅の長寿命化を促すため、2026年度以降に修繕計画を義務づける調整を進めています。制度開始後は修繕積立の有無が融資審査で重視される可能性が高まります。早めに節税で得た資金を修繕基金に回す習慣を身につけておくと、制度変更にも柔軟に対応できるでしょう。

まとめ

本記事では、節税メリットとキャッシュフローを天秤にかける思考法をお伝えしました。減価償却や青色申告は確かに大きな節税効果がありますが、それはあくまで現金を残すための手段です。手残りを安定させるには、ローン返済比率や将来の税負担増まで含めた長期試算が欠かせません。まずは自分の投資目的を明確にし、節税で浮いた資金を修繕積立や繰上返済に充当する計画を立ててください。着実な資金管理が、税制改正にも強いポートフォリオを生み出します。

参考文献・出典

  • 国税庁 令和6年分所得税等の申告状況 – https://www.nta.go.jp
  • 日本政策金融公庫 2025年上期 融資統計 – https://www.jfc.go.jp
  • 国土交通省 固定資産税の住宅軽減措置概要(2025年度版) – https://www.mlit.go.jp
  • 総務省 地方税制度2025年版 – https://www.soumu.go.jp
  • 国土交通省 長寿命化・修繕計画に関する検討会資料(2025年7月) – https://www.mlit.go.jp

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