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5000万円で始めるアパート経営の家賃設定術

アパート経営を始めたいけれど、自己資金は限られ、家賃設定の方法もわからない――そんな不安を抱える方は多いでしょう。5000万円前後の物件を購入する場合、資金計画と家賃設定のバランスを誤ると、収支はすぐ赤字に傾きます。本記事では、最新の空室率データや銀行融資の動向を踏まえつつ、「アパート経営 家賃設定 5000万円」というテーマを基礎から解説します。読み終えたとき、適正家賃の導き方と空室対策の具体策が手元に残るはずです。

5000万円の資金計画と融資戦略

5000万円の資金計画と融資戦略のイメージ

重要なのは、5000万円という金額を自己資金と融資でどう配分するかです。適切な借入比率と返済計画が、家賃設定の自由度を左右します。

まず押さえておきたいのは、金融機関が重視する返済比率です。自己資金を物件価格の20%に当たる1000万円前後確保できれば、審査は通りやすくなります。また、諸費用として購入価格の6%前後が必要になるため、手元資金は余裕を持って準備しましょう。

具体例で考えてみます。物件価格5000万円、自己資金1200万円、融資3800万円(固定金利2.0%、25年返済)の場合、元利均等返済は月約161,000円です。管理費・修繕積立金・固定資産税を合わせて月40,000円と仮定すると、家賃収入が月250,000円あれば、手取りは約49,000円になります。つまり、期待利回りよりも「返済後キャッシュフロー」が黒字かどうかが最優先事項です。

2025年度時点では、地方銀行が提供する「アパートローン保証協会付プラン」が依然として主流で、金利1.8〜2.5%が目安です。都市銀行は借入期間を20年以内に制限する傾向が強く、キャッシュフローが圧迫されやすい点に注意が必要です。融資条件を比較し、長期固定金利と元金据置期間の有無を確認することで、家賃設定の幅が広がります。

収支を左右する家賃設定の基本

収支を左右する家賃設定の基本のイメージ

ポイントは、表面利回りではなく実質利回りで家賃を計算することです。経費を差し引いた「ネット収入」がプラスであるかを測る視点が欠かせません。

家賃設定は三つの数字で構成されます。第一に、周辺相場から算出した「妥当家賃」。第二に、空室リスクを加味した「最低家賃」。第三に、返済額と経費に利益を上乗せした「必要家賃」です。たとえば返済161,000円、経費40,000円、希望利益30,000円なら必要家賃は231,000円以上となります。一方、周辺相場が月240,000円であれば、最低家賃との間に十分な余裕が生まれます。

実は、家賃を高く設定し過ぎると募集期間が長期化し、結果として年間収入が下がるケースが多いです。国土交通省の調査によると、募集開始から60日以内に成約した物件は、平均して相場の98%前後で決まっています。つまり、相場より5%高い家賃を狙うより、適正家賃で短期間に成約させるほうが年間収入は安定します。

家賃設定は一度決めたら終わりではありません。更新時期や大規模修繕後など、収支が動くタイミングで再計算し、必要に応じて調整する柔軟性が求められます。その際、次章で示すエリアと間取り別相場データを活用すると、判断がブレにくくなります。

エリアと間取り別の家賃相場分析

まず押さえておきたいのは、立地と間取りが家賃に与える影響の大きさです。同じ5000万円のアパートでも、利回りはエリア次第で大きく変わります。

東京都23区のワンルーム平均家賃は2025年8月時点で85,000円前後です。一方、埼玉県さいたま市では60,000円、地方中核都市の仙台市では56,000円が目安です。5000万円を投じて4戸のワンルームを保有する場合、年間家賃収入は東京で約408万円、仙台で約268万円となり、利回り差は明白です。つまり、表面利回りが高い地方でも、人口動態と賃貸需要を慎重に見極める必要があります。

一方で、ファミリー向け2LDKは地方でも賃料が比較的安定しています。さいたま市の2LDK平均は95,000円、仙台市では87,000円です。夫婦共働き世帯の増加により、広めの間取りに需要がシフトしているため、投資効率が高まるケースもあります。

間取りと家賃を見比べる際は、物件価格あたりの「建物単価」にも注意しましょう。築浅の木造アパートは取得価格が高いものの、修繕費が当面抑えられます。築20年以上のRC造は価格は抑えられますが、給排水管更新など大規模修繕が迫っている可能性が高いです。家賃だけでなく、運営コストまで含めて利回りを計算することで、真の投資効率が見えてきます。

空室率21.2%時代の差別化戦術

実は、全国平均空室率は2025年8月時点で21.2%と依然高水準ですが、前年比では0.3ポイント改善しています。差別化に成功した物件が、改善の牽引役になっているのは明らかです。

差別化の第一歩は「設備の更新」です。インターネット無料や宅配ボックスは、単身者向けで募集スピードを二倍以上に高めるといわれています。導入費用が30万円でも、1室の空室期間が2か月短縮できれば、投資回収は1年未満で完了する計算です。

一方で、ファミリー向けには収納力の強化と駐車場整備が効果的です。内見者が最も長く滞在する場所はリビングと収納スペースであり、そこに手を加えることで成約率が高まります。筆者がコンサルティングした福岡市の事例では、ウォークインクローゼットを新設した結果、家賃を5%上げても即成約につながりました。

2025年度の自治体補助金では、太陽光パネル設置や高効率給湯器の導入に対し、改修費の1/3を補助する制度が継続中です(上限120万円、2026年3月申請分まで)。エネルギーコストを抑えつつ「環境配慮型住宅」としてPRできるため、家賃を下げずに競争力を高められます。

適正家賃を維持する運営と改善策

ポイントは、家賃下落を防ぐ仕組みを早期に作ることです。運営フェーズでの小さな改善が、長期の収益を大きく左右します。

まず、入居者コミュニケーションを仕組み化しましょう。問い合わせへの即時対応やオンラインでの契約更新手続きは、退去抑制につながります。退去1件あたりの損失が平均家賃4か月分に達することを考えると、月数千円のクラウド管理ツール導入は十分に採算が合います。

家賃改定のタイミングでは、設備追加や内装リニューアルとセットで行うと成功率が高まります。国土交通省の調査によれば、リフォームを伴わない家賃値上げの成約率は12%にとどまるのに対し、リフォーム実施後は43%まで跳ね上がります。つまり、費用をかけるべき局面を見極めることが、長期利益を守る近道です。

最後に、修繕積立のシミュレーションを毎年更新しましょう。外壁塗装や屋根防水など周期的な大規模修繕を計画的に行うことで、突発的な出費を避けられます。収支の見通しが立てば、適正家賃を維持しながらも将来の利益を確保できます。

まとめ

ここまで、5000万円クラスのアパート経営で安定した家賃設定を実現するステップを見てきました。まず、自己資金の比率と返済計画を最適化し、実質利回りで家賃を計算することが出発点です。次に、エリアと間取り別の需要を分析し、空室率21.2%の市場で差別化を図る設備投資を組み合わせることで、家賃を下げずに成約率を高められます。最後に、運営フェーズでの入居者対応と計画的修繕が、適正家賃を長期にわたり維持する鍵となります。行動に移せば、5000万円の投資が安定収入を生む現実的な選択肢へ変わるでしょう。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅統計調査 2025年8月速報版 – https://www.mlit.go.jp/
  • 全国賃貸住宅新聞 賃料動向レポート2025 – https://www.zenchin.com/
  • 日本政策金融公庫 不動産賃貸業向け融資ガイド2025 – https://www.jfc.go.jp/
  • 東京都住宅供給公社 家賃相場データベース2025 – https://www.to-kousya.or.jp/
  • 総務省 人口推計2025年7月確定値 – https://www.stat.go.jp/

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