収益物件を探し始めたものの、同じマンションなのに査定額が数百万円違う──そんな経験はありませんか。査定方法が複数あることを知らなければ、適正価格を見極めるどころか高値づかみのリスクが高まります。本記事では「査定方法 収益物件 違い」という疑問に焦点を当て、主要な手法の特徴と数値の読み解き方を丁寧に解説します。読み終える頃には、プロの査定を鵜呑みにせず自分で裏付けを取れる視点が手に入るはずです。
収益物件査定が欠かせない理由

まず押さえておきたいのは、不動産投資の成否が購入時点でほぼ決まるという事実です。国土交通省の「不動産価格指数」によると、2020年以降の中古マンション価格は全国平均で年4〜6%の変動幅があります。つまり、わずかな査定差でも将来のリターンに大きな影響が出るのです。
さらに、2025年度の金融機関は融資審査時に「想定家賃下落率」と「修繕費予備率」を厳しくチェックしています。査定額が高くても収支シミュレーションが甘ければ融資額が抑えられ、自己資金の比率が予定より増えるリスクが生まれます。一方で精度の高い査定を基にした計画であれば、金利優遇や長期融資を引き出せる可能性も高まります。
つまり、査定は価格を知るだけでなく、融資条件や将来のキャッシュフローまで左右する重要なプロセスだと理解してください。
代表的な三つの査定方法とは何か

ポイントは、査定方法が目的に応じて使い分けられている点です。不動産鑑定士や仲介会社は次の三手法を状況に合わせて組み合わせます。
最初に登場するのが「取引事例比較法」です。過去の成約データを基に、築年数や駅距離、間取りといった条件を調整しながら価格を導き出します。レインズ(国土交通大臣指定流通機構)が提供する膨大なデータを活用するため、市場動向を反映しやすい反面、特殊な物件では参考事例が少なく精度が落ちる点に注意が必要です。
次に「収益還元法」があります。将来得られる純収益を利回りで割り戻し、現在価値を算出する考え方で、商業ビルや一棟マンションで主流です。具体的には年間家賃収入から空室損失や運営費を差し引いたネット収益を、周辺取引や国債利回りを踏まえた還元利回りで割ります。変動要素が多い分、利回り設定が査定額を大きく左右します。
最後が「原価法」です。同等の建物を新築した場合の再調達価格から、築年数分の減価を控除して評価します。再調達価格は建築コスト指数を参照して求めるため、建物の状態が重視されます。築浅や特殊構造の物件では有効ですが、市場ニーズを十分に反映できないという弱点もあります。
査定方法ごとのメリット・デメリット
重要なのは、三手法を単独で見るのではなく相互比較することです。そこで分かりやすく整理すると次のようになります。
- 取引事例比較法:市場の実勢を反映しやすいが、類似事例が少ないと誤差が大きい
- 収益還元法:収入重視で投資判断に直結するが、利回り設定が主観的になりやすい
- 原価法:物件の物理的価値を把握できるが、流通市場との乖離が起こりやすい
例えば、築25年の区分マンションを投資家向けに売却するケースを考えます。事例比較法では周辺の直近成約から1,600万円、収益還元法では想定利回り6%で1,450万円、原価法では再調達価格2,800万円に対し経過年数で60%減を適用し1,120万円となる場合があります。ここで大切なのは、どの金額が正しいかではなく、各手法が示すリスクの質を読み解くことです。
取引事例比較法より収益還元法が低い場合、家賃水準が下落傾向にあることを示唆します。逆に原価法が突出して低ければ、設備の老朽化が深刻で修繕コストが膨らむ可能性を示します。複数手法の差異を分析することで、リスクの所在が可視化できるわけです。
実例で見る査定額のギャップ
実は、査定額の差は地域特性によってさらに拡大します。日本不動産研究所の2025年調査では、地方都市では取引事例比較法と収益還元法の開きが平均15%だったのに対し、東京23区では7%にとどまりました。これは地方の賃貸需要が人口動態の影響を強く受けるため、将来収益を重視する収益還元法が低めに査定する傾向があるからです。
一方で再開発が進むエリアでは、原価法の評価が上振れするケースが報告されています。新築同等の需要が高まり、再調達価格が上昇するためです。ただし、この評価を鵜呑みにして修繕計画を怠ると、築古特有の設備故障でキャッシュフローが崩れる危険があります。
このように、査定差をエリア特性と絡めて分析することで、購入後のリスク管理策が具体化できます。家賃下落に備えて家具付き短期賃貸を視野に入れる、もしくは修繕積立を初年度から厚めに計上するといった対策が立てやすくなるはずです。
2025年度の金融機関が重視する査定ポイント
ポイントは、金融機関が三手法のハイブリッド査定を採用していることです。2025年度から多くの地方銀行が「事例比較70%+収益還元30%」の加重平均で担保評価を算出し、原価法を建物劣化診断のスクリーニングに使う方式へ移行しました。
この結果、家賃下落リスクに強い物件ほど評価が安定し、頭金10%でもフルローンに近い融資が通るケースが増えています。逆に、表面利回りだけ高くても周辺事例が乏しい物件は評価が伸びず、自己資金20%以上を求められる傾向です。
投資家としては、購入前に自分でも加重平均を試算し、金融機関の目線を先回りしておくと交渉がスムーズになります。また、修繕履歴や長期修繕計画書を整えることで、原価法のリスク判定をポジティブに転換できる点も忘れないでください。
まとめ
本記事では、収益物件の価格を左右する「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」の仕組みと違いを解説しました。手法ごとの査定額の差は、家賃下落や修繕費といった将来的なリスクのサインでもあります。複数の査定を突き合わせ、そのギャップを読み解く姿勢こそが、高値づかみを防ぎ金融機関との交渉力を高める近道です。実際に物件を検討する際は、自らシミュレーションを行い、エリア特性や修繕計画を反映させた現実的な収支を確認しましょう。適正な査定を味方につければ、長期で安定したキャッシュフローを生む投資ポートフォリオを築けるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- レインズ(指定流通機構)成約価格データベース – https://www.reins.or.jp
- 日本不動産研究所 不動産投資家調査 2025年版 – https://www.reinet.or.jp
- 金融庁 地方銀行の不動産融資に関する報告書 2025年度 – https://www.fsa.go.jp
- 一般財団法人 建築コスト管理システム研究所 建築工事費デフレーター – https://www.bci.or.jp