不動産の税金

REIT任意売却で資産を守る戦略

住宅ローンの返済が苦しくなり、不動産を手放さざるを得ない――そんな状況に直面したとき、「任意売却」という選択肢が浮かびます。一方で、手元資金を減らさず不動産市場のリターンを取り込みたい人には「REIT(不動産投資信託)」が注目されています。本記事では、似て非なる二つのキーワードを整理しながら、2025年10月時点で有効な制度や市場データを交え、初心者でも理解できるように解説します。読み終えたとき、あなたは任意売却の実務とREITによる資産防衛の両方を俯瞰し、自分に合った行動プランを描けるはずです。

REITと任意売却、その違いと共通点

REITと任意売却、その違いと共通点のイメージ

まず押さえておきたいのは、REITと任意売却が不動産をめぐるまったく異なる場面で登場するという事実です。REITは多数の投資家から資金を集め、オフィスビルや物流施設などを購入して賃料収入を配当として分配する仕組みです。証券取引所に上場しているため、株式のように売買できる点が特徴となります。言い換えると、投資家は物件の所有権を直接持たず、流動性の高い金融商品を通じて不動産市場に参加しているのです。

一方、任意売却はローン返済が滞り、金融機関が競売手続きに入る前に債権者の同意を得て物件を売り抜ける手続きです。競売より高値で売れる可能性があるため、債務者・債権者双方にメリットが生まれやすいのが実情です。しかし、期限が限られ、買い手との交渉や利害調整が複雑になることが少なくありません。

重要なのは、直接保有と金融商品という違いがあるものの、どちらも不動産市況や金融環境の影響を強く受ける点では共通するということです。金利動向や地価の先行きが変われば、REITの価格も任意売却の成否も大きく左右されます。

任意売却が必要になるケースとREITの関係

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ポイントは、任意売却が個人や中小企業の資金繰りの最後の砦になる一方、REIT市場も間接的にその影響を受けるという連鎖です。総務省「家計調査」(2025年7月公表)によると、変動金利型住宅ローン利用者の約3割が金利上昇に不安を抱えています。2025年4月の日銀政策変更で長期金利が1%台に定着したことで、返済負担が増え、任意売却相談件数は昨年比12%増となりました(全国住宅ローン救済協会)。

こうした状況下で競売物件が増えると、市場全体の売り圧力が高まり、不動産価格が調整局面に入る可能性があります。J-REIT協会の統計では、底地価格が5%下落するとオフィス系REITのNAV(一口当たり純資産価値)が平均3%減少する試算が出ています。つまり、ローン破綻とREIT価格は直接ではなくても、地価を介して相関するわけです。

実は、任意売却で仕入れた物件をREITがポートフォリオに組み込むケースも増えています。売り手が早期現金化を優先する一方、REIT側は相対取引で割安に取得できる利点があります。このような二次流通の連鎖を理解しておくと、市場全体の動きを読むヒントになるでしょう。

任意売却のプロセスと注意点

まず押さえておきたいのは、任意売却には厳密なステップと期限があることです。住宅金融支援機構の資料によれば、返済遅延が3カ月続くと金融機関は「期限の利益」を喪失させ、競売申立ての準備に入るのが一般的です。このタイミングで動き出すかどうかが、最終的な手取り額を大きく左右します。

手続きは「債権者との交渉」「媒介契約の締結」「買主探索」「差押え解除」「決済」という流れです。交渉では残債務をいくら残すか、引っ越し費用を捻出できるかなど細部を詰めます。特に2025年度から導入された「住宅ローン再編支援ガイドライン」により、債務減免の合意プロセスが標準化され、金融機関が交渉に応じやすくなっています。期限は競売開始決定からおおむね4〜6カ月と短く、情報の非対称性が大きい点が難所です。

注意すべきは、任意売却の支援業者が乱立し、手数料や成功報酬が不透明な事例があることです。国土交通省は2025年6月、宅建業法の施行規則を改正し、媒介手数料以外の請求がある場合は事前書面で詳細を開示するよう義務付けました。依頼前に「宅地建物取引業者免許番号」「実績件数」「手数料総額」を確認し、複数社を比較することがリスクを下げるコツです。

REIT投資家が知っておきたいリスク管理

実は、REITを保有している投資家にとっても任意売却の動向は無関係ではありません。地価下落がREITの分配金に影響するだけでなく、テナント企業が資金難に陥れば賃料不払いが発生しうるからです。日本取引所グループの2025年9月データでは、物流系REITのテナント破綻率が1.2%に上昇し、前年同期の0.4%から大幅に悪化しました。背景には、円安と資材高による中小物流会社の経営悪化があります。

リスク管理で重要なのは「分配金利回りだけで銘柄を選ばない」ことです。物件取得価格と鑑定評価の乖離、LTV(ローン・トゥ・バリュー、借入比率)の推移、テナント分散度合いを総合的にチェックしましょう。LTVが50%を超えるREITは金利上昇局面で分配金の減少リスクが高まります。2025年10月時点で、東証REIT指数採用銘柄の平均LTVは45.3%ですが、個別には60%近い銘柄もあるため注意が必要です。

また、REITは株式市場と同じように価格変動リスクがありますが、直接保有と違い、投資単位を売却するだけで流動化できる利点があります。言い換えると、任意売却のように複雑な手続きを経ずに資金化できるため、資産全体の安全弁として保有比率を検討するとよいでしょう。

2025年度の制度と市場動向を踏まえた戦略

ポイントは、最新制度を味方につけながら、市況の変化に応じて行動を最適化することです。2025年度税制改正では、上場REITの配当控除枠が拡大し、年間10万円までなら総合課税での課税所得から控除できるようになりました(2025年1月施行、恒久措置)。一方、住宅ローン控除は段階的縮小が続き、2025年末入居分から控除率が0.5%となっています。返済負担が重くなる局面では、任意売却を視野に入れざるを得ない人が増える可能性があります。

不動産価格については、国土交通省「地価LOOKレポート」(2025年第2四半期)で三大都市圏の業務地が前期比0.9%の上昇にとどまり、地方圏は0.4%下落に転じました。これに伴い、競売物件の落札率は前年同期比で7ポイント低下しています。つまり、市場全体がピークアウトする兆しが見え始め、買い手優位の交渉が増える局面です。

投資家としては、直接保有を縮小しREITにシフトすることで流動性リスクを抑えつつ、配当控除のメリットを享受する戦略が考えられます。逆に、ローン返済が困難になった場合は、制度改正で整備された再編支援ガイドラインを利用し、早期に任意売却を進めることが資産を守る近道となるでしょう。

まとめ

本記事では、REITと任意売却を対比させながら、2025年10月時点の制度や市場データを踏まえて解説しました。任意売却は返済困難時の現実的な出口であり、手続きのスピードと専門家選びが鍵を握ります。一方、REITは流動性と分散投資のメリットがあり、金利上昇局面でも柔軟に資産配分を見直せる点が強みです。市場が不透明なときほど、直接保有と金融商品を組み合わせ、制度改正の恩恵を逃さない行動が重要になります。いまの状況を客観的に把握し、早めに専門家へ相談することで、あなたの不動産資産はより強固なものになるでしょう。

参考文献・出典

  • 国土交通省 地価LOOKレポート 2025年第2四半期 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001673215.pdf
  • 日本取引所グループ 東証REIT指数統計 2025年9月 https://www.jpx.co.jp/markets/indices/j-reit
  • J-REIT協会 市場動向レポート 2025年7月 https://www.j-reit.jp/report
  • 総務省 家計調査 2025年7月 https://www.stat.go.jp/data/kakei/
  • 住宅金融支援機構 住宅ローン再編支援ガイドライン 2025年版 https://www.jhf.go.jp/guide/saien
  • 国土交通省 宅建業法施行規則改正概要 2025年6月 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/real_estatelaws

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