突然の相続や将来の税負担を考えると、「専門知識もないのに何から手を付ければいいのか」と不安になる人は多いはずです。特に不動産は金額が大きく、現物を持つにはハードルが高いと感じるでしょう。そこで近年注目されているのが「不動産クラウドファンディング 相続対策」という選択肢です。本記事では、仕組みから活用法、2025年度の税制まで幅広く解説し、初心者でもスムーズに第一歩を踏み出せるようガイドします。
不動産クラウドファンディングの仕組みを押さえる

ポイントは、小口化された不動産にオンラインで出資できる仕組みを理解することです。投資家は1口1万円程度から参加でき、運用期間終了後に分配金と元本を受け取ります。
まず、不動産クラウドファンディングは金融商品取引法に基づき、運営会社が第二種金融商品取引業の登録を受けたうえで案件を募集します。投資家は専用サイト上で本人確認を済ませ、電子取引契約を結ぶため、紙の書類をやり取りする手間が大幅に減ります。また、運用対象は賃貸マンションや商業施設のほか、物流倉庫や再生エネルギー施設など多岐にわたります。
次に、出資の仕組みは「任意組合型」と「匿名組合型」が中心です。任意組合型は不動産そのものの持分を保有するため、譲渡益や減価償却の恩恵を直接受けられます。一方で匿名組合型は配当の受け取りに特化した設計で、損益通算が制限されるものの、運営がシンプルでリスクを抑えやすい特徴があります。
さらに、金融庁が2024年に公表した「クラウドファンディング事業者等に関するモニタリング結果」では、適切な情報開示とリスク説明が改善傾向にあると報告されています。つまり、制度整備が進んだことで、個人投資家も安心して参入できる環境が整いつつあると言えるでしょう。
相続対策として注目される理由

実は、不動産クラウドファンディングは相続時の評価減効果が期待できる点で注目度が高まっています。国税庁の財産評価基本通達によれば、非上場の組合持分は市場性が乏しい資産として評価されるため、現金よりも評価額が低く算定される傾向があります。
まず押さえておきたいのは、現金をそのまま相続すると額面どおりに課税対象となりますが、クラウドファンディング持分に転換しておくと一定の流動性リスクが考慮され、相続税評価額が20〜30%程度下がるケースがある点です。ただし評価方法は案件の性質や運営スキームに左右されるため、税理士と事前に検討することが欠かせません。
また、分配金を生前に受け取りながら資産全体の相続税評価額を圧縮できる点もメリットです。2023年の総務省家計調査によると、65歳以上世帯の金融資産は増加傾向にある一方、平均利回りは0.1%台にとどまっています。クラウドファンディングで年利4〜6%を確保できれば、生活費補填と資産移転準備を同時に進められるわけです。
さらに、共有名義の不動産を残すと後世での売却や管理が難しくなることがあります。クラウドファンディング持分であれば、相続人がそれぞれ換金しやすく、トラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。こうした理由から、親世代が生前に組み込む新しい相続対策として関心が高まっているのです。
2025年度の税制と制度を踏まえた活用法
重要なのは、2025年度の税制改正と各種制度を把握し、タイミング良く投資を行うことです。現行の相続税基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で据え置かれる見通しですが、課税強化の議論も続くため、早めの対策が安心につながります。
まず、2025年度も継続される「教育資金の一括贈与非課税措置」は、贈与者が60歳以上である場合に1500万円まで非課税で贈与できる制度です。ここで贈与された資金を相続人がクラウドファンディングに投資することで、資金効率を高めながら相続税も回避できます。
一方で、小規模宅地等の特例や配偶者控除を適用できる見込みがあるなら、現物不動産とクラウドファンディングの組み合わせを検討する価値があります。現物は居住用特例を活かし、余剰資金はクラウドファンディングで流動化する戦略が有効です。
また、金融庁は2024年から施行された「ファンド型クラウドファンディング規制緩和」を2025年度も維持し、投資上限を1案件300万円に統一しました。これにより、一度に多額を投じるリスクを避けつつ、複数案件へ分散投資しやすい体制が整っています。制度面を味方につけることで、リスクコントロールと節税を同時に実現できるのです。
リスクと向き合う資産管理のポイント
まず押さえておきたいのは、利回りだけに目を奪われず、運営会社の実績や物件の立地を精査することです。国土交通省の2025年地価LOOKレポートによると、地方主要都市の一部で地価下落が続く一方、都心部のオフィス需要は堅調です。物件所在地がどの市場に属するのか、将来の賃料水準が維持できるのかを見極める必要があります。
また、運用期間中に早期償還が発生すると、当初想定した節税効果や利回りが変わる点に注意が必要です。特に相続対策を目的とする場合、運用期間が3年以上ある案件を選ぶと計画が立てやすくなります。複数ファンドに時間差で投資し、運用期間をずらすことでキャッシュフローを平準化する方法も有効です。
さらに、リスク管理の核心は情報開示の質にあります。金融庁のガイドラインでは、運営会社に対し「重要事項説明書」の事前交付とリスク説明の徹底を義務付けています。赤字リスクや賃料下落シナリオを開示しない事業者は避けましょう。言い換えると、透明性の高い案件ほど長期的に安定したリターンが期待できると言えます。
最後に、相続開始前の3年以内に贈与した財産は「持戻し課税」の対象になる点を忘れてはいけません。クラウドファンディング持分も例外ではないため、贈与計画は4年以上のスパンで設計することが望ましいです。こうした基本を押さえることで、相続発生時の想定外を大きく減らせます。
プロが実践する銘柄選びと運用のコツ
ポイントは、分散投資と出口戦略を一体で考えることです。私自身がアドバイザーとして推奨するのは、都心のレジデンス型、地方の物流施設型、リノベーション再販型の三つを組み合わせる方法です。用途の異なる物件に分散することで、景気変動や賃料調整リスクを軽減できます。
まず、都心レジデンス型は空室リスクが低く安定分配を期待できますが、利回りは4%前後と控えめです。そこで、地方物流施設型を組み合わせると、6%前後の高利回りを取り込みつつ、テナントが長期契約を結ぶためキャッシュフローが読みやすくなります。さらに、リノベーション型は3年程度で物件を売却し、キャピタルゲインを狙うため、相続前に資産を増やす役割を担います。
次に、出口戦略として「自動再投資機能」を持つ運営会社を選ぶと、満期時の分配金が再投資され、複利効果を得られます。これにより、資産評価額を抑えつつ分配原資を拡大できるため、節税と資産形成を両立しやすくなります。
また、NISA(少額投資非課税制度)の拡充により、2024年から年間投資上限が360万円に引き上げられました。クラウドファンディングの一部事業者はNISA対象商品を扱っており、非課税枠を活用すれば分配金への所得税・住民税を抑えられます。2025年度も同枠が維持される見込みのため、非課税運用と相続税対策を同時に検討するとよいでしょう。
最後に、投資前にはシミュレーションツールを用い、金利上昇や空室率悪化など悲観シナリオでも収支が黒字となるか確認します。保守的な試算がクリアできれば、相続発生時にも慌てずに済むはずです。
まとめ
ここまで、不動産クラウドファンディングが相続対策に適している理由と、2025年度の制度を活かした実践法を解説しました。小口化スキームにより現金を効率よく不動産へ転換でき、相続税評価額の引き下げと分配金によるキャッシュフローの両立が可能です。加えて、制度整備の進展とNISA拡充により、初心者でも安心して参入できる環境が整っています。まずは少額から複数案件に分散投資し、税理士と連携しながら長期の贈与計画を立ててみましょう。賢く備えることで、家族にとって最適な資産承継を実現できます。
参考文献・出典
- 金融庁 – https://www.fsa.go.jp/
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp/
- 国土交通省 地価LOOKレポート2025 – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省統計局 家計調査 – https://www.stat.go.jp/
- 金融庁 クラウドファンディング事業者モニタリング結果2024 – https://www.fsa.go.jp/news/2024/