自宅ローンや教育費を抱えつつも「少額で不動産に投資したい」と考える人が増えています。しかし物件を丸ごと買うとなると数千万円単位の資金が必要で、融資審査や管理の手間も重くのしかかります。そこで注目されるのが、不動産クラウドファンディングです。一口1万円前後から参加でき、運営会社が賃貸管理や売却を代行してくれるため、忙しい会社員でも手軽に家賃収入に近いリターンを狙えます。本記事では「不動産クラウドファンディング 何を 始め方」という疑問を軸に、制度の概要からサイト選び、実践ステップ、運用のコツまでを丁寧に解説します。
不動産クラウドファンディングとは何か

まず押さえておきたいのは、クラウドファンディングが「インターネット上で多数の出資者から小口資金を集める仕組み」だという点です。不動産クラウドファンディングはその不動産版で、「不動産特定共同事業法」(以下、不特法)に基づく電子取引型に分類されます。運営会社が物件を選定し、出資者はオンラインで出資契約を結ぶことで、家賃収入や売却益を分配金として受け取れます。
重要なのは、投資家が直接登記上のオーナーになるわけではない点です。不特法上の「匿名組合契約」や「任意組合契約」を通じ、運営会社が管理者として所有権を保持します。そのため修繕交渉やテナント対応といった煩雑な業務は運営会社側が行い、投資家は成果配分のみを受け取る形です。運用期間は半年から3年程度が主流で、途中解約は原則不可となるケースが多いので、資金拘束の長さを必ず確認しましょう。
国土交通省の2025年7月公表データによると、不特法に基づく電子取引事業者は全国で113社に達し、年間募集総額は約960億円と前年比32%増となりました。平均利回りは年4.2%前後で、低金利の銀行預金や国債より高く、J-REITとほぼ同水準です。一方で元本保証はないため、入居率の悪化や想定より低い売却価格になった場合、分配金が減ったり損失が出たりする可能性がある点も忘れてはいけません。
法制度とリスクを冷静に把握しよう

ポイントは、不特法と金融商品取引法の2つが同時に適用される点にあります。不特法は物件取得から運用までの実務を規定し、金融商品取引法はインターネット勧誘や契約締結前交付書面のルールを定めます。2025年度も両法の改正は予定されておらず、オンライン完結型の募集が正式に認められた現行制度が継続見込みです。
リスクは大きく分けて「物件リスク」「運営会社リスク」「市場リスク」の3つです。物件リスクとは、空室や家賃下落によって想定利回りが低下するケースを指します。運営会社リスクは、会社の財務基盤が弱かったり、募集案件が集中して資金繰りが悪化したりする場合です。市場リスクは、金利上昇や景気後退による不動産価格の下落が該当します。
実は、2025年10月時点で投資家保護を強化する仕組みも整っています。代表的なのが「マスターリース(一定賃料保証)型案件」の増加で、家賃想定が甘く見積もられていた場合でも運営会社が一定水準の賃料を保証する方式です。ただし保証期間終了後は市況連動となるため、説明書面の但し書きを必ず確認しましょう。また、金融庁は「クラウドファンディング業者向けモニタリング」を継続実施しており、2024年度以降に行政処分を受けた業者は3社にとどまります。監督体制が年々整備されているとはいえ、自衛策として運営会社の有価証券報告書や第三者監査報告をチェックする習慣を身につけることが大切です。
サイトを選ぶときに見るべき3つの指標
重要なのは、利回りの数字だけでなく「募集方式・優先劣後構造・運営実績」を総合的に比較することです。まず募集方式には「エクイティ型」と「ローン型」があり、エクイティ型は物件売却益も分配対象になる一方、ローン型は年利固定で債権者として優先弁済を受けられます。投資目的がインカム重視ならエクイティ型、短期で利息を狙うならローン型が向いています。
次に優先劣後構造です。一般的に、劣後出資比率が20%以上なら投資家(優先出資者)は元本棄損リスクをある程度軽減できます。2025年時点で国内大手6社の平均劣後比率は25.7%で、3年前より5.4ポイント上昇しました。これは運営会社自身がリスクを負担し、投資家保護を強める動きが広がっているからです。
さらに運営実績は「累計調達額」「償還済み件数」「元本割れ件数」の3項目で判断します。不動産クラウドファンディング協会の統計では、設立3年以上かつ償還済み30件以上の業者で元本割れが生じた案件は、2025年上期までで全体の1.8%にすぎません。とはいえ、単一物件に集中投資するとリスクは高まります。複数サイトを使い、エリアや物件タイプを分散することで安定度が向上します。
実際の始め方と5つのステップ
まず押さえておきたいのは、口座開設から運用開始までの流れが証券口座に近いという点です。以下のステップを踏めば、最短2週間ほどで初回投資が可能です。
- 会員登録と本人確認書類の提出
- 審査完了後の口座開設通知受領
- 案件の募集要項とリスク説明書の確認
- 指定口座へ出資金を振込
- 運用開始メールの受領とマイページでの進捗確認
各ステップでの注意点を順に見ていきましょう。
まず会員登録では、運転免許証とマイナンバー確認書類の提出が必須です。電子署名が行われるため、スマートフォンで撮影した画像が不鮮明だと審査が遅れることがあります。審査完了後に届くハガキは、金融商品取引法に基づく「転送不可郵便」です。登録住所と現住所が一致しない場合はあらかじめ変更しておきましょう。
案件選定では、利回りだけでなく「運用期間」と「配当頻度」を確認します。運用期間が6カ月なら資金流動性は高いものの、再投資の手間が増える点に注意が必要です。配当頻度は年2回が主流ですが、四半期ごとに分配するサイトもあります。自分のキャッシュフロー計画に合わせて選択しましょう。
運用開始後は、マイページで「予定分配率」「入居率」「IRR(内部収益率)」の更新情報をチェックします。万一、運営会社から「物件売却先が見つからず運用延長予定」と通知があった場合、やむを得ず運用期間が延びる可能性があります。延長幅は3カ月から1年まで案件ごとに異なるため、初回説明書面を再確認して対応方針を決めてください。
運用を長期的に成功させるコツ
実は、分配金を受け取った後の再投資戦略が総合リターンを大きく左右します。分配金を銀行口座に戻すのではなく、同一プラットフォーム内の自動再投資機能を使うと、複利効果が働き効率的です。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、地方圏の人口減少が今後も続く見通しですが、政令指定都市の中心部は相対的に人口が維持されると予測されています。したがってエリアを分散しつつ、中心部の築浅レジデンスを柱にポートフォリオを組むと安定しやすいでしょう。
一方で、2025年度税制ではクラウドファンディング投資に直接的な優遇制度はありません。ただし「新NISA」の成長投資枠で上場J-REITを保有し、不動産クラウドファンディングを上乗せする形で資産全体のリスクを調整する方法は有効です。資産全体のリスク許容度を把握するため、年1回は家計のバランスシートを作成しましょう。
出口戦略としては「運用終了後の資金再配置」をあらかじめ決めておくことが大切です。物件が想定より高い価格で売却され元本超過益が出た場合、同じ物件タイプに再投資すると、市況の天井をつかむリスクがあります。総務省の家計調査(2025年版)によれば、個人金融資産のうち現預金比率は53.4%と依然高いため、相場が過熱気味の際は一部を現金に戻して機動力を確保する判断も必要です。
まとめ
本記事では、不動産クラウドファンディングの仕組みとリスク、サイト選びの指標、具体的な始め方、そして運用を成功に導くコツまでを解説しました。元本保証はないものの、1万円から始められ、管理の手間も最小限という利点は大きいと言えます。まずは複数サイトで少額ずつ試し、自分に合った運用スタイルを見極めてください。安定したキャッシュフローを得ながら学びを重ねれば、将来的には自己資金を貯めて実物不動産やJ-REITへのステップアップも見えてきます。今日できる行動は、気になる運営会社の資料請求と無料会員登録です。小さな第一歩が、将来の大きな資産形成につながります。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産・建設経済局 「不動産特定共同事業の現況(2025年版)」 – https://www.mlit.go.jp/
- 金融庁 「クラウドファンディングに関する監督指針」 – https://www.fsa.go.jp/
- 不動産クラウドファンディング協会 「市場動向レポート2025」 – https://www.rfa.or.jp/
- 総務省統計局 「家計調査年報2025」 – https://www.stat.go.jp/
- 日本銀行 「資金循環統計(2025年第2四半期)」 – https://www.boj.or.jp/