不動産投資を始めたいものの、もし自分に万一のことがあったら家族はどうなるのか――そんな不安を抱える人は少なくありません。実は、団体信用生命保険(以下、団信)付きの不動産投資ローンを活用すれば、債務が残らず資産だけが家族に引き継がれる仕組みを作れます。本記事では、筆者が15年間の実務で接したリアルな体験談を交えながら、団信の基礎とローン選びのポイントをわかりやすく整理します。読むことで、投資家自身のリスク管理に役立つ具体策が見え、安心して最初の一歩を踏み出せるはずです。
団信と不動産投資ローンの仕組みを整理しよう

まず押さえておきたいのは、団信が「借入残高ゼロ化」を実現する保険だという点です。住宅ローンと同じく、不動産投資ローンにも団信を付帯でき、契約者が死亡または高度障害になった場合、保険金でローンが完済されます。つまり家族はローン返済から解放され、賃料収入付きの不動産だけが残るわけです。全国銀行協会の2025年調査によると、投資ローン利用者の約72%が団信の付帯を「必須」と回答しており、もはや標準的なリスクヘッジ手段となっています。
次に金利への影響を見てみましょう。2025年10月時点で主要行の変動金利は1.5〜2.0%、10年固定は2.5〜3.0%が目安です。団信保険料は金利に組み込まれる形式が一般的で、上乗せ幅は年0.1〜0.3%程度にとどまります。年間コストが大きく跳ね上がらない一方、リスク低減効果は極めて大きいため、費用対効果は高いといえます。また、特約でがん団信や三大疾病団信を選べば、治療による就業不能リスクにも備えられますが、保険料上乗せ幅は0.2〜0.4%ほど増える点を認識しましょう。
最後に団信を付けるか否かで投資戦略は変わります。自己資金が潤沢で家族への保障が不要な場合は、団信なしで低金利を追求する方法もあります。しかし、少額自己資金でフルローンを組むなら、団信によるリスク移転が生命線となります。言い換えると、家族構成や資産状況を総合的に勘案して、保険料と保障のバランスを取ることが大切です。
体験談1:30代会社員Aさんが得た「もしもの安心」

ポイントは、団信が精神的負担を軽減し長期保有を後押しすることです。東京都内で区分マンションを初購入したAさん(35歳・会社員)は、物件価格2,800万円のうち頭金300万円を入れ、残りを35年ローンで借りました。金利は変動1.8%、団信込みの条件で、毎月の返済額は約9万3,000円です。
購入当初、Aさんは「長期返済が怖い」と感じていました。しかし不動産会社から「万一時にローン残高がゼロになる」と説明を受け、団信の重要性を実感したといいます。実際、購入後に第一子が誕生し、子育て費用の増加でキャッシュフローが圧迫されました。けれども「自分に何かあっても家族は家賃収入を得られる」という安心感が、長期保有の決断を支えました。
さらに、返済開始から3年目に金利が0.3%下がったタイミングで、Aさんは借り換えを検討しました。団信付きのまま低金利に変更し、返済額を月8万7,000円に抑えることに成功。空室が2カ月続いた際にも、予備資金と家族の理解で乗り切れたと語っています。このように、精神的ゆとりが短期的な市場変動への耐性を高め、結果的に収益を安定させる好循環を生みました。
体験談2:法人融資B社長が痛感した「特約の落とし穴」
重要なのは、団信の保障範囲を正しく理解することです。都内で小規模不動産会社を営むB社長(42歳)は、法人名義で一棟アパートを取得しました。物件価格1億5,000万円に対し、自己資金2,000万円を入れ、残りは20年ローンで調達。契約時に「法人融資は団信が付けられない」と説明を受けたものの、支店独自の信用保証付き商品なら加入可能と聞き、追加金利0.25%で三大疾病特約付き団信を選びました。
ところが翌年、軽度の脳梗塞で一時入院した際、保険金が下りずに返済を続ける事態となりました。契約書を読み返すと「後遺症が残る高度障害」の場合のみ保険金支払と明記されていたのです。B社長は「病気=返済免除」と早合点していたことを悔やみました。その後、団信内容を最重視して別銀行へ借り換えを実施し、脳梗塞・がん・心筋梗塞発症で所定の就業不能状態が60日続けば保険金が下りるタイプに変更。上乗せ金利は0.15%増えましたが、「リスクを勘定すると安い」と語っています。
このケースが示すのは、団信に付随する「支払条件」の確認が不可欠だという事実です。特約名が同じでも、発症段階や要介護等級によって保険金の可否が変わるため、必ず約款を読み込み、保険会社へ直接質問する姿勢が欠かせません。
団信付きローンを選ぶ際のチェックポイント
まず、商品選定では「保障範囲」「金利上乗せ幅」「融資期間」の三要素を総合比較しましょう。金融機関ごとに団信の種類が異なるため、複数行へ同じ条件で仮審査を出すことが基本です。特にネット専業銀行は事務手数料が安い一方、三大疾病団信が必須で選択肢が少ない場合があります。一方、都市銀行は金利はやや高めですが、がん単独団信やワイド団信(持病対応)まで幅広くそろっています。
次に、投資計画と保障期間の整合性を確認します。たとえば、出口戦略として10年後の売却を想定しているなら、固定10年の商品で団信を組み込む方が金利変動リスクを抑えられます。また、融資期間を長く設定し過ぎると総支払利息が膨らむため、キャッシュフロー表を作成し「15年で自己資金回収→20年で完済」など具体的な数値目標を置きましょう。
最後に、団信は「申し込み時の健康状態」が審査対象になる点を忘れないでください。健康診断で再検査中の場合は、結果が出るまで申込を延期すると、ワイド団信を選ばずに済む可能性が高まります。つまり、物件探しと並行して自分の健康管理を行うことも、立派な投資準備なのです。
2025年度の金利動向と今後の戦略
実は、団信コストは金利情勢に連動して変化するため、 macroな視点も必要です。日本銀行の2025年金融システムレポートによれば、長期金利は緩やかな上昇局面にあるものの、住宅・投資ローン金利は金融機関間の競争で抑制傾向にあります。全国銀行協会の統計では、投資ローン平均金利は前年同月比で0.05%低下し、団信上乗せ幅も横ばいです。したがって、今は「低金利+充実団信」が両立しやすい環境といえます。
加えて、2025年度の税制では不動産所得と給与所得の損益通算に大きな変更はなく、減価償却による節税効果は継続しています。金融庁も融資総量規制を強化しておらず、健全な借入計画を立てれば、複数物件を段階的に買い進める戦略が取りやすい状況です。ただし、今後3年間で長期金利が1%上昇すると、月々の返済額が8〜10%増える試算もあります。空室リスクと金利上昇リスクのダブルパンチを想定し、返済比率を家賃収入の50%以内に抑える設計が望ましいでしょう。
ポイントは、余裕資金ができた段階で繰り上げ返済を検討し、ローン残高を早めに圧縮することです。残高が減れば団信対象も減るため、途中で「保険料軽減プラン」へ切り替えられる銀行もあります。柔軟に仕組みを見直し、低金利期はフル活用し、高金利期には負債を縮小する。これこそが、団信付き不動産投資ローンを最大限に生かす王道戦略といえるでしょう。
まとめ
本稿では、団信付き不動産投資ローンの仕組みとリアルな体験談を通じ、安全網としての価値と選び方を解説しました。重要なのは、保障範囲を理解し、金利・期間・健康状態を総合的に勘案して商品を選ぶ姿勢です。家族への責任を果たしつつ資産形成を加速させるには、団信という保険機能をローン戦略に組み込むことが欠かせません。まずは複数銀行へ仮審査を取り、具体的な金利と団信条件を比較する行動から始めてみてください。安心を味方につけた投資は、きっと長期にわたりあなたと家族の未来を支えてくれるはずです。
参考文献・出典
- 全国銀行協会 – https://www.zenginkyo.or.jp
- 日本銀行「金融システムレポート 2025年上期」 – https://www.boj.or.jp
- 国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」 – https://www.mlit.go.jp
- 金融庁「2025年度金融行政方針」 – https://www.fsa.go.jp
- 不動産経済研究所「首都圏投資用マンション市場動向2025」 – https://www.fudousankeizai.co.jp