地方でも都心でも、家計を圧迫しない範囲で「アパート経営」に挑戦したい読者は多いでしょう。しかし、少額の自己資金で参入すると、融資条件や家賃設定のわずかな差が収益を大きく左右します。本記事では、筆者自身の体験談を交えつつ、2025年時点の最新データをもとに「家賃設定の具体的な手順」と「少額投資家でも使える支援策」を解説します。読み終えるころには、家賃をいくらに設定すべきか、そして小さな一歩をどう踏み出すかがクリアになるはずです。
少額でも始められるアパート経営のリアル

重要なのは、初期費用を抑えつつも想定外の支出に耐えられる余裕を確保することです。筆者が最初に購入した木造2階建て5戸のアパートは、物件価格1,600万円、自己資金350万円でした。購入時点で築20年と古めでしたが、地方銀行の長期固定金利1.9%を利用し、月々の返済はおよそ6万2,000円です。管理費や修繕費を合計すると毎月1万5,000円ほど上乗せされ、合計支出は7万7,000円になります。
一方、家賃収入は5戸満室で計12万円でした。手残りは毎月約4万3,000円と見込み、当初は順調に推移しました。ただし、国土交通省住宅統計によると、2025年8月の全国アパート空室率は21.2%で、油断は禁物です。筆者の物件でも半年後に1戸が退去し、家賃収入は一気に9万6,000円へ減少しました。結果として、毎月の手残りは1万円台に縮小し、修繕費が発生した月は赤字に転落したのです。
つまり、少額投資では予備資金の厚みと家賃設定の精度が生命線になります。購入直後に満室でも、1戸空くだけで収支が崩れることを想定し、運営スタート時点で50万円程度の予備費を別口座に置くよう強く推奨します。
家賃設定の考え方と市場分析

まず押さえておきたいのは、家賃は「周辺相場」「物件スペック」「ターゲット層」の三つを軸に決定するという点です。相場を理解せずに強気の設定をすると長期空室を招き、逆に安すぎると利回りが下がります。筆者は物件購入直後、リフォームに60万円を投入し、キッチンと床を一新しました。その結果、周辺相場4万円に対し4万2,000円で募集しても問い合わせが途切れませんでした。
しかし、実は賃料を上げるタイミングが難関です。既存入居者への告知方法を誤れば退去リスクが高まり、空室率の上昇で元も子もなくなります。筆者が2年目に家賃を2,000円値上げした際は、退去予告が2戸同時に発生し、一時的に空室率40%という危機に陥りました。反省点として、周辺相場の再調査を怠り、ファミリー向け新築マンションが近隣に供給された事実を見逃していたのです。
ポイントは、家賃設定を年1回必ず見直し、国土交通省の賃貸住宅市場データや地元不動産会社のヒアリングを併用して「5,000円刻み」で想定賃料帯を試算することです。さらに、敷金礼金やフリーレントの有無で実質家賃を調整し、ライバル物件と比較して「家賃+初期費用の総額」で競争力を測ると失敗が減ります。
私の体験談に学ぶ家賃設定の失敗と修正
実際に筆者が直面した最大の失敗は、「家賃を下げる決断が遅れた」ことでした。空室が3カ月続いたとき、周辺オーナーから「単身者向けニーズが弱い」と耳打ちされていたにもかかわらず、家賃4万円を維持したまま様子を見てしまったのです。結果的に、合計12万円の機会損失を計上し、キャッシュフローが一時マイナスへ転落しました。
そこで、ターゲットを社会人から学生に切り替え、室内にWi-Fiルーターを設置し、家賃を3万8,000円に改定しました。さらに、礼金ゼロ・フリーレント1カ月を導入したところ、募集開始から2週間で満室に戻りました。年間収益は減少しましたが、空室リスクが下がり、トータルのキャッシュフローは安定化しました。言い換えると、家賃は「高く取るより空室を埋め続ける」視点で調整する方が、少額投資家の精神的負担を軽減します。
また、退去立会い時に次の入居者像をヒアリングする習慣も有効でした。退去理由が「駅遠で通勤が大変」と判明したときは、駐輪場に屋根を設け、駅までのバス時刻表を掲示しただけで、家賃を下げずに新規入居が決まった例もあります。小さな改善でも、ターゲットが納得する価値を追加できれば、家賃維持が可能になるのです。
少額投資家が使える2025年度の支援策と注意点
まず知っておきたいのは、2025年度の住宅省エネ改修補助金です。賃貸住宅でも外壁断熱や高効率給湯器の導入に対し、工事費の3分の1、上限120万円まで補助されます(期限:2026年3月交付申請)。筆者は窓断熱フィルムとLED照明をセットで実施し、入居者アンケートで光熱費削減をアピールすることで、周辺相場より1,000円高い家賃を維持できました。
また、地方自治体によっては空き家活用補助金をアパートにも拡大しているケースがあります。例えば、長野県松本市では2025年度、耐震改修を伴う賃貸化に対し最大200万円を交付しています。こうした制度は予算上限に達すると終了するため、計画段階で市役所に問い合わせ、申請要件とスケジュールを確認しておくことが不可欠です。
一方で、補助金ありきでキャッシュフローを設計すると危険です。申請書類の不備で交付が翌年度にずれ込むと、予定外の自己資金が必要になります。まず自己資金で耐えられる計画を作り、補助金は「プラスアルファの保険」と位置づけましょう。
まとめ
家賃設定はアパート経営の成否を握る最重要ポイントです。周辺相場を定点観測し、ターゲットと物件の強みをすり合わせることで、少額投資でも安定したキャッシュフローを実現できます。空室が出たら素早く家賃と付帯サービスを見直し、補助金は計画に組み込みすぎない姿勢が安全です。行動として、まず最寄りの不動産会社で賃料査定を取り、次に自治体の補助制度を確認する――この二段階を1週間以内に実行してみてください。小さな一歩が将来の大きな収益につながります。
参考文献・出典
- 国土交通省住宅統計調査 2025年8月速報 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査 2024年版 – https://www.stat.go.jp
- 独立行政法人住宅金融支援機構 2025年度ローン金利動向 – https://www.jhf.go.jp
- 環境省 2025年度 省エネ改修補助金概要 – https://www.env.go.jp
- 松本市公式サイト 空き家活用補助金 2025年度版 – https://www.city.matsumoto.lg.jp