不動産投資を始めるとき、多くの人が「変動金利と固定金利のどちらを選ぶべきか」で立ち止まります。金利ひとつで毎月の返済額が大きく変わるのに、数年先の経済情勢を正確に読める人はほとんどいません。そこで本記事では、金利の仕組みから資金計画への影響、2025年12月時点の市場データまでを丁寧に整理します。読み終えたとき、あなたは自分の投資目的とリスク許容度に合わせた最適な選択肢を描けるようになるでしょう。
変動金利の仕組みと特徴

まず押さえておきたいのは、変動金利が短期金利を基準に半年ごと見直される点です。全国銀行協会の2025年12月データによると、主要行の変動タイプは年1.5〜2.0%のレンジで推移しています。低いスタート金利が魅力で、返済初期のキャッシュフローを厚くできるのが最大の利点です。
一方で、金利上昇局面では返済額が増加します。金融機関には「5年ルール」「125%ルール」と呼ばれる返済増加抑制措置がありますが、それでも総返済額は長期的に不透明です。つまり、変動金利を選ぶ投資家は、金利上昇リスクをどこまで許容できるかを常に確認する必要があります。
実際にシミュレーションしてみると、3,000万円を元利均等35年、変動1.6%で借りた場合の初回返済額は月9万3,000円前後です。仮に5年後に金利が0.5ポイント上がれば、同じ残高でも月々の返済は約1万円増えます。家賃の下落や空室が重なるとキャッシュフローは急速に悪化するため、預貯金や家賃保証などバックアップ策をセットで検討することが重要です。
固定金利のメリットとリスク

ポイントは、固定金利が長期金利を基準に契約時の金利を完済まで固定する点にあります。2025年12月時点で代表的な10年固定は2.5〜3.0%で、変動より1%前後高いのが一般的です。この差は初期返済額の重さにつながりますが、その見返りとして返済計画を確実に描ける安心感を得られます。
例えば同じ3,000万円を金利2.7%、35年で借りると初回返済は月10万9,000円程度です。変動との差は約1万6,000円ですが、金利上昇を織り込んだ“保険料”だと考えれば理解しやすいでしょう。特に長期保有を前提に年金代わりのインカムゲインを狙う投資家に向いています。
ただし、固定金利は途中で金利が下がっても返済額は変わらず、借換えには諸費用がかかります。また、長期固定ほど金利が高いため、短期売却によるキャピタルゲインを狙う戦略とは相性が悪いケースもあります。つまり、出口戦略が定まっていない段階で固定に飛びつくと、かえって機会損失を招くこともあるのです。
金利差がキャッシュフローに与える影響
重要なのは、金利選択が毎月のキャッシュフローだけでなく、将来の自己資本比率にも波及することです。変動1.6%と固定2.7%の差は1.1ポイントですが、35年間の総支払利息では400万〜500万円に膨らむケースが珍しくありません。
収支シミュレーションを行う際は、家賃下落率や空室率も同時に変化させることが欠かせません。たとえば、毎年家賃が1%ずつ下がるシナリオを組み入れると、変動金利で得た当初の余裕が数年で消える場合もあります。一方、固定金利なら返済額が一定のため、家賃調整が計画しやすく、中期的な修繕費の積立てがスムーズになります。
さらに、自己資本比率(Equity Ratio)の改善ペースにも差が出ます。返済額が少ない変動金利は元本返済がゆるやかになりやすく、結果として債務残高が長期間高く残る傾向があります。固定金利で返済額が大きい場合、元本の減りも早まり、10年後の再評価時に借換え条件が有利になる可能性があります。キャッシュフローとバランスシートの双方を見比べる視点が欠かせません。
市場動向と金利選択の判断基準
実は、金利選択には個人のリスク許容度だけでなく、マクロ経済の動きを読む視点も求められます。日本銀行は2025年9月に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の上限をわずかに引き上げましたが、急激な金融引き締めには慎重な姿勢を維持しています。そのため短期金利は低位安定が続く一方、長期金利はゆるやかな上昇基調です。
こうした局面では、変動金利のメリットを享受しつつ、将来の金利上昇に備えて固定へ乗り換える「ステップアップ戦略」も有効です。具体的には、投資開始3〜5年で物件価値が上がり、家賃も安定してきた段階で借換えを行い、残債を固定金利にスイッチします。借換え費用は残高の2〜3%が目安ですが、長期で金利上昇を回避できれば総返済額はむしろ減るケースがあります。
また、物件タイプによっても適切な金利は変わります。築浅のワンルームは賃料の変動が小さいため変動金利と相性が良く、築古の一棟アパートは修繕リスクが読みにくいため固定金利で安定させる手法が一般的です。投資家自身の勤続年数や年収、将来のライフイベントも含め、複合的に判断することが成功への近道となります。
2025年度の制度・融資条件を活用する
まず押さえておきたいのは、2025年度現在、個人の賃貸用物件に適用できる明確な補助金は存在しない点です。そのため、ローン金利や諸費用の削減こそが実質的な“支援策”になります。金融機関によっては、環境性能の高い物件を取得する際に金利を0.1〜0.3ポイント優遇する「グリーン投資ローン(2025年度版)」を提供しています。優遇期間は原則5〜10年に限定されるため、途中で返済計画を見直す前提で活用するとよいでしょう。
また、2025年4月から始まった「電子契約原本保存制度」により、担保評価書や賃貸借契約の電子化が進みました。これに伴い、一部ネット銀行では融資手続きが完全オンライン化され、事務手数料が従来の半額程度に下がっています。固定・変動を問わず、借入コストを圧縮できるチャンスです。
さらに、日本政策金融公庫の「不動産賃貸業向け融資(2025年度)」は、創業5年以内または初めての投資家に対し、最長15年・年2.2%の固定金利を提供しています。銀行より期間が短い点がネックですが、審査が柔軟で自己資金1割でも利用しやすいメリットがあります。自己資本を厚く温存したい初心者にとっては魅力的な選択肢です。
まとめ
変動金利は低金利の恩恵を最大化できる一方で、将来の返済負担増という不確定要素を抱えます。固定金利はコストが高くても返済額がぶれない安心感があり、長期保有戦略と相性が良好です。そして2025年の市場環境は「短期低位・長期緩やか上昇」という混合状態にあるため、途中で借換えを視野に入れた柔軟なプランが有力になっています。あなたが取るべき行動は、まず自身の投資目的とリスク許容度を数値化し、それに合わせて複数の金利シナリオでキャッシュフローを試算することです。納得いくまで数字を検証すれば、金利の波に惑わされない堅実な投資への第一歩を踏み出せるでしょう。
参考文献・出典
- 全国銀行協会 – https://www.zenginkyo.or.jp
- 日本銀行「金融経済統計月報」 – https://www.boj.or.jp/statistics/outline/
- 国土交通省「土地総合情報システム」 – https://www.land.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫「融資制度ご案内」 – https://www.jfc.go.jp
- 総務省統計局「家計調査」 – https://www.stat.go.jp/data/kakei/