不動産投資を始めたばかりの方がまず悩むのは、「毎年どれほど税金がかかるのか」でしょう。せっかく家賃収入が入っても、高い税負担で手取りが減っては意味がありません。実は、建物や設備の価値を経年で費用計上できる減価償却を上手に使えば、課税所得を大幅に圧縮できます。本記事では、不動産投資で欠かせない減価償却の仕組みと最新の税制、さらに節税効果を引き出す具体的な方法を解説します。読後には、税金を味方につけて安定したキャッシュフローを得るイメージがつかめるはずです。
減価償却とは何か

重要なのは、減価償却が「支出を伴わない経費」だという点です。建物や設備は時間の経過とともに価値が下がるため、その分を費用として認めてもらえます。言い換えると、現金は出ていないのに帳簿上は経費が増えるため、利益が小さく見え、結果として払う税金も減ります。
まず、減価償却の対象は建物本体と附属設備に分かれます。建物の耐用年数は国税庁の「減価償却資産の耐用年数表」に定められ、木造は22年、RC造(鉄筋コンクリート)は47年など構造で異なります。一方、エアコンや給湯器などの設備は6~15年程度と短めです。同じ物件でも、建物部分より設備部分のほうが早く費用化できる点が特徴です。
さらに、取得年と残存耐用年数によって「定額法」「定率法」の選択が可能ですが、個人の不動産投資では2025年度も引き続き定額法が原則です。ただし、中古物件は残存耐用年数が短いため、年間の費用計上額が大きくなります。つまり、築古アパートを選ぶと減価償却費を早期に多く取れる可能性が高いわけです。
減価償却がもたらすキャッシュフロー効果

まず押さえておきたいのは、キャッシュフローとは「手元に残る現金」のことだという点です。家賃収入からローン返済や管理費を差し引き、そのうえで税金を払った後に残る金額こそ、投資家の真の利益になります。
減価償却費は現金流出を伴わないため、経費として計上しても口座の残高は減りません。たとえば年間家賃収入が300万円、その他経費が100万円の人が、建物の減価償却費として80万円を計上した場合、課税対象は120万円です。2025年度の所得税率20%なら、税額は24万円になりますが、減価償却がなければ40万円課税されていた計算です。差額16万円がそのまま手元に残るため、返済原資や再投資に回せます。
また、金融機関は実際のキャッシュフローを重視するため、減価償却で手取りを厚くした投資家は次の融資を受けやすくなります。国土交通省の「不動産投資市場動向調査」でも、保有物件のキャッシュフロー改善が新規借入審査にプラスに働くケースが増えていると報告されています。つまり、減価償却は単なる節税策にとどまらず、成長戦略そのものなのです。
税金計算における減価償却の具体的な手順
ポイントは、減価償却を「計上するタイミング」と「根拠資料」の二つを正確に押さえることです。まず、物件取得時に建物と土地の価格を区分する必要があります。土地は減価償却の対象外なので、購入価格をそのまま按分すると節税額がぶれるからです。不動産売買契約書に建物価格が記載されていればそれを採用し、なければ固定資産税評価額の比率を用いるのが一般的です。
次に、建物価格を耐用年数で割り、年間の償却費を算出します。たとえばRC造中古マンションを3,000万円で購入し、建物評価額を1,800万円、残存耐用年数20年とすると、年間償却費は90万円です。この金額を損益計算書の経費欄に記載すれば、帳簿上の所得がその分下がります。
一方で、設備については「一括償却」と「個別償却」が選べます。キッチンやユニットバスなどの高額設備は個別償却にして耐用年数を短く設定すると、数年で費用化できるため節税効果が高まります。ただし、設備ごとに領収書と明細を保管し、税務署からの問い合わせに備える姿勢が欠かせません。
実は、2025年度の確定申告書では電子帳簿保存法に基づく添付資料が強化されています。PDFでの領収書保存が認められる一方、タイムスタンプ要件や検索性が求められるため、会計ソフトの導入が事実上必須になりつつあります。ここで管理を怠ると、減価償却費が否認されるリスクがあるため注意深い運用が求められます。
2025年度の税制と減価償却の最新トピック
基本的に、2025年度も個人投資家が適用できる減価償却の大枠は維持されています。しかし、政府税制改正大綱では「中古住宅の流通促進」を掲げ、築古物件の耐用年数短縮を後押しする方向性が示されました。具体的には、昭和56年以前の旧耐震基準物件であっても耐震補強工事を実施すれば、残存耐用年数に3年間の上乗せが認められます。これにより、リフォーム費用を計上しつつ償却期間を延ばし、毎年の経費額を平準化できるメリットが生まれます。
また、2025年度は住宅省エネ改修促進税制が拡充され、断熱性能の向上や高効率設備の導入費用の10%を所得控除できる制度が継続しています。ただし、控除額には50万円の上限があり、適用期限は2026年12月末です。つまり、エアコンや給湯器を最新型に更新しつつ減価償却も取る、二重の節税が可能になるわけです。
一方で、いわゆる「タワマン節税」に対する規制も進み、2025年度からは区分所有マンションの相続税評価額に実勢価格を加味するルールが導入されました。不動産投資そのものの魅力は変わりませんが、資産の出口戦略として相続を考えるなら、建物比率を過度に高めると将来負担が増える可能性があります。
節税効果を最大化する物件選びと運用術
まず、物件選びでは「建物価格が高い築古鉄骨造」や「設備が充実した木造アパート」に注目すると良いでしょう。建物価格が高いほど減価償却費も増え、築古であれば耐用年数が短いため費用計上ペースが速くなります。ただし、家賃下落や修繕コストがかさむケースもあるため、利回りと修繕計画をセットで検証することが欠かせません。
次に、運用段階でできる工夫として「大規模修繕のタイミング調整」があります。外壁塗装や屋上防水を行う年と、減価償却費が大きい年が重なると赤字が膨らみ、金融機関からの印象が悪化しがちです。そこで、償却費が減り始める5年目以降に大規模修繕を集中させると、所得を平準化しながら節税効果を維持できます。
さらに、法人化を活用する方法も検討に値します。個人では累進課税で最高45%まで上がる所得税率が、法人なら23.2%(中小企業の実効税率)で頭打ちです。減価償却費だけで所得を圧縮しきれなくなったら、合同会社を設立し物件を移管することで税率を下げる選択肢が生まれます。ただし、登録免許税や不動産取得税が発生するため、シミュレーションを綿密に行うことが前提です。
最後に、税法は毎年改正されるため、専門家との連携が欠かせません。公認会計士や税理士に相談し、物件ごとに最適な耐用年数や償却方法を決定することで、長期的なキャッシュフロー最大化が可能になります。
まとめ
本記事では、不動産投資の税金対策として最も影響が大きい減価償却の基本から、2025年度の最新制度まで解説しました。減価償却は現金支出を伴わずに課税所得を減らすため、キャッシュフロー改善と拡大投資の両面で威力を発揮します。建物価格の按分、耐用年数の設定、設備の個別管理といった実務を正確に行い、制度改正にも柔軟に対応することが成功の鍵です。今後は、物件選びと修繕計画を戦略的に組み合わせ、専門家と協力しながら税金をコントロールしていきましょう。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 不動産投資市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp
- 政府税制改正大綱2025 – https://www.mof.go.jp
- 電子帳簿保存法一問一答(デジタル庁) – https://www.digital.go.jp
- 国土交通省 住宅省エネ改修促進税制 – https://www.mlit.go.jp/housing