不動産を相続する場面では、「何から手を付ければよいのか」「兄弟間で揉めないためにはどうすればよいのか」といった不安がつきものです。特に遺産分割には法律・税金・感情が絡み合うため、少しの認識違いが大きなトラブルに発展します。本記事では、不動産 相続 遺産分割の基礎から2025年度の最新制度までを整理し、専門的な内容をやさしく解説します。読み終える頃には、自分に合った対策の方向性が見えてくるはずです。
不動産相続の基本を押さえる

まず押さえておきたいのは、不動産相続が「相続人の共有状態」でスタートするという事実です。民法では、被相続人が亡くなった瞬間に不動産は相続人全員の共有財産になります。つまり、誰かひとりが勝手に売却したり、賃貸に出したりできません。
次に、相続の手続きには「相続登記」と「遺産分割協議」があります。相続登記は法務局に権利変動を届け出る作業で、2024年4月から義務化されました。正当な理由なく3年以内に登記をしない場合、10万円以下の過料が科されるため要注意です。また、登記を済ませないと金融機関からの融資や売却も困難になります。
さらに、登録免許税・司法書士報酬・固定資産税といったコストが発生します。国土交通省の統計によると、都内マンションの平均登録免許税は20万円前後です。相続人が自分の財布から出すのか、遺産から控除するのかを決める段階で、早くも意見が割れることがあります。費用負担のルールを事前に話し合うだけでも、後の対立を大幅に減らせます。
遺産分割協議の流れと注意点

ポイントは、協議を「感情」と「法的手続き」に分けて考えることです。まずは相続人全員が集まり、不動産をどう扱うかの大枠を共有します。この段階で方向性が定まらないと、時間だけが過ぎて固定資産税が積み上がる悪循環に陥ります。
実は、遺産分割協議書を作成する前に評価額を正確に把握することが不可欠です。市区町村が公表する固定資産税評価額は目安として便利ですが、市場価格と数割の開きがあるケースも少なくありません。不公平感をなくすため、不動産会社による簡易査定や不動産鑑定士の評価を取り入れると説得力が増します。
協議書が完成したら、相続人全員が自署押印します。改正民法により実印と印鑑証明を求められる場面が減ったとはいえ、金融機関や法務局では実印を要求されるケースもあります。署名欄を間違えると登記が却下されるので、作成後に公認会計士や司法書士へ「チェックだけ」依頼する方法も現実的です。
共有名義を回避するための工夫
重要なのは、共有のまま放置しない仕組みを作ることです。共有名義は一見平等に感じますが、将来の売却や建替えで全員の同意が必要になります。国土交通省の調査では、共有不動産のうち約3割が決議できず塩漬け状態という結果が出ています。
言い換えると、共有を避ける選択肢を早めに検討することこそ予防策になります。代表的なのが「現物分割」「代償分割」「換価分割」です。現物分割は物件を単独取得する人を決める方法で、代わりに現金などで調整金を支払います。代償資金を住宅ローンで調達する場合、金融機関は本人単独名義になる点を評価し、審査が通りやすい傾向があります。
また、相続開始前に家族信託を設定する手段もあります。受益者を自由に指定できるため、将来の売却や賃貸の決定権を信頼できる人に集中させられます。2025年12月現在、家族信託自体に税制優遇はありませんが、共有リスクを軽減する実務的メリットが見逃せません。
2025年度の税制と利用できる特例
まず押さえておきたいのは、「相続税の基礎控除」と「小規模宅地等の特例」です。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と定められ、2025年度も変更はありません。小規模宅地等の特例は、自宅や事業用宅地を一定面積まで80%評価減できる制度で、2025年12月時点で継続しています。
相続時の譲渡で気になるのが、売却益にかかる所得税と住民税です。マイホームを相続して売却する場合、「被相続人居住用家屋の3000万円特別控除」が2025年度も有効です。ただし、相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却する必要があります。
主要な税負担を整理すると次のとおりです。
- 相続税:基礎控除額超過分に累進税率
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
- 譲渡所得税:売却益×15%(住民税5%と復興特別所得税を除く)
つまり、特例を組み合わせることで税負担を大幅に軽減できますが、期限や条件を外すと一切適用されません。税務署への届出書や確定申告を忘れないよう、カレンダーで逆算管理する習慣が欠かせません。
トラブルを防ぐ専門家の活用法
ポイントは、専門家を「交渉の盾」として使うことです。司法書士は登記手続きのプロであり、遺産分割協議書の内容チェックも行います。税理士は特例適用の可否や申告業務を担当し、報酬は物件規模で変わります。日本税理士会連合会の調査では、相続税申告の平均報酬は遺産総額の0.5〜1%が目安です。
一方で、弁護士は感情面の調整役としても有効です。相続人間で意見が対立し始めたタイミングで第三者が入ると、主張が整理され、解決までの時間が短縮される傾向があります。費用を抑えたい場合は、自治体の無料法律相談や法テラスの利用を検討する方法もあります。
さらに、不動産会社の査定を複数取ると客観的な価格帯が見え、分割案の説得材料になります。複数査定を断る相続人がいる場面では、「専門家が推奨しているから」と理由づけると合意が得やすくなります。専門家を単なる作業代行ではなく、家族の合意形成を促すサポーターとして位置づけることが成功のコツです。
まとめ
不動産 相続 遺産分割では、法律と税金の知識に加え、家族間のコミュニケーションが鍵を握ります。まず相続登記と評価額の把握を行い、共有名義リスクを避ける分割方法を検討しましょう。2025年度の特例や期限を押さえ、専門家を早期に巻き込むことで、時間と費用のロスを最小限に抑えられます。早めの準備と情報収集が、トラブルのない相続への近道です。
参考文献・出典
- 法務省 民法等改正に関する情報サイト – https://www.moj.go.jp
- 国税庁 相続税申告の手引 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 不動産業統計集2025 – https://www.mlit.go.jp
- 日本税理士会連合会 相続税実態調査2025 – https://www.nichizeiren.or.jp
- 法テラス 2025年度相談案内 – https://www.houterasu.or.jp