ワンルームマンション投資を続けていると、「法人化すべきか」という問いに必ず直面します。所得税や住民税が年々重くなり、手残りが思ったほど増えないという悩みは多くのオーナー共通のものです。一方で、法人設立には費用と手間がかかり、失敗するとメリットを十分に得られない可能性もあります。本記事では、法人化の仕組みを基礎から解説し、2025年12月時点で有効な税制や実務のポイントを示します。読み終えるころには、あなたが法人化に踏み切るべきかどうかを判断する材料が手に入るでしょう。
法人化で何が変わるのか

まず押さえておきたいのは、所有名義を個人から法人へ移すだけで、課税主体と会計ルールが一変するという事実です。個人の場合、家賃収入は総合課税となり累進税率が適用されますが、法人は段階税率ながら上限が23.20%(2025年度・資本金1億円以下の場合の標準税率)に固定されます。つまり、所得が高くなるほど法人の方が税率を抑えやすくなる仕組みです。
次に、経費計上範囲の違いも見逃せません。個人では家事関連費と認定されやすい支出でも、法人なら業務関連費として計上できるケースが増えます。例えば、自宅の一部を事務所として使い、通信費や車両費の按分を行うといった柔軟な処理が可能です。また、役員報酬という形で利益を分散できるため、家族を役員にして所得をコントロールする選択肢も生まれます。
さらに、融資審査の視点も変化します。法人は決算書で事業性を示すため、運営実績が蓄積されるほど追加融資を受けやすくなる傾向があります。東京23区の新築マンション平均価格が7,580万円(不動産経済研究所、2025年)まで上昇するなか、レバレッジを効かせる力は大きな武器です。一方で、設立初年度は決算実績がないため、融資条件が厳しくなる点には留意が必要です。
税務面で得られる主なメリット

重要なのは、法人化によってどのような節税効果が実際に得られるかを具体的に把握することです。まず、減価償却費を柔軟に操作できる点が挙げられます。個人の場合、定額法が原則であるのに対し、法人では定率法を選択できるため、初期の費用を大きくしキャッシュを温存しやすくなります。
また、損失の繰越期間が個人の3年から法人では10年に延びることも大きな利点です。例えば、築古ワンルームを複数戸購入し大規模修繕を行った年に赤字が出ても、将来の黒字と相殺できる年数が長いため、長期的に税負担を平準化できます。国税庁の統計によると、業務用建物の平均減価償却率は年5〜7%程度ですが、定率法を用いれば初年度に10%以上の費用計上も可能です。
加えて、消費税還付の可能性も見逃せません。課税売上高が1,000万円以下でも、法人を設立して新築物件を購入し、短期で課税売上を作れば還付を受けられるスキームが存在します。もっとも、2023年開始のインボイス制度により要件が複雑化したため、税理士と綿密に相談することが不可欠です。
最後に、役員報酬と配当を組み合わせることで、家族全体の所得税・住民税を抑えられる点も実務上の強みです。社会保険料の負担が増える局面もありますが、長期保有を前提にすればメリットが上回るケースが多いといえます。
キャッシュフロー改善の具体例
ポイントは、節税効果が実際のキャッシュフローにどれだけインパクトを与えるかを試算することです。たとえば、年間家賃収入600万円、諸経費200万円のワンルームポートフォリオを個人で保有した場合、課税所得は400万円になります。所得税と住民税で約28%を想定すると、手取りは約288万円です。
同じ収支を法人化し、役員報酬を360万円、法人所得を40万円とすると、法人税等で約8万円、役員報酬に対する所得税・住民税で約50万円となり、合計税負担は58万円程度に抑えられます。結果として手取りは約342万円となり、個人保有時より54万円多く手元に残る計算です。
さらに、減価償却を定率法で初年度120万円計上できれば、法人所得は赤字となり法人税はゼロになります。この場合、手取りキャッシュは約370万円まで増加します。もちろん、翌年度以降の減価償却費は逓減するため、長期計画で見通す必要がありますが、初期キャッシュフローを厚くできるメリットは明白です。
ただし、法人では社会保険への加入義務が発生し、事業主負担分が現金支出となります。東京都で年収360万円程度の場合、年間約60万円が追加で必要になる点はシミュレーションに必ず織り込んでください。
法人設立の手順と費用感
実は、法人化自体の手続きはそれほど難しくありません。株式会社を例に取ると、定款作成、公証役場での認証、法務局での設立登記という流れが基本です。設立費用は定款認証と登録免許税で約20万円、専門家へ依頼する場合は追加で10万円前後が相場となります。
設立後の経理体制の整備も不可欠です。青色申告の承認申請を速やかに行い、会計ソフトを導入して月次で数字を把握しましょう。IRS(国税庁)の調査では、月次試算表を作成している法人の黒字割合は、作成していない法人より15ポイント高いと報告されています。
融資を受ける際は、決算書だけでなく事業計画書の完成度が鍵を握ります。金融機関は空室率シナリオと修繕積立計画を重視するため、物件ごとに設備寿命と修繕履歴をまとめると評価が上がります。日本政策金融公庫の2025年度基準金利は2.3〜2.6%で推移しており、メガバンクよりやや高めですが担保余力が少ない創業期には有力な選択肢です。
【設立までの主な流れ】 1. 事業目的・資本金・役員構成の決定 2. 定款作成と公証役場認証 3. 設立登記(法務局) 4. 税務署・都税事務所への届出 5. 銀行口座開設・会計体制整備
注意すべきリスクと出口戦略
一方で、法人化すればすべてが解決するわけではありません。最大のリスクは赤字でも発生する法人住民税均等割です。東京都内では年間7万円程度が必ず発生し、物件を売却して家賃収入がなくなった後も法人を清算するまでコストが続きます。
また、売却益に対する課税も複雑になります。個人の長期譲渡税率は20.315%ですが、法人が不動産を売却した利益は通常の法人税率で課税されます。損益通算がしやすい反面、利益が大きい年には税率が上がるため、出口を見据えたタイミング調整が欠かせません。
さらに、持株会社化や親族への株式移転を使った事業承継を視野に入れると、株価算定と相続税評価の問題が浮上します。2024年改正の類似業種比準価額方式が適用されるため、早めに株価を押さえておくことで次世代への移行コストを抑えられます。
最後に、法人を清算する際の費用と手続きも事前に理解しておきましょう。解散・清算登記で約6万円、公告費用で3万円程度が必要となり、手続きを専門家に委託すると追加の報酬が発生します。投資期間を長期に設定し、持続的な利益計画を立てることがリスクを最小化する近道です。
まとめ
本記事では、ワンルームマンション 法人化の仕組みと2025年度時点で得られる具体的なメリット、手続き、リスクを整理しました。法人化により税率を抑え、減価償却や損失繰越でキャッシュフローを最適化できる一方、社会保険料や均等割など固定コストが増える点には注意が必要です。手取りを増やす鍵は、正確なシミュレーションと長期保有を前提とした資金計画にあります。まずは信頼できる税理士と相談し、自身の投資規模や将来像に合った最適なスキームを描いてみてください。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 不動産経済研究所 – https://www.fudousankeizai.co.jp
- 東京都主税局 – https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp
- 日本政策金融公庫 – https://www.jfc.go.jp
- 総務省統計局 – https://www.stat.go.jp