築10年程度の中古マンションを買って賃貸経営を始めるとき、「節税まで考えられるだろうか」と不安になる方は多いはずです。新築より安く買えるとはいえ、減価償却や修繕費の扱いなど税務の仕組みは複雑に見えます。しかし実は、築10年というタイミングは購入価格と減価償却期間のバランスが良く、キャッシュフロー改善に直結しやすいのが特徴です。本記事では、築10年物件がなぜ節税に強いのかを解説し、2025年度も利用できる具体的な税制優遇のポイント、物件選定とシミュレーションのコツまでを網羅します。読み終えたとき、数字と仕組みがつながり「次の行動」が明確になるはずです。
築10年物件が節税に向く理由

重要なのは、築10年の中古物件が購入価格と法定耐用年数のバランスで“おいしい期間”に当たる点です。減価償却費を大きく計上できるため、家賃収入に対する課税所得を圧縮しやすくなります。
まず法定耐用年数を確認しましょう。鉄筋コンクリート造(RC)のマンションは47年ですが、築10年なら残りは37年です。中古を取得すると「残存年数×0.2」か「残存年数」のいずれか長い方で償却期間を設定でき、RCの場合は最長でも37年、短縮して8年(37×0.2=7.4→端数切上げ)となります。つまり選択肢が広がり、賃料収入と償却費のバランスを調整しやすいのです。
一方、新築は取得価額が高く、減価償却期間もフルに使うため年間償却費が相対的に小さくなります。築20年を超えると物件価格は下がるものの修繕リスクが急増し、金融機関の評価も伸びにくいという別のハードルが出てきます。この中間にある築10年は、価格と金融評価、そして償却メリットの三拍子がそろうため「節税効率」が高いわけです。
国土交通省の不動産価格指数(2025年7月速報)によれば、築0〜5年と築6〜10年の区分マンション価格差は平均14%程度です。にもかかわらず、家賃下落幅は同期間でわずか4%にとどまっています。つまり、家賃はあまり下がらずに取得価格だけが下がるため、利回りと償却両面で有利になる構造がデータにも表れています。
減価償却のしくみを理解する

ポイントは、減価償却が「非現金支出の経費」である点です。キャッシュアウトしない費用を計上できるため、手元資金を残しながら課税所得を抑えられます。
減価償却方法には「定額法」と「定率法」があります。2025年12月現在、賃貸用不動産の取得では定額法が原則ですが、建物附属設備や備品は定率法も選択可能です。たとえばエアコンや給湯器を同時に買い替える場合、定率法を選ぶと前半の償却費を厚くでき、その分早期に節税効果を享受できます。
さらに、中古取得時には「取得価額の90%までが償却対象」という国税庁通達を活用できます。残り10%は土地値とみなされるため非償却資産ですが、都市部の物件で土地比率が高いケースは注意が必要です。固定資産税評価額から土地・建物価格を算出し、過大償却とならないよう資料を残しておくと税務調査でも安心できます。
東日本不動産流通機構の統計では、築10年前後の区分所有マンション取引価格は平均2,800万円前後です。建物価格がその70%と仮定すると1,960万円が償却対象となり、定額法8年なら年間245万円を経費計上できます。家賃収入が年間180万円でも、償却費で赤字を計上し、赤字部分を給与所得と損益通算できる点が築10年 節税戦略の核となります。
築10年物件を選ぶときのチェックポイント
まず押さえておきたいのは、築年数だけでなく管理状態と修繕履歴が節税効果を左右するという事実です。修繕積立金が適切に積み上がっているマンションほど、突発的な大規模修繕費を経費計上する頻度が抑えられ、キャッシュフローが安定します。
具体的には、直近の長期修繕計画書を必ず取り寄せ、実際の積立金残高と計画との差異を確認します。国土交通省の「マンションの長期修繕計画作成ガイドライン」では、築12年までに屋上防水工事を行うことを推奨しています。築10年時点で未実施なら、購入後数年で数百万円規模の工事が必要となる可能性が高く、節税分が修繕費に吸収されかねません。
金融機関の評価も見逃せません。築10年であれば住宅ローン残債を抱えた売主が多く、価格交渉の余地がある一方、購入側は投資ローンで金利1.5〜2.5%台が狙えます。金利が0.3%下がると、元利金返済額は30年ローンで約150万円減る試算もあります。節税だけでなく、金利コストを抑えることで総合的なリターンを底上げできます。
最後に、過去の賃貸履歴を調べましょう。入居率が高い物件は家賃下落リスクが低く、税金計算の基礎となる収入が安定します。全国賃貸住宅新聞のデータによれば、築10年の駅徒歩10分圏内マンションは平均入居率95%を維持しています。地元仲介会社の成約事例や広告掲載履歴を確認し、家賃に過度な下方バイアスがないかチェックする作業が、節税効果を最大限に活かす前提となります。
築10年物件の節税シミュレーション
実は、数字を具体化することで節税メリットの輪郭が一気に鮮明になります。ここでは東京都23区内のワンルーム区分マンション(築10年、価格2,800万円)をモデルに、青色申告を適用したケースを想定します。
【前提条件】購入諸費用200万円、借入2,500万円、金利2.0%・30年元利均等、年間家賃収入180万円、経費(管理費等)35万円、減価償却期間8年、青色申告特別控除65万円。
1年目の損益計算は次の通りです。家賃収入180万円から管理費等35万円を差し引き、青色申告特別控除65万円を計上すると80万円になります。ここに減価償却費245万円を追加すると所得は▲165万円(赤字)です。この赤字を給与所得と通算すれば、年収700万円・税率20%の会社員なら約33万円の所得税が還付される計算になります。住民税を合わせれば還付・減税効果は約48万円に上ります。
さらに、ローン返済額は年間111万円で、その内訳は元本42万円、利息69万円です。利息分は経費扱いになるため、キャッシュフローは家賃収入180万円から支出(管理費35+返済111)を差し引くと34万円プラスです。ここに税還付48万円が加わり、実質キャッシュフローは年間82万円の黒字になります。数字で見ると、築10年 節税戦略がキャッシュ面でも強力な武器になることがわかるでしょう。
2025年度の税制優遇と留意点
まず、2025年度も青色申告特別控除65万円は継続されており、電子帳簿保存とe-Tax提出が条件です。帳簿付けが煩雑に思えても、会計ソフトを導入すれば操作は家計簿レベルにまで簡易化できます。
また、不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できる仕組みは、税制改正大綱(2024年12月発表)でも手当てされず、2025年度も適用が続きます。ただし、事業的規模に該当しない場合でも今のところ制限はありません。過度な節税目的取引として否認されないよう、実質的な賃貸運営を行っていることを示す書類整備が求められます。
登録免許税の軽減措置(本則2.0%→特例1.5%、2025年3月31日取得分まで)は居住用区分所有建物が対象ですが、投資用でも自らが住む「居住用部分」がある場合に限られます。単純な賃貸用区分マンションでは適用外のため注意してください。一方、固定資産税の新築住宅軽減(3年間半額)は築10年物件では使えません。制度の適用可否を早めに確認し、過大な節税見込みを立てないことが健全な計画につながります。
最後にインボイス制度への対応です。賃貸住宅の家賃は原則非課税取引ですが、駐車場やトランクルーム収入には課税が及ぶ場合があります。2025年10月の経過措置終了に伴い、課税売上が1,000万円を超えるかどうかで消費税申告義務が変わります。物件購入前から将来の売上規模をシミュレーションし、免税・課税事業者のどちらが有利か検討することが求められます。
まとめ
築10年の中古マンションは、購入価格の割安さと減価償却期間の短縮を同時に享受できるため、キャッシュフローと節税メリットが両立しやすい点が最大の魅力です。減価償却費という“見えない経費”を活用しつつ、青色申告特別控除や損益通算を組み合わせれば、手元資金を残しながら税負担を軽くできます。ただし、修繕計画や金融機関評価を見誤ると節税分が一瞬で消えるリスクもあるため、数字と現場の双方で裏付けを取る姿勢が不可欠です。この記事で紹介したチェックリストとシミュレーションを実践し、次の物件選びを自信を持って進めてみてください。
参考文献・出典
- 国税庁 – https://www.nta.go.jp
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp
- 東日本不動産流通機構 マーケットサマリー – https://www.reins.or.jp
- 全国賃貸住宅新聞 入居率データ – https://www.zenchin.com