築20年前後の中古マンションやアパートが気になるものの、個人で買うか法人を設立して買うかで迷う人は多いでしょう。個人名義なら手続きは簡単ですが、税負担や相続の観点ではデメリットもあります。一方で法人化には設立費用や経理の手間が伴うため、初心者ほどハードルが高く映ります。この記事では、法人化のメリットと築20年物件の相性を具体的に解説し、2025年12月時点の税制や融資の最新動向を踏まえて判断材料を提供します。読み終えるころには、自分に合ったスキームを選ぶための視点が整理できるはずです。
築20年物件が狙い目になる背景

まず押さえておきたいのは、築20年という節目が価格と賃料のバランスで優位に働く点です。国土交通省の「不動産価格指数」によると、築15年を超えたあたりから価格下落は緩やかになり、築30年まで大きな値崩れは限定的になります。つまり購入価格は底値圏に近い一方、賃料は立地が良ければ大きく下がりにくいのです。
実際、東京都心のワンルームでは新築時と比べて賃料が約15%しか下がらないケースが多く、価格は30〜40%下がるというデータもあります。この差分が利回りを押し上げます。さらに20年以上経過した物件は減価償却の加速度が上がり、キャッシュフローを押し上げる効果も期待できます。
加えて、築浅物件より競合が少ない点も見逃せません。新築や築浅を好む投資家は多いですが、物件価格が高騰しているため参入を見送るケースが増えています。その結果、築20年帯の良質な物件が市場に残りやすく、交渉余地が生まれるのです。
法人化の基本とメリット

重要なのは、法人化が単なる節税テクニックではなくリスク管理手段でもある点です。2025年度の法人実効税率は約30%ですが、経費計上の幅が広いことで実効負担率を20%台前半まで下げることが可能です。個人の総合課税で最高45%となるケースと比較すると、所得が増えるほど差が拡大します。
さらに、青色申告特別控除や役員報酬の設定により所得分散ができます。家族を役員にして給与を支払えば、同一世帯内で課税所得をならす効果が得られます。法人名義で融資を受ければ、連帯保証は求められても個人資産と切り離した管理がしやすく、万が一の事故や訴訟リスクを限定できます。
資金調達の場面でも選択肢が広がります。日本政策金融公庫や地域金融機関は、一定の自己資本率と事業計画を示せば、築年数が古い物件でも2.0〜2.5%台の長期固定金利を提示する例があります。個人では融資期間が短くなりがちな築古物件でも、法人なら耐用年数超過分を事業計画で補えば同等の期間を確保できるケースが少なくありません。
築20年物件を法人で保有する際の税務ポイント
まず整理したいのは減価償却の扱いです。鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年で、築20年の場合は残存27年となります。中古資産の簡便法では「法定耐用年数−経過年数+経過年数×0.2」で計算でき、残りは約31年です。しかし実務では定率法選択で初期数年間の償却費を高め、キャッシュフローを最大化する戦略が取られます。
法人化すると修繕費の扱いが柔軟になります。個人なら10万円を超える支出は資本的支出か費用かで判断が分かれがちですが、法人会計では見積もりを添付し、将来の価値向上に寄与しない部分を修繕費に計上しやすくなります。その結果、課税所得を圧縮しながら物件の価値維持が可能です。
消費税にも注意が必要です。課税売上高が年間1,000万円を超えると課税事業者となりますが、設立1期目と2期目は原則免税です。家賃収入は非課税売上なので、物件取得時の消費税を還付しやすい点が大きな利点となります。ただし2025年度税制改正で「みなし仕入率」ルールが厳格化されたため、還付目的とみなされる取引は否認リスクがあることを覚えておきましょう。
融資戦略とキャッシュフロー最適化
実は融資条件をどう引き出すかで、築20年物件の魅力は大きく変わります。金融機関は築年数よりも立地と収益性を重視しています。利回り8%以上、駅徒歩10分以内など客観的指標を示せば、評価対象外の内装部分は自己資金でカバーする形でフルローンに近い借入が可能になる例もあります。
融資期間は残存耐用年数を超えないのが基本ですが、法人なら事業計画次第で+5年の延長を認める金融機関もあります。期間が5年伸びると月々の返済額は約1割下がり、メンテナンス積立や空室対策に回せるキャッシュが増えます。これが個人名義との大きな違いです。
キャッシュフローをさらに厚くするには、賃料以外の収入源も設けたいところです。例えば、法人名義でレンタル倉庫や駐車場を併設することで、多様な収益を一括管理できます。複数の収益源は金融機関の事業評価でプラスに働き、追加融資を引き出す際の材料にもなります。
購入後の管理と出口戦略
基本的に築古物件は管理力で差がつきます。法人化していると管理会社への外注費や自社で運営する場合の人件費を明確に区分でき、費用対効果を検証しやすくなります。空室対策ではリノベーションや家賃保証を組み合わせつつ、法人名義でサブリース契約を締結することで資金繰りを安定させる手法が有効です。
出口戦略としては、10年後にオフィスやホテルへのコンバージョンを視野に入れる方法が注目されています。法人所有なら用途変更の届出や融資切替をスムーズに行え、売却益に対しても実効税率をコントロールできます。また、株式譲渡という形で物件を含む法人ごと売却すれば、登録免許税や不動産取得税がかからず、買い手にもメリットが生じます。
相続対策の面でも法人保有は優位です。個人で複数棟を所有すると、遺産分割協議や評価減対策が煩雑になりますが、法人株式なら分割や贈与が容易になります。財産評価基本通達では非上場株式の評価を純資産価額方式などで算出しますが、賃貸用不動産を多く抱える法人は評価が下がり、結果として相続税を抑えられる可能性が高まります。
まとめ
築20年物件は価格がこなれ、減価償却が早まり、賃料は安定しやすいという三拍子がそろっています。そこに法人化を組み合わせることで、税負担の軽減、融資期間の延長、リスク分散など多面的なメリットを享受できます。一方で設立費用や会計管理の手間、消費税還付の規制強化といった注意点もあるため、本記事で示した視点を踏まえて試算と専門家相談を行いましょう。適切なスキームを選べば、築20年物件は長期的な資産形成の強力なピースになります。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 家計調査 年報 – https://www.stat.go.jp/
- 日本政策金融公庫 融資制度概要 – https://www.jfc.go.jp/
- 国税庁 法人税基本通達 – https://www.nta.go.jp/
- 中小企業庁 2025年度税制改正のポイント – https://www.chusho.meti.go.jp/