都市部でオフィスや店舗が入る中小ビルへの投資に興味はあるものの、「利回りって何を基準に判断すればいいのか」「マンション投資と何が違うのか」と悩む人は少なくありません。ビル投資は一棟単位で金額が大きく、空室や修繕の影響も受けやすいため、利回りを正しく把握しないと期待した収益を得られません。本記事では「ビル 利回り」の基本から地域別の相場、利回りを高める具体策、そして2025年度の税制や金融環境までを体系的に解説します。読み終えるころには、自分に合ったビル投資の判断軸が見えてくるはずです。
ビル投資で押さえておきたい利回りの基礎

重要なのは、ビル投資で語られる「利回り」が複数ある点を区別することです。まず表面利回りとは、年間賃料収入を購入価格で割った単純な指標です。一方、実質利回りは管理費や修繕費、空室損などを差し引いた後の手取り収入をもとに計算します。
投資判断では実質利回りの方が現実に近い数字になります。ただ、実質利回りは見積もった経費や空室率の前提で大きく変わるため、試算の前提条件を必ず確認してください。例えば築20年の鉄骨造ビルでは、外壁補修や空調設備更新に一度で1000万円以上かかるケースもあり、これを織り込まないと利回りは大幅に低下します。つまり、数字だけを見るのではなく、計算方法と前提を自分で検証する姿勢が欠かせません。
表面利回りと実質利回りの差を読み解く

まず押さえておきたいのは、両者の差が生まれる主因が経費率にあることです。一般的にビル経費率は25〜35%といわれ、マンションの15%前後より高めです。理由は共用部の電気代やエレベーター保守、テナント入替時の内装負担など、運営コストがかさむためです。
たとえば購入価格2億円、年間賃料1400万円の物件の場合、表面利回りは7%になります。しかし経費率30%で計算すると手取りは980万円に下がり、実質利回りは4.9%です。この差を埋めるには、経費削減か賃料アップのいずれかが必要です。また、東京商工リサーチのデータでは、2025年の中小オフィス市場空室率は平均3.9%に低下していますが、地方主要都市では7%前後と開きがあります。空室リスクが高いエリアでは、想定空室率を2〜3ポイント上乗せして試算した方が安全です。
つまり、表面利回りが高くても経費と空室を正確に見積もらないと、手元に残るキャッシュは想像以上に縮む可能性があります。購入前に10年分のキャッシュフローを保守的に試算し、利回り低下に耐えられるかを見極めましょう。
地域別・用途別で変わるビル利回り
ポイントは、同じ「ビル 利回り」でも立地と用途の組み合わせで大きく異なることです。日本不動産研究所の2025年調査によると、東京23区の中小オフィスビル平均表面利回りは4.6%ですが、札幌や福岡では5.5%前後、大阪中央区では4.9%となっています。また、飲食テナントが多い商業ビルは6%以上の例も見られる一方、退去時の原状回復費が高く、実質利回りはオフィス型より低くなる傾向があります。
加えて、ビルの築年数と構造も利回りに影響します。築30年を超えるSRC造ビルは取得価格が抑えられ、表面利回り8%台が出る場合があります。しかし耐震補強や設備更新コストが重く、長期的には利回りが目減りする恐れがあります。反対に築浅ビルは表面利回りが4%台と低めでも、修繕費が当面少なく、空室吸収速度も速いというメリットがあります。
このように、地域と用途、築年数を掛け合わせて総合的に見ることで、「見た目の数字が高い物件が必ずしも得ではない」ことが理解できます。自分の運営力や資金計画に合う利回り水準を見極め、エリア特性を考慮したリスク管理が必要です。
利回りを高める運営改善策
実は、利回りは購入時だけでなく運営中の工夫で大きく改善できます。最も効果的なのはテナントミックスの最適化です。空室フロアの用途変更や区画分割で賃料単価を上げる手法は、国内REITでも広く実践されています。例えばワンフロア200平方メートルを二つに分割し、スタートアップ向け小規模オフィスとして募集したところ、坪単価が15%上昇した事例があります。
次に、運営コストの見直しも欠かせません。保守契約を複数社で相見積もりすると、エレベーター保守費だけで年間30万円前後削減できるケースがあります。LED化やBEMS(ビルエネルギー管理システム)の導入は初期投資が必要ですが、省エネ補助金を活用すれば実質負担を抑えつつ電気代を10%以上カットでき、実質利回りを押し上げます。2025年度の経済産業省「省エネ設備導入支援事業」は中小ビルも対象で、補助率は最大3分の1です。
さらに、賃料改定交渉はタイミングが重要です。テナント成約率が高まる年度末や決算期に合わせて更新を迎えると、相場賃料が1平方メートルあたり月500円上がるだけで年間収入が数十万円増えます。こうした小さな施策の積み重ねが、最終的に利回りを1ポイント以上押し上げることも珍しくありません。
2025年度の税制と金融環境が利回りに与える影響
まず押さえておきたいのは、金利と税制が利回りを左右する外部要因だという点です。日本銀行は2025年10月にマイナス金利を解除しましたが、政策金利は0.5%程度にとどまり、主要銀行の長期不動産ローン金利も1.2〜1.5%で推移しています。低金利環境が継続しているため、借入コストは依然として抑えやすい状況です。つまり、レバレッジ効果を活かした投資でもキャッシュフローを黒字化しやすいといえます。
税制面では、2025年度の固定資産税評価替えが行われ、耐用年数の長い鉄骨造ビルの評価額が一部引き下げられました。その結果、築25年以上のビルでは固定資産税が年間数十万円下がり、実質利回り改善につながっています。また、賃貸用不動産の所得税計算で適用できる「建物の定額法減価償却」は廃止されず、引き続き節税効果が見込めます。ただし、取得価格2億円超の物件では「損益通算の過度な利用」を抑制する観点で、税務調査が強化されると国税庁は公表しています。過大な修繕費計上はリスクが高いので注意が必要です。
金融機関の融資姿勢も安定しており、特に賃料保証契約を付けた中小規模ビルでは、自己資金20%でフルローン近い融資が引き出せる例が増えています。金利上昇リスクを織り込んで固定期間10年以上を選ぶか、変動金利で初期キャッシュフローを厚くするか、シミュレーションして比較することが大切です。
まとめ
ビル投資で収益を最大化する鍵は、表面利回りの数字に惑わされず、実質利回りを自分の手で組み立てる意識を持つことです。地域特性や用途、築年数によるリスクを読み取り、運営改善策と低金利、税制のメリットを組み合わせれば、利回りを1〜2ポイント上乗せすることも可能です。まずは気になる物件で10年分のキャッシュフローを保守的に試算し、経費と空室を具体的に見積もってみてください。実践的な数字を持てば、市場の変動にも柔軟に対応でき、ビル投資で長期安定収益を得る道が開けます。
参考文献・出典
- 日本不動産研究所 – https://www.reinet.or.jp/
- 東京商工リサーチ「中小オフィス市場レポート2025」 – https://www.tsr-net.co.jp/
- 経済産業省「省エネ設備導入支援事業 2025年度公式資料」 – https://www.meti.go.jp/
- 国税庁「不動産所得に関する税制Q&A 2025年版」 – https://www.nta.go.jp/
- 日本銀行「金融政策決定会合 議事要旨 2025年11月」 – https://www.boj.or.jp/