鉄骨造のアパートやビルは頑丈で長持ちするというイメージがあります。しかし投資目線で見ると、構造や市場の特性ゆえのリスクを理解しないと想定外の出費や空室に悩まされかねません。そこで本記事では、鉄骨造 リスクを五つの視点から分かりやすく整理します。初心者の方でも購入前に何を確認し、どのように備えるべきかが具体的に掴めるはずです。読み終えたときには、自分に合った戦略を描ける状態になっているでしょう。
鉄骨造の構造的リスクと耐久性

まず押さえておきたいのは、鉄骨造の強みと弱みが表裏一体である点です。耐震性やデザインの自由度が高い半面、鋼材が劣化すると補修費が一気に膨らむ可能性があります。
最初に注意したいのは腐食です。国土交通省の資料によると、海岸線から三キロ以内の地域では通常の内陸部と比べ錆びの進行が約二倍とされています。外壁の塗装や防錆処理を十年サイクルで行わないと、柱の肉厚が薄くなり耐震性能が急低下します。つまり、長期保有を前提にするなら塗装周期とコストを織り込んだ資金計画が欠かせません。
火災への備えも重要です。鉄骨は燃えにくいと誤解されがちですが、実際には高熱で強度が急落します。そのため、二時間耐火構造を確保するための耐火被覆材が不可欠で、剥離が起きれば補修費が百万円単位になる事例もあります。また、建築確認時の設計図書と実際の被覆厚が一致しているかを取得後に必ず確認すると安心です。
さらに、接合部のボルトや溶接部の疲労も見逃せません。二〇二一年の建築研究所調査では、築三十年超の鉄骨造で接合部に小さな割れが見つかった割合が一割を超えました。定期的な超音波検査は義務ではありませんが、実施すれば早期発見につながり、大規模改修を回避できる可能性が高まります。
金利上昇と鉄骨造のキャッシュフロー

ポイントは、鉄骨造の融資期間と金利変動がキャッシュフローを圧迫しやすい点です。法定耐用年数三四年に合わせて融資期間が短めに設定される傾向があるため、返済比率が高くなりやすいのです。
二〇二五年現在、住宅ローンは一%前後ですが、投資用ローンは一・五〜二%が一般的です。仮に一億円を二%、二十五年で借りると元利均等返済は月四十三万円ほどになります。空室率五%で家賃収入が月四十七万円なら表面利回り八%でも手残りはわずかです。金利が〇・五%上昇するだけで月返済は三万円以上増え、赤字に転落する可能性があります。
実は、鉄骨造だからこそ金利固定期間の長いローンを選ぶ価値があります。二〇二五年度の一般社団法人全国不動産協会の調査では、三十年以上の固定金利を選んだ投資家の空室時耐性が平均で二年延びたとの結果が出ています。返済額が読みやすければ、突発的な修繕にも資金を回しやすくなるからです。
また、銀行によっては外壁塗装の長期修繕計画書を提出すると金利を〇・一%引き下げるケースがあります。提出自体は無料なので、物件選定と同時に金融機関の条件を細かく比較することが将来のリスク低減につながります。
修繕費と法定耐用年数をどう読むか
重要なのは、法定耐用年数を鵜呑みにせず、実際の修繕履歴と照らし合わせる視点です。耐用年数は税務上の目安に過ぎず、現実にはメンテナンス次第で資産寿命が大きく変わります。
まず屋上防水です。仕様によっては十五年で全面改修が必要となり、三百万円以上かかるケースがあります。販売図面に「十年前改修済み」とあっても、防水層の種類がウレタンかシートかで次回時期が変わるため、施工報告書の写真まで確認すると安心です。
エレベーター付き物件なら、部品交換も大きな出費になります。日本エレベーター協会のデータでは、築二十五年時点で制御基板更新に二百万円、ロープ交換に百万円程度が平均です。鉄骨造は比較的階高が高く、ロープ長も伸びるためコストが上振れしやすい点に注意しましょう。
言い換えると、長期修繕計画はキャッシュフロー表と一体で作る必要があります。築古を購入して短期転売を狙うのか、二十年以上保有するのかで、支出のピークが異なるからです。投資戦略と修繕戦略をセットで組むことで、想定外の赤字を避けられます。
エリア選定が左右する空室リスク
まず押さえておきたいのは、鉄骨造が中規模以上のファミリー向け物件に多い点です。そのため、エリアの人口動態や教育環境が直接稼働率に影響します。
地方都市で見られるのが、人口減少による家賃下落です。総務省の住民基本台帳人口移動報告では、二〇一五年から二〇二五年までの十年間で、地方中核市の二割が人口を五%以上減らしています。家賃が一割下がると利回りは表面で〇・八ポイント低下し、先ほどの融資例では年間百万円を超える収入減となります。
一方で、大規模開発区域は供給過多のリスクがあります。新駅開業に合わせて鉄骨造の賃貸マンションが集中すると、築浅でも家賃競争に巻き込まれる恐れがあります。開発計画の公開情報を事前に確認し、竣工時期が重なる物件数を把握することが欠かせません。
また、学生需要を見込む場合は学部再編にも注意が必要です。文部科学省の資料によると、全国で二〇二〇年以降に定員縮小を行った大学は二割を超えました。近隣大学が縮小すれば単身需要が減り、ファミリー向けでも影響が及びます。エリアの将来像を複合的に読んで判断することが、空室リスクを抑える近道です。
2025年度の省エネ基準と対応コスト
実は、二〇二五年度から新築・大規模改修時に省エネ基準適合が原則義務化されるため、鉄骨造の投資には新たなコスト要素が加わります。この流れは既存物件の評価にも影響します。
鉄骨造は柱梁が細く断熱材を挟むスペースが限られるため、断熱改修費が鉄筋コンクリート造より高くなる傾向があります。国土交通省のシミュレーションでは、七階建て延べ三千平方メートルの物件で外壁断熱を強化すると、改修費が一平米当たり二万円増えるという結果が出ています。
ただし、二〇二五年度の高性能建材導入支援事業は既存賃貸も対象で、最大で改修費の三分の一が補助されます。補助上限は一物件あたり五千万円で、交付申請期限は二〇二六年二月末です。活用すれば省エネ性能向上とランニングコスト削減を同時に実現できるため、早めに情報収集する価値があります。
さらに、省エネ性能が向上すると金融機関のグリーンローン金利優遇が受けやすくなります。二〇二五年時点で主要都市銀行は、省エネ適合の証明書を提出することで金利を〇・一〜〇・二%下げる商品を提供しています。改修費を補助で抑え、金利も下げられれば、投資全体のリスクは大幅に縮小します。
まとめ
ここまで、鉄骨造 リスクを構造、金利、修繕、エリア、省エネの五つの視点で整理しました。要するに、鉄骨造は頑丈さの裏側に高額なメンテナンスと金利感応度の高さを抱えています。購入前に長期修繕計画と資金計画を統合し、エリアの将来人口や省エネ規制まで検証すれば、リスクは管理可能なレベルに収まります。まずは物件資料と地方自治体の統計を突き合わせ、今回紹介したチェックポイントを一つずつ確認してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築物の維持保全に関する調査報告書(2024) – https://www.mlit.go.jp
- 一般社団法人全国不動産協会 住宅ローン実態調査(2025) – https://www.zennichi.or.jp
- 総務省 住民基本台帳人口移動報告(2025年版) – https://www.stat.go.jp
- 日本エレベーター協会 エレベーター保守費用データ(2023) – https://www.n-elekyo.or.jp
- 文部科学省 大学定員管理の現状(2025) – https://www.mext.go.jp
- 建築研究所 鉄骨接合部の耐久性調査(2021) – https://www.kenken.go.jp