不動産投資を始めるとき、「木造物件は安いけれど耐久性が不安」という声をよく耳にします。さらに、家賃収益や修繕費をどこまで見込めばいいのか悩む人も多いでしょう。本記事では、木造 シミュレーションを使って収支を具体的に描き出し、リスクを数値で把握する方法を解説します。読後には、自分に合った木造投資の規模や融資条件を判断できるようになるはずです。
木造投資でシミュレーションが欠かせない理由

まず押さえておきたいのは、木造アパートが鉄骨やRCと比べて初期費用を抑えやすい一方、修繕サイクルが短めだという点です。この特徴はキャッシュフローに直接影響するため、事前に詳細な数値計算が必要になります。加えて、金融機関が設定する融資期間は構造によって変わるので、返済計画も木造専用の試算が欠かせません。
住宅金融支援機構の2025年調査によると、首都圏の木造アパート平均表面利回りは7.2%ですが、実質利回りは管理費と修繕費を差し引き5%台に下がります。つまり、表面利回りだけを見て購入を決めると、のちに資金繰りで苦労する可能性が高いのです。また、2025年度の省エネ基準適合義務化によって建築コストが微増している点も計算に盛り込む必要があります。こうした複数要因を一度に検討できるのがシミュレーションの最大の利点です。
一方でシミュレーションの質は入力データ次第です。地域の空室率、銀行の金利優遇幅、将来の家賃下落率などを保守的に設定することで、実際より厳しい条件でも耐え抜ける計画を立てられます。重要なのは楽観的な数字で安心するのではなく、最悪のケースに備えておくことだと言えるでしょう。
家賃収益と空室率をどう組み立てるか

ポイントは、家賃設定を「現在の相場×保守係数」で算出し、空室率を地域統計より少し高めに見込むことです。東京都住宅政策本部のデータでは、2025年の23区平均空室率は10%前後ですが、郊外を含めると15%を超えるエリアもあります。シミュレーションでは、購入予定物件の最寄り駅の統計値にプラス2〜3ポイント上乗せすると安全です。
次に、家賃の下落ペースを設定します。築20年以降の木造は毎年1%程度下がる傾向がありますが、駅徒歩10分以内や再開発地域では緩やかになるケースもあります。そこで、標準シナリオでは1%、悲観シナリオでは2%と複数パターンを入力して差異を比較しましょう。数字で見ると、同じ物件でも20年後の累積家賃収入に数百万円の開きが生じることがわかります。
さらに、家賃保証やサブリースを検討するときは、手取り家賃が80〜85%に圧縮される点を必ず反映させます。保証が切れた後の再募集費用も見落としがちですが、1戸あたり家賃の0.5〜1カ月分が相場です。こうした細かな費用を積み上げることで、シミュレーションは現実味を帯び、意思決定の精度が高まります。
修繕費と減価償却をリアルに織り込む
実は、木造物件の修繕費は築後10年を境に急増します。「外壁塗装は15年ごと」といった目安はあるものの、気候や施工品質で前後するため、シミュレーションには余裕を持たせるべきです。国土交通省の長期修繕計画ガイドラインでは、木造共同住宅の30年間総修繕費は延べ床面積1㎡あたり3〜4万円が目安とされています。
減価償却も木造ならではの節税効果を生みます。法定耐用年数22年を用いれば、建物価格の大部分を短期間で経費計上できるため、初期数年間は課税所得を大きく圧縮できます。ただし、帳簿上の利益が小さくなると返済原資を見失いがちなので、キャッシュベースのシミュレーションと必ず並行して確認しましょう。
修繕積立金の積み立て方には、毎月一定額方式と一時金方式があります。毎月方式なら資金繰りは安定しますが、手取りが減ります。一方で一時金方式は収支が見かけ上良く見えるものの、大規模修繕直前に資金が不足しがちです。どちらを選ぶにせよ、シミュレーション上で30年分のキャッシュフローを可視化しておくと、資金ショートのリスクを低減できます。
融資条件と金利変動の影響を試算する
基本的に、金融機関は木造に対して15〜25年の融資期間を提示します。期間が短いほど月々の返済は重くなりますが、総返済額は抑えられるため、シミュレーションでは複数期間を比較すると効果的です。2025年12月現在、主要地銀の投資用ローン固定金利は1.9〜2.5%が主流ですが、優良顧客では変動1.3%前後の事例もあります。
仮に3000万円を20年・金利2%で借りた場合、毎月返済は約15.2万円です。これを25年に延ばすと月々は約12.7万円に下がりますが、総返済額は180万円ほど増えます。家賃収入が安定する初期フェーズで返済負担を軽くするか、利息総額を抑えて早期完済を目指すかは、投資家のリスク許容度で変わります。
また、将来の金利上昇リスクも軽視できません。日銀のマイナス金利政策は2024年に解除され、2025年は緩やかな利上げ局面にあります。シミュレーションでは、金利が1%上昇した場合の毎月返済額を試算し、家賃収入がどこまで耐えられるか確認しましょう。数字で確認しておけば、金利が動いた際の対応策を冷静に選択できます。
税制優遇と出口戦略を比較する
重要なのは、投資開始時だけでなく売却時まで視野に入れたシミュレーションを行うことです。木造は築25年を過ぎると金融機関の評価が下がり、買い手がローンを組みにくくなります。その結果、売却価格は耐用年数残の多い物件より低くなりがちです。したがって、築年数が浅いうちに出口を迎えるプランと、長期保有で家賃収入を主体にするプランを比較検討するとよいでしょう。
税制面では、2025年度も不動産所得の損益通算が認められており、本業の給与所得と合算することで所得税を軽減できます。ただし、給与年収が900万円を超えると住民税が増えるため、節税効果が薄れる点に留意してください。売却時の譲渡所得には、所有期間5年超で長期譲渡税率20.315%が適用されるので、保有期間のシナリオも組み込むと実質利回りを正確に把握できます。
出口戦略を検討する際は、将来の賃料水準と修繕コストを再評価し、売却価格を3%高・3%低の幅で試算します。たとえば、想定売却価格3000万円が2910万円に下振れすると、最終利回りは0.5ポイント悪化することがあります。このように複数の出口シナリオを並列で試算することで、購入時点で取るべきリスクが明確になります。
まとめ
ここまで、木造 シミュレーションを活用して家賃、修繕、融資、税金、出口まで一貫して数値化する手順をお伝えしました。ポイントは、楽観だけでなく悲観シナリオも加え、最終的なキャッシュフローを30年間で確認することです。シミュレーション結果が黒字であれば、安心して行動に移せます。逆に赤字が見えた場合は、物件価格交渉や自己資金の増額など対策を講じましょう。数字を味方につければ、木造投資でも安定した資産形成が十分に可能です。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅経済統計 – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 住宅金融支援機構 住宅ローン金利動向 – https://www.jhf.go.jp/
- 東京都住宅政策本部 住宅市場動向 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/
- 日本銀行 金融政策決定会合資料 – https://www.boj.or.jp/
- 国税庁 タックスアンサー 譲渡所得 – https://www.nta.go.jp/