不動産の税金

築30年以上 失敗事例から学ぶ中古物件投資の落とし穴

築年数の古い物件に興味はあるものの、「本当に利益が出るのだろうか」と不安を抱えていませんか。築30年以上の物件は価格が手ごろな一方で、思わぬ修繕費や空室リスクに苦しむ投資家も少なくありません。本記事では、実際に起きた失敗事例をひもときながら、どこで判断を誤ったのかを詳しく解説します。ポイントを押さえれば古い物件でも安定収益は可能ですので、最後まで読んで具体的な対策をつかんでください。

築古物件に潜む三つの落とし穴

築古物件に潜む三つの落とし穴のイメージ

まず押さえておきたいのは、築30年以上の物件には構造・法律・市場の三つの側面で独特のリスクがあることです。これらを理解せずに購入すると、表面利回りが高くても実質利益はゼロに近づきます。

最初の落とし穴は設備の老朽化です。国土交通省「住宅・土地統計調査(2023年版)」によると、築30年を超える共同住宅の約45%が主要配管を一度も交換していません。配管更新には100万円単位がかかり、突発的な水漏れ事故ならさらに費用がかさみます。投資家のAさんは配管図面を確認せずに区分マンションを購入し、入居開始3か月で天井漏水が発生。共用部と専有部の負担割合を巡り管理組合と対立し、想定家賃の1年分を修繕費に充てる羽目になりました。

次に耐震性能の問題があります。1981年の新耐震基準以前に建てられた物件は、現行基準を満たしていない可能性が高いです。実は、日本建築防災協会の2024年調査でも、旧基準木造アパートの6割が耐震性不足と判定されています。Bさんは低価格に飛びついて旧耐震の木造アパートを購入しましたが、金融機関が追加融資を渋り、大規模補強工事費を自己資金で賄わねばならなくなりました。

三つ目は法定耐用年数を超過した場合の税務リスクです。法定耐用年数は建物構造によって決まり、木造なら22年、鉄骨造なら34年が目安です。Cさんは築35年の鉄骨造を購入し、残耐用年数がほぼゼロだったため、減価償却費を短期間で計上せざるを得ませんでした。初年度は節税効果が大きいものの、数年後に経費が急減し、キャッシュフローが一気に悪化しました。つまり、長期保有を前提にするなら税務上の時間軸まで計算に入れる必要があります。

融資審査でつまずく典型パターン

融資審査でつまずく典型パターンのイメージ

ポイントは、築古物件ほど金融機関の評価が厳しくなるという事実です。年収や自己資金が十分でも、物件自体の評価が低ければ融資上限は大幅に減ります。

最も多いのは、積算価格と収益還元価格の双方で評価が伸びないケースです。日本政策金融公庫の2025年融資ガイドラインでは、築30年超の物件は原則として建物価値をゼロ査定し、土地値の70%を上限に融資を組み立てると示されています。Dさんは表面利回り12%のRCマンションを優良案件と判断しましたが、土地値が低い地方都市だったため、融資比率は想定の50%から30%に下がりました。結果として自己資金が不足し、購入を断念せざるを得ませんでした。

また、耐用年数超過物件で長期ローンを希望すると、返済期間が極端に短くなる点も見逃せません。民間銀行の多くは「法定耐用年数-築年数+10年」を最長とします。築35年の木造なら最長でも約7年しか組めず、月々の返済額が跳ね上がります。Eさんの場合、空室1室で即赤字になるシミュレーション結果となり、結局より築浅の代替物件に乗り換えました。

加えて、金融機関は修繕計画の有無を重視します。2025年度のフラット35投資用ローンでは、購入後10年以内に実施予定の大規模修繕見積書の提出が必須となっています。書類を準備できないと融資審査を通過できず、実質的に購入の土俵にすら立てない点は覚えておきましょう。

修繕費の見積もり不足が招くキャッシュフロー悪化

重要なのは、購入前にライフサイクルコストを精緻に見積もることです。家賃収入が高くても、修繕費が膨らめば手残りは減ります。

最初に必要なのは長期修繕計画の作成です。国土交通省「マンション総合調査(2024年)」によれば、築30年時点で共用部修繕積立金が不足している管理組合は全体の55%。区分所有者のFさんは「積立金が安いからお得」と誤解し、結果的に追加一時金を求められました。その額は100万円を超え、当初想定していた運用利回りは4%から1%へ急落しました。

次に、空室期間中も固定費が発生する点です。固定資産税、管理費、ローン返済は入居状況に関係なく支払う必要があります。Gさんは共益費込み家賃設定を武器に入居促進を図りましたが、築古ゆえに退去が続き、年間稼働率は70%台に低迷しました。繰上返済用に貯めていた資金を赤字補填に回す結果となり、資金計画は根底から崩れました。

そして見落とされがちなのがインフレと金利上昇リスクです。2025年の消費者物価指数は前年比2.1%の上昇を示し、日本銀行は段階的な政策金利引き上げを示唆しています。修繕工事費も資材価格高騰で年々値上がりしており、Hさんは当初見積もり1,200万円で契約したはずの外壁改修が、開始時点で1,450万円に跳ね上がりました。言い換えると、マクロ経済の動きも築古投資の収益性に直結します。

購入後にできるリスク軽減策

実は、購入してからでも取れる打ち手は複数あります。諦める前に具体策を検討しましょう。

第一に、住戸単位でバリューアップを行い家賃を底上げする方法があります。具体的には、浴室乾燥機や温水洗浄便座など単価10万円前後で入居者ニーズの高い設備を導入します。東京都住宅供給公社の2025年入居者アンケートでは、「設備が新しい物件は築年数が古くても選ぶ」と回答した割合が68%に上りました。少額投資で家賃を5%上げるだけでも、長期的な収益は大きく改善します。

第二に、保険の活用です。火災保険に加えて、共用配管の漏水リスクをカバーする特約を付けると、万一の事故でも持ち出しを抑えられます。Iさんは年間保険料を5万円上乗せし、水漏れ事故で発生した300万円の損害をほぼ全額補填できました。保険料と自己負担のバランスを取ることで、突発支出を平準化できます。

第三に、出口戦略の再構築も有効です。2025年4月に改正された「不動産特定共同事業法」では、小口化して売却するクラウドファンディング型のスキームが整備され、築古物件でも投資家を募りやすくなりました。Jさんは全戸賃貸を続けるのではなく、一部リフォーム後に小口化して売却し、運用利回り4%を確保しながら資金を回収しました。

まとめ

築30年以上の物件は価格が手ごろで高利回りに見えますが、設備老朽化、耐震不足、法定耐用年数超過といった落とし穴が潜んでいます。融資審査も厳しく、修繕費の見積もりが甘いとキャッシュフローはすぐに赤字へ傾きます。しかし、設備バリューアップや保険活用、小口化売却などの対策を講じれば、古い物件でも安定収益を実現できます。今日学んだ失敗事例を鏡にして、自身の投資計画を点検し、リスクを管理したうえで一歩を踏み出してください。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅・土地統計調査 2023年版 – https://www.stat.go.jp
  • 日本建築防災協会 木造住宅耐震化調査報告 2024 – https://www.kenchiku-bosai.or.jp
  • 日本政策金融公庫 融資ガイドライン 2025年度 – https://www.jfc.go.jp
  • 東京都住宅供給公社 入居者ニーズ調査 2025 – https://www.to-kousya.or.jp
  • 日本銀行 金融政策決定会合資料 2025年10月 – https://www.boj.or.jp

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