築二十年前後の中古マンションやアパートに興味はあるものの、「本当にもうかるのか」と不安を覚える方は少なくありません。購入価格が下がっている一方で、修繕費や空室リスクが頭をよぎり、踏み切れない人が多いのが現実です。本記事では、築二十年物件の収益性をどのように判断し、どのような手順でリスクを抑えつつリターンを高めるかを具体的に解説します。読み終えるころには、投資判断の軸が明確になり、次の一歩を自信を持って踏み出せるようになるはずです。
築20年物件の価値が見直される理由

まず押さえておきたいのは、築二十年という年数が「大規模修繕を一巡し、賃料とコストが読みやすくなる時期」だという点です。国土交通省の「賃貸住宅市場トレンド調査2025」によると、築十六〜二十五年の平均空室率は十三%前後で横ばい、賃料も築十五年以降は下げ止まり傾向が確認されています。つまり、過度な値下がりを前提にした悲観シナリオよりも、安定収益を長期で確保できる確率が高いゾーンといえます。
一方で、建物設備の老朽化は避けられず、見えない修繕コストが収益を圧迫する可能性があります。しかし、重要なのは「修繕が必要かどうか」ではなく「いつ、いくらかかるか」を事前に把握できるかどうかです。築二十年前後の物件は、過去の修繕履歴がそろっているケースが多く、劣化の進行具合を図面と工事履歴で具体的に検証できます。情報がそろっているからこそ、資金計画の精度が高まり、リスクを定量化できる点が大きなメリットとなります。
最後に、昨今の建設コスト高騰によって新築物件の価格が上昇していることも追い風です。同じ家賃帯ならイニシャルコストの低い中古のほうが表面利回りは高く、融資返済比率(DSCR)が改善しやすいというデータも出ています。つまり、築二十年物件はコストパフォーマンスと情報量のバランスが取れた、狙い目の投資対象といえるのです。
収益性を左右する三つの視点

ポイントは「購入価格」「想定賃料」「修繕費用」という三つの数字を線で結び、キャッシュフローを立体的に把握することです。表面利回りだけで判断すると、後から修繕費が膨らみ手取りが減る典型的な失敗につながります。
最初の視点は購入価格です。同一エリアの直近成約事例と比べ、二割以上安い場合は構造的な欠陥や未解決のトラブルが潜んでいる可能性があります。国交省の「不動産価格指数2025」でも、特異的に安い物件ほど維持管理費が高い傾向が示されています。価格差の根拠を必ず確認し、納得できない場合は撤退する勇気が必要です。
次に想定賃料ですが、レインズや各種ポータルだけでなく、近隣管理会社へのヒアリングが不可欠です。実は、築二十年超でもフルリフォーム済みなら一割高く貸せるケースが増えています。需要が底堅いワンルームエリアでは浴室乾燥機や独立洗面台を入れるだけでリースアップ期間が半減した例もあります。賃料は物件と設備の掛け合わせで決まることを念頭に置きましょう。
最後に修繕費用です。国が定める「長期修繕計画作成ガイドライン」では、築二十年時点で外壁改修や給排水管交換が推奨されています。費用は延床一平方メートル当たり一万五千円前後が目安ですが、共用部の仕様で大きく変動します。重要なのは、購入後三年以内に発生する修繕を洗い出し、キャッシュフローに反映しても黒字を維持できるかを確認することです。
修繕計画と賃料戦略の立て方
重要なのは「計画修繕」と「価値向上リフォーム」を切り分けることです。計画修繕は建物の寿命を守るための出費で、賃料を直接押し上げるものではありません。一方、価値向上リフォームは賃料アップや空室期間短縮につながる投資で、費用対効果を定量的に測定できます。
たとえば、外壁塗装二百万円で賃料が変わらない場合は十年で見れば必須コストですが、入居者の満足度向上という副次的効果は限定的です。対して、室内フローリングと水回り交換に百五十万円を投じ、月額賃料を八千円上げられれば、十六カ月で回収できます。実需向けの購入需要も喚起されるため、出口戦略でも有利になります。
また、2025年度の「長期優良住宅化リフォーム推進事業(賃貸住宅型)」では、省エネ・耐震改修など一定条件を満たす工事費の三分の一、上限二百五十万円の補助が受けられます。期限は2026年三月末の工事完了分までなので、築二十年物件を取得したら早めに申請準備を進めると良いでしょう。補助を活用すれば、同じ自己資金でもグレードの高い設備投資が可能となり、差別化につながります。
融資と税務で押さえる最新ポイント
まず、融資環境についてですが、地方銀行や信用金庫は築年数よりも担保評価と賃貸需要を重視する傾向が強まっています。実際、都市部の築二十年RCマンションで、融資期間三十五年、金利一・三%という事例も珍しくありません。金利は物件評価と自己資金割合で下げられる余地があるため、複数行に事業計画書を持ち込み、条件を引き出すことが肝要です。
税務面では、減価償却費を使った節税が安定収益の鍵を握ります。RC造なら法定耐用年数四十七年、築二十年の場合残存二十七年を定額法で計上可能です。木造や軽量鉄骨は短く、購入後四年で耐用年数が尽きるケースもあるため、建物価格の按分比率を交渉し、なるべく高く設定しておくとキャッシュフローが安定します。
さらに、2025年度税制改正では「賃貸住宅省エネ改修促進税制」が延長され、断熱改修にかかった費用の最大一割を税額控除できます。賃料アップに直結するうえ、投資回収期間を短縮できるため、融資返済と組み合わせて検討すると効果的です。
初心者が失敗しない物件選びの手順
実は、初心者ほど「物件を見すぎて選べなくなる」傾向があります。成功する人は、最初にエリアを限定し、購入基準を数値化したうえで短期決断するスタイルを徹底しています。
具体的には、①駅徒歩十分以内②総戸数二十戸以上③実質利回り七%超④修繕履歴と長期修繕計画が開示されている、という四つの条件を設定すると判断がスムーズです。四つを満たす物件が出てきたら、二十四時間以内に現地と役所調査を行い、四十八時間以内に買付証明を入れるくらいのスピード感が理想です。
一方で、条件を満たさない案件でも、賃料単価が相場より一五%以上高い場合や、補助金適用で大幅に修繕費を圧縮できる場合は再検討の余地があります。つまり、買付前に「基準を崩すときの特例」もあらかじめ決めておくことで、判断ミスを減らせるのです。
最後に、購入後半年は管理会社との連携が重要です。入退去管理、家賃設定、原状回復工事の標準化を進めることで、キャッシュフローのブレを小さくできます。築二十年物件は、最初の運営フローを確立すれば、その後はルーティン化しやすい点も魅力です。
まとめ
築二十年物件の収益性は、購入価格、賃料、修繕費の三つを見える化し、適切な融資と税制活用を組み合わせることで大きく向上します。修繕計画を精査し、価値向上リフォームに投資すれば、空室リスクを抑えながら家賃アップが期待できます。さらに、2025年度の補助金や省エネ税制を利用すれば、自己資金を効率よく回収する道も開けます。まずは本記事で示したチェックリストを手に、気になる物件の数値を当てはめてみてください。数字がクリアになれば、築二十年物件は安定収益をもたらす心強い資産になるでしょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅市場トレンド調査2025 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 国土交通省 長期修繕計画作成ガイドライン – https://www.mlit.go.jp/common/001178837.pdf
- 国土交通省 長期優良住宅化リフォーム推進事業2025 – https://www.kenken.go.jp/
- 財務省 税制改正の概要(2025年度) – https://www.mof.go.jp/
- 日本銀行 金融システムレポート2025 – https://www.boj.or.jp/