築20年を迎えた物件をお持ちのオーナーの多くは、「いつまで今の賃料を維持できるのか」「下げ幅はどの程度が妥当なのか」と悩んでいます。新築時には満室だったのに、気づけば周辺に競合物件が増え、築年数の古さも目立つようになり、募集に時間がかかるケースも珍しくありません。本記事では、築20年 家賃設定の基本から具体的な計算例、2025年度に活用できる支援策までを網羅します。読み終えたころには、賃料を下げるか維持するか、あるいは設備投資に踏み切るか、最適な判断ができるようになります。
築20年物件で家賃が下がる主な理由

まず押さえておきたいのは、築20年という節目が賃貸市場でどのように評価されるかです。国土交通省の「賃貸住宅市場概況」(2025年版)によると、築15年を超えた頃から家賃水準は新築比で平均15%前後低下し、築20年では20〜25%下落する傾向が示されています。つまり築年数が二十年に達すると、見た目の古さだけでなく、設備の陳腐化や耐震基準への不安が顕在化し、借り手が値引きを要求しやすくなるわけです。
それに加え、近年は新築アパートの大量供給が続き、周辺エリアの供給過多が空室率を押し上げています。総務省「住宅・土地統計調査」では、2025年の空室率は全国平均14.2%と過去最高を更新しました。競争が激化すると築浅・築古を問わず賃料は下押しされますが、築古物件は影響を受けやすいのが実情です。
一方で、築20年だから一律に賃料を下げる必要があるわけではありません。エリア特性や物件の管理状態、さらには入居者ターゲットによって最適解は変わります。重要なのは「平均下落率」という大雑把な指標に頼り切らず、自物件の強みと弱みを冷静に分析することです。
適正家賃を導く三つの視点

ポイントは、市場、物件、その物件に住む入居者という三つの視点を組み合わせることです。まず市場分析では、近隣3キロ圏内における築15〜25年の成約賃料を調べます。REINSマーケットインフォメーションなどで得られる成約事例を平均すると、地域によっては築20年でも新築比10%の下落で済むケースもあります。
物件分析では、外壁や共用部の状態、設備更新の履歴をチェックしましょう。たとえばエアコンや給湯器を10年以内に交換していれば、入居希望者は「思ったより古くない」と感じます。逆に水回りが当時のままなら、賃料を抑えても内見数が伸びにくいので、修繕か賃料減額の判断が欠かせません。言い換えると、賃料水準を左右するのは「築年数」そのものではなく「古さをどう感じさせるか」です。
最後に入居者分析です。ファミリー層を狙うのか、単身者を狙うのかで必要な設備も賃料帯も変わります。ファミリー向けなら収納力や学区が評価される一方、単身者はネット無料や宅配ボックスを重視します。周辺に大学があるなら家賃より初期費用の安さが刺さることもあります。このようにターゲットを絞り込み、その層が支払える上限から逆算することで、築20年 家賃設定の幅が見えてきます。
実際の計算例:築20年マンションを想定
実は、数値でシミュレーションすると適正賃料はかなり具体的に割り出せます。ここでは東京都郊外、最寄り駅から徒歩10分の鉄筋コンクリート造・30㎡ワンルームを例にします。新築時の家賃は9万円、2025年時点の近隣新築は9.8万円、築20年前後は平均7.4万円です。
まず市場平均から算出すると、自物件の家賃は7.4万円前後が妥当に思えます。しかし管理状態が良く、5年前にユニットバスを交換し、Wi-Fi無料を導入したとしましょう。内見者アンケートで「築年数ほど古さを感じない」との声が多ければ、平均より2〜3%高い7.6万〜7.7万円でも成約する余地があります。
ここでキャッシュフローを試算します。家賃7.6万円、管理費込みで月8万円、表面利回り6%、ローン金利1.5%、残債2,000万円の場合、月々の返済は約6.9万円です。満室なら毎月1.1万円の手残りですが、空室率10%を見込むと年間手残りは約6万円まで縮小します。つまり、利回りだけを見て強気の賃料設定をすると、空室リスクで手残りが吹き飛ぶ可能性があるわけです。
逆に家賃を7.2万円に下げると、成約スピードが2倍になり空室率が5%まで改善する試算もあります。結果的に年間手残りはプラス8万円となり、数字上は下げたほうが収益は高くなる計算です。ここから読み取れるのは、家賃設定は「単価」と「稼働率」の合計で評価すべきということです。
賃料改定時に使える2025年度の支援策と注意点
2025年度には、築古物件のエネルギー性能向上を後押しする補助金が継続しています。「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は既存住宅の断熱改修や耐震補強に対し、最大250万円まで補助が受けられます。賃貸住宅も対象となっており、申請要件を満たせば外壁断熱や高効率給湯器の導入費用を抑えられます。
また、同じく国交省所管の「賃貸住宅管理適正化支援事業」は、インスペクション費用や入居者向けトラブル対応の相談窓口整備に補助が出ます。これは家賃設定そのものを引き上げる制度ではありませんが、管理品質を可視化することで賃料維持に寄与します。期限は2026年3月までなので、築20年を迎えた今年申請しておくとメリットは大きいでしょう。
ただし補助金を受けたからといって、即座に家賃を上げても入居者は納得しません。設備投資の価値を示す写真やビフォーアフターを募集ページに載せ、現地案内時に体感してもらう工夫が重要です。また、補助金は後払い精算が基本のため、一時的に自己資金を立て替える必要があります。資金繰りを誤ると工事が遅延し、空室期間が長引くリスクもあるので注意してください。
収益を守るためのリノベーション戦略
重要なのは、賃料維持とコスト削減を同時に満たすリノベーションを計画的に行うことです。たとえばキッチンと洗面を同時に交換する「水回りパッケージ」の工事費は個別に実施するより10〜15%安くなることが多く、工期も短縮できます。RENOVATION協議会の2025年調査では、単身向け物件でも水回りを一新すると成約家賃が平均8%上昇したと報告されています。
さらに、LED照明や断熱内窓の導入は光熱費を削減し、入居者アンケートで「電気代が安い」と高評価を得やすい施策です。実際、東京都環境局のシミュレーションでは、ワンルームでも年間約1.2万円の光熱費削減効果が試算されています。つまり入居者が浮いた光熱費分を家賃に上乗せしやすくなるため、賃料下落を食い止める材料になります。
一方で、システムキッチンやフルリノベーションなど高額な改装は、周辺市場の賃料上限を超えやすく投資回収期間が延びる点に注意が必要です。築20年 家賃設定では、投資額を5年で回収できるかを目安に採算をチェックしましょう。採算が合わなければ、アクセントクロスや照明追加など低コストで印象を高める方法も有効です。
まとめ
築20年になると家賃は平均で2割前後低下しますが、下げ幅は物件の魅力づくりと管理の質でコントロールできます。市場統計を踏まえつつ、ターゲット入居者のニーズを的確に把握し、適正家賃を見極めることが第一歩です。そのうえで、補助金を活用した省エネ改修やポイントを押さえたリノベーションを計画すれば、賃料を維持しながら収益を伸ばすことも十分可能です。今日得た知識をもとに、自物件の家賃シミュレーションを作成し、次の募集戦略に生かしてみてください。そうすれば築20年の節目をチャンスに変え、長期安定経営への道が開けるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅市場概況(2025年版) – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei/market2025.html
- 総務省 住宅・土地統計調査(2025年) – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
- REINSマーケットインフォメーション 2025年4Qレポート – https://www.reins.or.jp/market/
- RENOVATION協議会 2025年調査報告書 – https://www.renovation.or.jp/report2025
- 東京都環境局 住宅省エネシミュレーション(2025年改訂版) – https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/enecho/jutaku2025