木造アパートを買ったものの、家賃をいくらに設定すべきか悩む投資家は少なくありません。周辺相場を参考にしても、建物の構造や築年数で適正価格は大きく変わります。また、家賃を高くし過ぎれば空室が増え、低くし過ぎれば利回りが下がるジレンマもつきものです。本記事では木造 家賃設定の基本から、最新データを踏まえた戦略までを丁寧に解説します。読了後には自信を持って賃料を決め、長期的に安定したキャッシュフローを実現できるでしょう。
木造物件の特徴と市場動向

最初に確認しておきたいのは、木造賃貸住宅が置かれた現在のマーケットです。重要なのは、構造ごとに賃料と空室率に傾向差がある点を理解することと言えます。
国土交通省「民間賃貸住宅ストック実態調査2025」によると、全国の賃貸住宅の約49%が木造で、平均家賃は鉄筋コンクリート造(RC)より月額1万円ほど低い結果でした。木造は躯体コストが抑えられるため初期投資額を削減できますが、遮音性や耐火性能への不安が家賃を押し下げる要因になります。一方で、最新の耐火等級を満たした仕様ならRCとの差が縮まり、築浅物件では利回りがむしろ高いケースも見受けられます。
また、総務省の住宅・土地統計調査(速報値)では、木造住宅の平均築年数は28年とRCより7年短いものの、地方都市では築40年超でも稼働率80%を保つ物件が少なくありません。これは単身者の低コスト志向に支えられた需要が根強いからです。つまり、木造はコスト競争力を武器に稼働率を維持しやすいと理解できます。
さらに、大都市圏では新築木造アパートの着工戸数が2024年比で7%増えました。利回り重視の個人投資家が流入しているため、今後も供給は増える見込みです。競合環境が厳しくなる前に、自物件の魅力と賃料を的確に定義しておく必要があるでしょう。
家賃設定に影響する三つのコスト

ポイントは、家賃設定を考える際に「取得原価」「維持管理費」「資本的支出」の三つを把握することです。この三要素が投資利回りと適正家賃の下限を決めます。
まず取得原価について見てみましょう。新築木造アパートの建築単価は2025年時点で首都圏平均78万円/坪、RCは110万円/坪となっており、融資額が抑えられる分だけ毎月の返済額を低くできます。返済比率がキャッシュフローを圧迫しない水準—総賃料の40%以内—に収まるかが最初の目安です。
次に維持管理費です。木造は経年劣化が早いといわれますが、日本住宅性能表示基準では主要構造部の耐用年数は概ね30〜40年を見込んでいます。実際の修繕履歴を見ると、共用部清掃や雑排水管の高圧洗浄など年間のランニングコストは家賃収入の約10%が平均値です。この数字を上回ると収支が悪化しやすく、家賃の見直しが迫られます。
最後に資本的支出、つまり大規模修繕費を考慮します。木造アパートは外壁塗装サイクルが10〜15年、屋根防水が15〜20年が一般的で、1戸当たり50万〜80万円が目安です。積立金を家賃収入の5%程度計上しておくと、将来の資金不足を避けられます。これらを合算し、表面利回り8%を確保できる家賃が自物件の“最低ライン”となるわけです。
需要をつかむエリアとターゲット分析
実は、家賃を左右する最大の要素は立地と入居者層のマッチングです。エリア分析を怠ると、どんなにリノベーションしても賃料は上がりません。
国勢調査の分譲・賃貸比率を見ると、東京23区の単身世帯は2025年時点で全世帯の55%を占めます。同区内の木造アパートは駅徒歩10分圏なら築20年でも家賃8万円前後を維持しています。一方、郊外に向かうほど同条件でも6万円を切るケースが多く、差額は交通利便性に支払われる“プレミアム”と考えられます。
ターゲットの特定には、入居者アンケートやポータルサイト閲覧データが有効です。例えば、20代単身者は「家賃が手取りの3割以内」を重視し、宅配ボックスや高速インターネットへの支払い意欲も高い傾向が明確になっています。逆に、ファミリー層は耐震性能や校区を重視するため、木造なら築年浅もしくは耐震補強済みであることが最低条件になります。
このような需要特性を踏まえ、賃貸ポータルに掲載する前に物件の強みを洗い出しましょう。駅徒歩5分であれば利便性を前面に出し、郊外であれば家賃の割安感と駐車場付きという付加価値を強調します。差別化ポイントが明確なほど、強気の家賃設定でも成約率が落ちにくいのです。
競合調査と家賃改定のタイミング
まず押さえておきたいのは、家賃は一度設定したら終わりではなく、市場状況に応じた改定が必要という事実です。改定の判断材料となるのが競合調査になります。
具体的には、半径1km圏内で構造、築年、間取りが近い物件を最低10件調べ、成約賃料と募集期間を記録します。賃貸ポータルを見るだけでなく、仲介会社にヒアリングすると家賃交渉後の実質賃料を把握しやすいからです。もし自物件より1割高い賃料でも1カ月以内に成約しているなら、値上げの余地があると判断できます。
家賃改定のベストタイミングは、退去が発生した直後です。原状回復の見積りと同時に賃料シミュレーションを行い、相場が上がっていれば新家賃で募集を開始します。年間2%の賃料アップでも、10年後には収入が約22%上がるため複利効果が大きいと覚えておきましょう。
逆に、空室期間が2カ月を超えた場合は原因分析を優先します。賃料なのか設備なのかを明確にし、賃料を1000〜2000円ずつ段階的に下げて反応を見ると、損失を最小限にしながら適正水準を探れます。適切なPDCAを回すことが、長期的な利回り改善につながります。
2025年度の税制・補助金を踏まえた戦略
基本的に、2025年度の税制改正では木造賃貸住宅に直接適用される新しい優遇制度は多くありません。しかし、家賃設定に影響を与える周辺制度は存在します。
まず、住宅ローン減税と同様の仕組みである「賃貸住宅建設に伴う投資減税」は2025年度も継続が決定しました。耐震等級2以上、断熱等性能等級5以上を満たす新築木造アパートを取得した場合、翌年度の所得税から建物取得価額の10%(上限200万円)が控除されます。設備グレードを上げても家賃に乗せにくい局面では、この控除で実質コストを下げ、賃料を据え置くことで競争力を高める戦略が有効です。
また、国土交通省の「住宅省エネ2025事業」では、既存木造住宅の断熱改修費用の3分の1(上限120万円)が補助されます。内窓追加や高断熱玄関ドアを導入すると光熱費を抑制でき、入居者満足度を向上させて家賃据え置きでも退去防止に寄与します。投資回収期間が短縮されるため、空室リスクを抱える古い木造物件には検討価値があると言えます。
結論として、税制と補助金は直接家賃を上げるツールではありませんが、実質コストを圧縮することで家賃水準を柔軟に設定する余地を広げてくれます。制度の利用期限は年度ごとに更新されるため、毎年の予算成立後に内容を確認し、早めに申請準備を進めることが重要です。
まとめ
木造賃貸は取得コストの低さゆえに高利回りを狙いやすい反面、家賃設定を誤ると収益が一気に縮みます。市場動向を把握し、三つのコストとターゲット需要を分析したうえで競合調査を実施すれば、相場より高い賃料でも十分に成約は可能です。さらに2025年度の減税や補助金を使えば、設備投資を促進しつつ実質コストを下げられます。今日紹介した手順を実践し、データに基づく家賃戦略で安定したキャッシュフローを築いていきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局「民間賃貸住宅ストック実態調査2025」 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省統計局「住宅・土地統計調査 2023速報」 – https://www.stat.go.jp
- 東京都都市整備局「賃貸住宅市場レポート2025」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 独立行政法人住宅金融支援機構「賃貸住宅融資統計 2025」 – https://www.jhf.go.jp
- 国土交通省「住宅省エネ2025事業 交付要綱」 – https://www.mlit.go.jp/house
- 財務省「2025年度税制改正大綱」 – https://www.mof.go.jp