不動産投資を始めたいものの、「ビルは金額も規模も大きすぎて怖い」と感じる人は少なくありません。特に、将来の家賃収入や修繕費がどの程度変動するのか見えないまま契約を決めるのは、初心者には大きな心理的ハードルになります。そこで役立つのが「ビル シミュレーション」です。収支やリスクを数値化し、複数のシナリオで比較できるため、納得感のある意思決定が可能になります。本記事ではシミュレーションの基礎から具体的な入力項目、リスク分析のコツ、さらに2025年度の最新税制・補助金を活用する方法まで、順を追ってわかりやすく解説します。
ビル シミュレーションとは何か
まず押さえておきたいのは、ビル シミュレーションが「ビル一棟の事業計画を数値で再現する作業」だという点です。家賃や空室率、修繕費、税金などの変動要素を設定し、将来のキャッシュフローを予測します。国土交通省の「不動産証券化ハンドブック」でも、投資判断の初期段階でシミュレーションを行うことが推奨されています。
具体的には、毎月の家賃収入から管理費・ローン返済・固定資産税を差し引き、最終的な手取り額を算出します。この計算を10年・20年といった長期にわたり繰り返し、内部収益率(IRR)や自己資本投資利益率(ROE)を導き出します。つまり、ビル シミュレーションは「買う前に未来の経営成績をテストする装置」と言い換えられます。
一方で、入力データが現実と乖離すると結果も大きくブレます。そのため、後述するように公的データや実際の管理会社の見積もりを用いることが重要です。
キャッシュフローを可視化する基本ステップ

ポイントは、年間キャッシュフロー表を作り、税引き後の手残りを把握することです。最初に家賃総額を月単位で入力し、次に空室率を設定します。たとえば総務省「住宅・土地統計調査」によると、2023年時点で東京都の賃貸住宅空室率は10.2%です。都市部のオフィスビルでは空室率が景気に連動しやすいため、平均値よりやや高めの12%前後で計算しておくと安全です。
次の段階では、管理費・共用部電気代・エレベーター保守料などの運営費を合計します。日本ビルヂング協会連合会の資料によれば、延床面積3000㎡クラスの中規模ビルでは年間運営費が家賃収入の約25%を占めるケースが多いと報告されています。これを参考に、収入の25%を運営費として設定します。
さらに、ローン返済額を加えます。2025年12月時点で都市銀行のオフィスビル向け固定金利は年2.3%前後です。自己資金30%、融資期間20年で借入すると、元利均等返済額はおおよそ年間960万円(1億円借入の場合)となります。こうして算出した税引き前キャッシュフローに、減価償却費を加味し法人税率を適用すれば、税引き後手残りが見えてきます。
シミュレーションに必要な主な入力データ
実は、シミュレーションの精度を左右するのは「どのデータを使うか」に尽きます。家賃相場は不動産情報サイトの募集賃料ではなく、実際の成約賃料を参考にすることが大切です。株式会社ビルディング経済研究所の調査では、募集賃料と成約賃料の乖離が平均6%あると示されています。この差を補正せずにシミュレーションすると、年間の収入予測が数百万円単位でずれてしまいます。
修繕費は国交省の長期修繕計画標準様式を活用し、屋上防水・外壁改修・空調更新など大規模修繕の時期と費用を割り当てます。平均すると新築後12〜15年目に大規模改修が集中し、延床1㎡あたり年間2,500円前後が目安になります。
また、固定資産税評価額は自治体の評価替えサイクル(3年ごと)を考慮する必要があります。東京都では2024年度評価替えで商業地が平均6%上昇しました。そのため2025年度も地価上昇傾向が続く想定で、税負担を年1〜2%増加とするケースが現実的です。
リスクを織り込むシナリオ設計
重要なのは、楽観・標準・悲観の3ケースを用意し、左右されやすいパラメータを変動させることです。たとえば空室率を「8%、12%、18%」、家賃下落率を「0%、▲1%、▲3%」と設定して収益を比較します。金融庁のモニタリングレポートでは、J-REITが行うストレステストでも同様の手法が採用されています。
空室と家賃下落が同時に進む悲観ケースでも、税引き後キャッシュフローが黒字なら、レバレッジをかけても耐久性が高いと判断できます。一方、マイナスに転じる場合は自己資金比率を引き上げるか、物件価格交渉を再度検討するべきです。
さらに、金利上昇リスクも忘れてはいけません。日本銀行は2024年にマイナス金利を解除し、長期金利は1.1%程度まで上昇しました。2025年12月時点では追加利上げの可能性が報じられているため、変動金利で借入する場合は少なくとも1.5%の上昇余地を見込んでおきましょう。
2025年度の税制・補助金をシミュレーションに活かす
ポイントは、実際に使える制度だけを正確に反映させることです。2025年度は「中小ビルZEB化促進事業補助金」が継続され、外皮断熱や高効率空調導入に対して最大1/2補助(上限1億円)が受けられます。省エネ性能を高めれば、テナントからの評価が上がり空室率低下にもつながるため、シミュレーションでは補助金による初期投資減と家賃維持効果を同時に織り込むと現実的です。
また、「生産性向上特別措置法」に基づく固定資産税の半減措置(適用期限:2027年3月末)も活用できます。新築または耐震改修後の評価額が対象となるため、キャッシュフロー表では3年間の固定資産税を50%減として入力します。
一方、不動産取得税の軽減措置は2025年度も適用されますが、標準税率3%が1.5%になるのは住宅用部分に限られます。商業ビルでは対象外のため、誤って計算に入れないよう注意が必要です。
こうした制度を正確に盛り込むことで、投資採算が大きく改善する可能性があります。つまり、税制と補助金は「利益を伸ばす最後の一押し」として活用できるのです。
まとめ
本記事ではビル シミュレーションの基本概念から入力データの集め方、リスクシナリオの設計、さらに2025年度の最新制度の反映方法まで解説しました。シミュレーションは数字を通じて未来を先取りできる強力なツールです。まずは公的データと実勢値をもとに標準ケースを作成し、悲観シナリオでも黒字になるか確認しましょう。そのうえで補助金や税制優遇を組み込み、投資効率を最大化することが成功への近道になります。実践あるのみです。今日から自分だけのシミュレーションシートを作り、次の一歩を踏み出してください。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産証券化ハンドブック 2024年版 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査 2023年 – https://www.stat.go.jp
- 日本ビルヂング協会連合会 ビル経営データ集 2024年 – https://www.bmia.or.jp
- 日本銀行 金融政策決定会合資料 2024年 – https://www.boj.or.jp
- 経済産業省 中小ビルZEB化促進事業 2025年度公募要領 – https://www.enecho.meti.go.jp