不動産の税金

築30年以上物件の出口戦略講座

築30年以上の中古物件を保有していると「いつ・どうやって手放すべきか」と悩む人が少なくありません。特に、老朽化への不安や家賃下落を考えると、適切な出口戦略を描けるかどうかが投資成績を大きく左右します。本記事では、最新の市場データと2025年度の税制を踏まえながら、築30年以上の物件で利益を確保するための具体的な出口戦略を解説します。読了後には、売却か継続保有かを判断する基準が明確になり、行動に移す自信が得られるでしょう。

築古物件を取り巻く市場環境

築古物件を取り巻く市場環境のイメージ

まず押さえておきたいのは、築古物件を巡る需要と価格動向です。総務省「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家率は2023年時点で13.8%と過去最高を更新しました。一方で、都市中心部の築30年以上マンションは、リノベーション需要の高まりから売買価格が堅調に推移しています。つまり、立地と用途が合えば、築年数が長くても出口を確保しやすい状況が続いているのです。

都市部では人口流入が続き、単身者向けの小規模住戸が不足しています。そのため、古いワンルームでも駅近であれば稼働率が90%を超えるケースが珍しくありません。反対に、郊外のファミリータイプは建物の老朽化と世帯数減少が重なり、賃料も売値も伸び悩んでいます。この二極化が、築30年以上 出口戦略を設計する際の前提になります。

加えて、日本不動産研究所の2024年レポートでは、修繕積立金不足が顕在化するマンションの割合が25%を超えたと報告されています。管理状態が悪い物件は値下がり幅が大きく、出口の選択肢が限られます。保有中は管理組合の議事録や長期修繕計画を必ずチェックし、早めにテコ入れできるかを見極めてください。

価値を高めるリモデル戦略

価値を高めるリモデル戦略のイメージ

ポイントは、出口を意識した改修で投資額を回収できるかどうかです。リフォーム会社の平均単価によると、表層リフォームは1㎡あたり1.5万円前後、一方でスケルトンリノベは4万円を超えます。売却を視野に入れるなら、過度な設備刷新よりも水回りと内装の刷新にとどめ、コストを抑えながら第一印象を改善する方法が効果的です。

たとえば、築35年の区分マンションを想定しましょう。壁紙とフローリングを一新し、キッチン扉だけを交換すれば、50㎡で総額100万円程度に収まります。リノベーション済みとして広告すれば、未改修の同タイプより200万円高く売れた事例もあります。重要なのは、改修費を家賃や売却益で確実に回収できる範囲に抑えることです。

また、エネルギー効率を高める小規模改修は2025年度も国交省の「既存住宅省エネ改修補助金」の対象です。断熱窓の交換や高効率給湯器の導入で上限30万円の補助を受けられるため、所有者負担を減らしつつ物件価値を向上できます。期限は2026年3月交付申請分までとされているので、計画的に利用してください。

最後に、賃貸継続を狙うなら共用部の美観が鍵になります。エントランス照明や郵便ボックスの更新は入居者の満足度を高め、空室期間の短縮に寄与します。これらは売却時の印象も良くするため、出口の選択肢を広げる投資と言えるでしょう。

売却と賃貸のどちらで出口を取るか

重要なのは、キャッシュフローとキャピタルゲインのバランスを見極めることです。築古物件では賃料下落が進む一方、ローン残債が減ることで売却益が出やすくなります。日本政策金融公庫の調査では、築30年超のRC造マンションでも、ローン完済後に約1,000万円の手残りが発生したケースが報告されています。

売却を選ぶ場合、仲介手数料と譲渡所得税がコストとなります。長期譲渡(所有期間5年超)なら税率約20%で、さらに2025年度も「特定居住用財産の3000万円特別控除」が適用可能です。自宅兼用で要件を満たせば税負担を大きく軽減できるため、居住実績のある投資家は活用を検討してください。

一方で、家賃収入を維持しながら相続対策をしたい場合は、賃貸継続が有効です。賃貸中の建物は相続税評価額が下がるため、将来の負担を抑えられます。さらに、賃貸需要が底堅いエリアなら、インフレ局面でも家賃が微増し、実質利回りを保ちやすい利点があります。

ただし、空室率の上昇や大規模修繕のタイミングが重なると年間収支が赤字化するリスクがあります。管理会社から修繕見積もりが届いた時点で「売るか、保有して建物寿命を延ばすか」をシミュレーションし、収支がマイナス3年継続するようなら売却の検討を早めると傷口を広げずに済みます。

2025年度の税制を味方に付ける方法

実は、税制優遇の活用が築30年以上 出口戦略を左右します。2025年度の固定資産税は、本来3年ごとに評価替えが行われますが、耐震改修や省エネ改修を行った住宅用地は翌年度の税額が1/2になります。年度内に工事完了・申告を済ませれば、最短で2026年度の税負担が軽減される点が魅力です。

また、所得税の面では「不動産取得費加算の特例」が引き続き利用できます。譲渡所得を計算する際、購入後にかかったリフォーム費用を取得費として加算することで課税所得を圧縮できます。領収書や請負契約書を保管しておくと、売却時に手取りを最大化できます。

補助金と併用する際の留意点として、国交省の省エネ補助金を受けた工事費は取得費に含められないため、控除と加算のどちらが有利かを税理士と相談することをおすすめします。さらに、相続時精算課税の特例も2025年度まで継続の見込みです。高齢のオーナーが子世代へ早期に資産移転することで、将来の相続税負担を抑制でき、出口時の選択肢を複線化できます。

トラブルを避ける契約と管理のポイント

まず、売買契約ではインスペクション報告書を事前に用意し、瑕疵担保責任の範囲を明文化することが欠かせません。国土交通省ガイドラインでも、既存住宅売買では建物状況調査の活用が推奨されています。買主が安心して購入できる環境を整えれば、価格交渉を有利に進めやすくなります。

賃貸継続を選ぶ場合は、原状回復トラブルが増加する築古物件ならではのリスクがあります。入居前に室内細部の写真をデータで残し、退去時の立会いをオンライン同時接続で行うと、後日の言い分相違を防ぎやすくなります。IT重説が一般化した今、地方に住むオーナーでも管理品質を高められる点がメリットです。

さらに、建物管理会社との委託契約は3年ごとに見直しましょう。長期で固定された管理委託料は市場変化に追随しにくく、コスト高の原因になります。複数社の見積もりを取り、サービス内容と料金を比較しながら交渉すると運営費を下げられます。結果として、収支改善が進み、出口を先延ばしにしても損益分岐点を下げる効果が期待できます。

最後に、借地借家法の知識も必須です。定期借家契約へ切り替えることで、将来の退去交渉を円滑に進めやすくなります。更新料を設定できる地域であれば、長期入居者とのバランスを取りつつ、収益性と退出リスクを管理してください。

まとめ

築30年以上の物件でも、立地と管理状態を見極めれば収益化の道は十分に開かれています。改修費を回収できる範囲で価値を高め、市場環境と税制優遇を組み合わせることで、売却・賃貸どちらの出口でも手残りを確保しやすくなります。この記事で紹介した調査手順や補助金、税制を活用しながら、自身のキャッシュフローと目標に合った出口戦略を立案してください。行動を先送りせず、市場が追い風のうちに第一歩を踏み出すことが、将来の安心につながります。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅局 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/
  • 総務省統計局 – https://www.stat.go.jp/
  • 日本不動産研究所 – https://www.reinet.or.jp/
  • 国税庁 – https://www.nta.go.jp/
  • 東京都住宅政策本部 – https://www.metro.tokyo.lg.jp/

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