SRC造のマンション投資は、耐震性と高い賃料水準が期待できる点から人気を集めています。しかし、購入時の利回りに目を奪われ、売却の計画を後回しにすると想定外の損失を招くおそれがあります。本記事では、15年以上の投資実務で培った知見と2025年12月時点の最新データを用い、SRC造 出口戦略の立て方をわかりやすく解説します。銀行融資の動向や税制まで整理するので、これから物件を探す方も、すでに保有している方も実践的なヒントが得られるでしょう。読み終えた頃には、購入から売却まで一貫したシナリオを描けるようになります。
SRC造物件を選ぶメリットとリスク

ポイントは、SRC造(Steel Reinforced Concrete=鉄骨鉄筋コンクリート)の特性を正しく理解し、数字で判断することです。まず耐震性と長寿命による資産価値維持が期待できる一方、建築コストと修繕費が高めになる点を認識しましょう。
SRC造は、鉄骨と鉄筋コンクリートを組み合わせることで、構造強度を高めています。国土交通省「令和6年建築物ストック統計」によると、築30年時点での主要構造体劣化率はRC造が18%に対し、SRC造は11%にとどまります。つまり、同じ築年数でも外壁や共用部の補修費が抑えやすく、売却時の査定額が残りやすい傾向があるのです。
空室率にも差が見られます。総務省の住宅・土地統計調査(2023年速報値)では、都市部のSRC造ファミリータイプの空室率は6.2%で、木造アパートの10.8%より4ポイント以上低い数字です。耐火性能や遮音性も評価され、賃料水準を維持しやすい点が背景にあります。
一方で、初期取得価格が高いことは事実です。固定資産税評価額もRC造や木造より高めに設定されるため、保有コストがかさみやすい点は避けられません。また大規模修繕は12〜15年周期で必要となり、長期保有を前提に積立金計画を立てておかないと、売却前に突発的な資金流出が起こるリスクがあります。
出口戦略が必要になる理由

まず押さえておきたいのは、出口戦略がキャッシュフローと投資効率を大きく左右するという事実です。売却益でローン残債を一括返済し、手元にキャッシュを残せなければ、長年の努力が報われません。
SRC造は耐用年数が47年と長く、減価償却費による節税効果が薄れにくい一方、築25年を超えると金融機関の評価が下がり始めます。日本政策金融公庫の2024年度融資ガイドラインでは、残存耐用年数が20年を切った時点で融資年数が短縮される例が示されています。買主のローン条件が悪化すれば、売却価格も連動して下落しやすくなるのです。
また、2025年12月現在の低金利環境は将来も続く保証がありません。仮に金利が1%上昇すると、購入希望者の返済負担率は約10%増えると試算されます。買主の資金繰りが苦しくなれば、提示される価格が下がるため、現在の好条件を活用して売却計画を前倒しする判断も合理的です。
具体的な出口戦略の組み立て方
重要なのは、保有期間・価格設定・税負担を一体で設計することです。SRC造だからこそ取れる選択肢を具体的に検討しましょう。
第一に保有期間です。減価償却が残る築15年程度で売却すれば、建物評価がまだ高く、譲渡所得は長期区分(5年超保有)となるため所得税・住民税合計20.315%で済みます。築30年超で売却する場合は、賃料維持のために室内リノベーションを行い、キャップレート(表面利回り)と販売価格のバランスを整える手法が有効です。
第二に価格設定です。レインズマーケットインフォメーションの成約事例を基に、周辺相場より0.2〜0.5%高い水準で試算し、数カ月ごとに反応を確認します。SRC造は希少性が高いため、価格調整の幅を小刻みにすることで値崩れを防げます。
第三に税金・費用の検討です。譲渡所得税、仲介手数料、抵当権抹消費用、そして消費税(区分所有で課税事業者の場合)が発生します。以下の3類型を比較し、最も有利なシナリオを選ぶとよいでしょう。
- 短期転売:購入後5年以内に高値で売却しキャピタルゲインを狙う
- 中期リノベ後売却:10〜15年保有し、内装刷新後に付加価値を乗せる
- 長期保有:20年以上賃料収入を得てから相続または一括売却
2025年時点の市場動向と売却タイミング
実は、今の市場環境はSRC造の出口にとって追い風が吹いています。国土交通省「不動産価格指数」(2025年9月公表)によると、全国のマンション価格は前年同月比で4.1%上昇しました。
背景には都心回帰とインフレヘッジ需要があります。特に東京23区の築20年超SRC造区分マンションの平均坪単価は、2020年比で12%上昇しています。供給が限られる一方、法人投資家が安定資産として買い増しを進めているため、築古でも一定の需要を維持しているのです。
一方で、日本銀行は2025年10月の金融政策決定会合で長期金利の変動幅を+1%へ拡大しました。金利上昇圧力が高まれば、購入希望者の与信枠が縮小する可能性があります。したがって、今後1〜2年を目安に売却を検討しておくと、金利上昇による価格調整の前に出口を確保できるでしょう。
税務と資金計画で失敗しないコツ
まず、譲渡所得税と住民税を合わせた実効税率を正確に見積もることが肝心です。長期譲渡(5年超)なら20.315%、短期譲渡(5年以下)なら約39%と倍近く違います。加えて、2037年までは復興特別所得税が加算される点を忘れないようにしましょう。
次に、ローン残債との兼ね合いです。残債が売却予定価格を上回るオーバーローン状態では、追加自己資金を投入しなければ抵当権を抹消できません。金融機関への返済計画と並行して、売却益の手取り試算を毎年更新する仕組みを作ると安心です。
最後に、修繕積立金と管理費です。築古SRC造では直近で大規模修繕が予定されているか確認し、告知義務に備えた資料を整理しておく必要があります。管理組合の長期修繕計画書を買主に提示できれば、信頼感が高まり交渉を優位に進められます。
まとめ
この記事では、SRC造 出口戦略の考え方を耐用年数、融資条件、税制、市場動向の四つの観点から整理しました。SRC造は資産価値の下落が緩やかな一方、売却時期を誤ると高い残債と修繕費に悩まされます。長期的なキャッシュフロー表と市場価格データを定期的に更新し、金利や税制の変化に合わせて出口シナリオを調整することが成功の鍵です。今すぐ現在のローン残高と周辺成約事例を確認し、最適な売却タイミングを逆算してみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 建築物ストック統計 令和6年版 – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 不動産価格指数 月次 2025年9月公表 – https://www.mlit.go.jp/
- 総務省 住宅・土地統計調査 2023年速報集計 – https://www.stat.go.jp/
- 日本政策金融公庫 2024年度 融資ガイドライン – https://www.jfc.go.jp/
- 日本銀行 金融政策決定会合資料 2025年10月 – https://www.boj.or.jp/