不動産投資を始めたばかりの方にとって、毎月の管理費が高いのか安いのか判断するのは意外に難しいものです。購入価格や利回りばかりに目が向くと、後から固定費の重さに気づき手残りが減るケースも珍しくありません。本記事では、マンション投資における管理費の仕組みを丁寧に解説し、物件ごとの比較方法や相場観のつかみ方を紹介します。読み進めることで、数字の裏にあるリスクとチャンスを見極め、着実にキャッシュフローを伸ばす視点が得られるでしょう。
管理費とは何か

まず押さえておきたいのは、管理費が共用部の維持とサービス提供に充てられる運営費だという点です。エントランスの清掃、エレベーターの保守、管理員人件費などが主な内訳で、建物規模や設備の多寡で金額が変動します。つまり高級感のあるロビーや24時間コンシェルジュがある物件ほど管理費は高く、投資家の収益を圧迫しやすいのです。
国土交通省「マンション総合調査」によると、2025年度の首都圏分譲マンション平均管理費は月額250円/㎡前後でした。専有面積40㎡のワンルームなら約1万円、70㎡のファミリータイプなら約1万8,000円が目安になります。一方、都心部のタワーマンションでは400円/㎡を超える事例もあり、設備グレードの違いが数字に表れています。
加えて、管理費と混同されがちな修繕積立金は将来の大規模修繕に備える長期資金です。両者は性質が異なるため、投資判断では合算して総コストで比べると誤解を避けられます。管理費だけを安く抑えても、修繕積立金が不足すれば結果として一時金徴収のリスクが高まるので注意しましょう。
管理費が投資収益に与える影響

ポイントは、管理費が利回り計算に直接作用する固定費であることです。たとえば月額賃料10万円のワンルームで管理費1万円なら、表面利回りが同じでも実質利回りは1%ほど低下します。年12万円の差は30年保有で360万円に達し、家賃下落局面では無視できない金額です。
また、管理費が高い物件は家賃に上乗せしにくいという現実があります。入居者は共用設備の充実よりも月々の支出総額で物件を選ぶ傾向が強く、とくにシングル層ではその傾向が顕著です。結果として家賃設定を抑えざるを得ず、投資家が管理費を肩代わりする形になり収益が圧縮されます。
実は、金融機関の融資審査でも管理費は重視されます。金融機関はネット利回りで返済余力を評価するため、管理費が高いと借入可能額が下がる場合があります。融資上限が厳しくなると自己資金割合が増え、投資効率が落ちる点も見逃せません。
管理費を抑える物件選びの視点
重要なのは、物件選定段階で管理費の水準を比較し、将来の上昇余地まで読み込むことです。築浅マンションは管理費が安定して見えますが、管理員勤務形態や清掃頻度の見直しが進んでいないため、10年後に改定されるリスクがあります。長期修繕計画書と管理規約を確認し、人件費やエネルギーコストを吸収できる見込みがあるか把握しましょう。
一方で、中規模マンションは住戸数が増えてコスト分散が働き、管理費を抑えやすい傾向にあります。総戸数100戸以上で24時間ゴミ出し対応がある程度の設備にとどめた物件は、入居者満足度と費用のバランスが良好です。また、外部委託管理ではなく自主管理に近い組合運営を採る物件は、管理コストがさらに低くなる余地があります。
ただし、過度に管理費が低い場合はサービス水準が下がり空室リスクにつながるため、相場の七割を切る物件は逆に要注意です。総会議事録で清掃トラブルや修繕滞納の有無を確認し、コスト削減の裏側に潜むリスクを見抜く力が求められます。
2025年度の相場と比較ポイント
2025年9月時点で東京23区の新築マンション平均価格は7,580万円と、不動産経済研究所の発表で前年から3.2%上昇しました。価格高騰の一方で管理費相場は大きく変わらず、2021年比で約5%の増加にとどまっています。つまり物件価格に対する管理費比率は低下傾向にあり、投資家が計算を怠ると「数字が小さく見えてしまう」落とし穴があります。
比較の際は「㎡単価」で管理費をそろえ、同一エリア・同一築年数で一覧化すると差が鮮明になります。さらに、同じ単価でも修繕積立金比率が高い物件は、将来の一時金リスクが低い点を考慮すべきです。具体例として豊島区の築10年・総戸数120戸のマンションAは管理費230円/㎡、修繕積立金180円/㎡でした。一方、築3年のタワー型マンションBは管理費380円/㎡と高いものの修繕積立金は80円/㎡にとどまり、長期的に積立不足が懸念されます。
家賃競争力を保つための適正目安は、ワンルームで管理費+修繕積立金が賃料の12%以内、ファミリータイプで10%以内です。この数値を超える場合は、再販価値や将来の値上げ計画までシミュレーションしたうえで購入判断を下す必要があります。
管理費を賢くコントロールする方法
実は、購入後も管理費を完全に固定費とあきらめる必要はありません。オーナーとして管理組合総会に参加し、コスト削減提案を行うことで値上げ幅を抑える余地があります。たとえばLED照明への切り替え、エレベーター保守契約の見直し、インターネット一括契約などは効果が大きく、組合決議で採用例が増えています。
また、管理会社変更による手数料低減も有効です。国交省ガイドラインでは複数社からの相見積もりを推奨しており、競争入札の導入で年間5〜10%の削減実績が報告されています。オーナーが率先して情報収集し、理事会に資料を提示すれば、組合の合意形成がスムーズになるでしょう。
結論として、マンション投資の収益性は購入時の利回りだけでなく、運営段階での管理費コントロールにかかっています。固定費を見える化し、能動的に関与する姿勢が長期的なキャッシュフローを安定させる鍵になります。
まとめ
ここまで、マンション投資における管理費の基礎知識と比較の着眼点を解説しました。管理費は面積当たりの単価で比べ、修繕積立金と合わせた総コストで判断することが重要です。さらに、組合運営に参加してコスト削減策を提案すれば、将来の利回り低下を防げます。今日得た視点を物件選びや保有マンションの見直しに活かし、手残りの最大化を図りましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅局「マンション総合調査 2025」 – https://www.mlit.go.jp
- 不動産経済研究所「首都圏新築マンション市場動向 2025年9月」 – https://www.fudousankeizai.co.jp
- 東京都都市整備局「マンション管理適正化指針」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 一般社団法人マンション管理業協会「管理費・修繕積立金の実態調査2024」 – https://www.hikanri.or.jp
- 住宅金融支援機構「マンション大規模修繕の実務ガイド2025」 – https://www.jhf.go.jp