賃料をいくらにすれば入居者が集まり、なおかつ安定した利益を出せるのか――アパート経営における家賃設定は、初心者ほど頭を悩ませるテーマです。高過ぎれば空室が増え、低過ぎればキャッシュフローが細ります。本記事では、15年以上現場で物件を運営してきた経験をもとに、調査から見直しまでの具体的なステップを網羅的に解説します。読み進めれば「相場をどう読み解くか」「どの数値を重視すべきか」が見えてくるはずです。数字に強くなくても実践できる手順を示しますので、最後までお付き合いください。
家賃設定が投資成績を左右する理由

まず押さえておきたいのは、家賃がアパート経営の収益構造を直接決定するという事実です。家賃は毎月の売上そのものであり、返済額や修繕積立とのバランスが崩れるとキャッシュフローが瞬時に赤字へ傾きます。国土交通省の住宅統計によると、2025年7月の全国アパート空室率は21.2%と依然高水準ですが、前年より0.3ポイント改善しました。つまり、適正な家賃を提示できれば入居者を獲得しやすい環境が整いつつあると言えます。一方で、周辺相場を無視した高値設定は空室期間を長期化させ、広告費やリフォーム費の追加支出を招く点に注意が必要です。
次に、家賃は金融機関の融資条件にも影響を与えます。収支計画で示す家賃が現実離れしていると、年間返済比率が高く見え、融資額が下がる傾向があります。つまり、家賃設定は購入前の段階から出口戦略まで連動する長期的な意思決定なのです。加えて、入居者の属性や滞納リスクも家賃帯によって変わります。適切な水準を導き出すことが、健全な運営の土台になると言っても過言ではありません。
市場調査で押さえる三つの視点

重要なのは、家賃を「周辺相場」「競合物件」「需要動向」の三つの視点で確認することです。まず周辺相場については、同じ徒歩分数・築年数・専有面積の物件を10件以上抽出し、平均値と中央値を取ります。ポータルサイトだけではデータがばらつくため、賃貸仲介会社で実際の成約事例を聞くと精度が上がります。
次に競合物件の特徴を調べます。例えば同じ家賃帯でも、無料インターネットが付いていれば入居者の評価は高くなります。逆にオートロックが無い築古アパートは、若い単身者から敬遠されがちです。設備差を数値化する方法として、想定賃料を500円単位で加減しながらシミュレーションを行うと比較しやすくなります。
三つ目は需要動向です。総務省の住民基本台帳移動報告を見ると、2024年度は地方中核市への転入超過が目立ちました。人口が増えるエリアでは多少強気な価格でも決まりやすい一方、減少が続く郊外では家賃を抑えつつ長期入居を促す施策が欠かせません。このように、家賃設定は静的な数字ではなく、地域ごとの人口トレンドを組み込んで動的に判断することが大切です。
原価と収益目標から逆算する家賃
実は、相場を参考にするだけでは十分とは言えません。家賃は「取得コスト」「運営費」「目標利回り」を加味して逆算する必要があります。取得コストには物件価格だけでなく、不動産取得税や登記費用、仲介手数料などが含まれます。運営費は管理委託料、固定資産税、火災保険、原状回復費などで、年間家賃収入の20〜25%が目安です。
家賃逆算のステップは次のとおりです。最初に、目標利回りを年6%と決めた場合、年間家賃収入は物件価格の6%となります。そこから運営費を差し引き、さらにローン返済額を引いた残りが手取りになります。この手取りがプラスであり、かつ周辺相場と乖離していないかを確認します。もし乖離が大きい場合は、購入価格の再交渉かリフォームの付加価値向上で帳尻を合わせる選択肢が必要です。
さらに、安全マージンを確保するために空室率15%で再計算しておくと安心です。国交省データの21.2%より低い設定ですが、適切な管理を行えば十分実現可能なラインです。このように原価と収益から逆算し、相場で微調整する二段構えを取ることで、家賃は理論的かつ実践的な水準に収まります。
調整と運用:入居率を守る価格改定
ポイントは、家賃を一度決めたら終わりではなく、運用しながら調整することです。入居募集後の反響が少ない場合は、500円単位で賃料を下げつつ、フリーレントや設備追加といった非価格インセンティブも併用します。反対に、募集開始から1週間で申し込みが入るほど人気があるなら、次回募集では1,000円程度の値上げを試す余地があります。
また、既存入居者への値上げは慎重に行います。国税庁の家賃増減改定ガイドラインでは、近隣相場との差額が5%以上ある場合に協議が妥当とされています。そこで、更新時に修繕履歴や設備改良を示しながら緩やかな改定を提案すると、退去率上昇を抑えられます。家賃収入の安定は長期入居に支えられるため、短期的な増収と長期的な空室リスクを天秤にかける姿勢が求められます。
さらに、家賃保証会社の利用料金や広告費も定期的に見直しましょう。保証料が高い地域では、物件設備を充実させて高属性層を呼び込む方がトータルコストを抑えられるケースがあります。結論として、家賃設定は数字の調整というより、マーケティングとリスク管理を統合した運用プロセスなのです。
2025年度の制度活用と注意点
まず知っておきたいのは、2025年度も継続される「住宅省エネ改修支援補助金」です。一定の断熱性能向上工事を実施すると、1戸あたり上限45万円が交付されます。家賃そのものを値上げせずに募集力を高められるため、築古アパートをお持ちなら検討の価値があります。ただし、交付申請は工事完了後3カ月以内という期限があるため、資金計画と工程表を前倒しで組むことが重要です。
また、都市部の一部自治体では子育て世帯の転入を促進するための家賃補助が継続中です。たとえば東京都墨田区では、2025年度も月額1万円を最大24カ月支給する制度があり、対象者が物件を選ぶ際の決め手になることがあります。物件オーナーが直接交付を受けるわけではありませんが、制度を紹介することで差別化につながります。
一方で、補助金頼みの家賃設定はリスクが高い点に注意が必要です。制度は予算消化や政策変更で突然終了する可能性があるため、家賃算定の前提には組み込まず、あくまでプラスアルファとして活用しましょう。
まとめ
家賃設定はアパート経営の出発点であり、運営を通じて常に改善するテーマです。相場と競合分析で外部環境を捉え、原価と目標利回りから逆算して内部指標を固める。さらに、運用中の反響や制度を織り交ぜながら微調整する。この一連の「アパート経営 家賃設定 ステップ」を丁寧に実行すれば、空室率が2割を超える時代でも安定収益は十分に可能です。今日からまず、周辺成約事例を10件集めるところから始めてみてください。データと現場感覚の両輪で、着実に成果を積み重ねていきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年7月速報値 – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 総務省 住民基本台帳人口移動報告 2024年度 – https://www.soumu.go.jp/
- 国税庁 不動産の賃貸収入に係る家賃改定ガイドライン – https://www.nta.go.jp/
- 東京都墨田区 子育て世帯家賃助成制度 2025年度要綱 – https://www.city.sumida.lg.jp/
- 環境省 住宅省エネ改修支援補助金 2025年度概要 – https://www.env.go.jp/