不動産投資を始めようと考えたとき、多くの方が最初に直面する疑問が「毎月の返済額はいくらまでなら安全なのか」という点です。物件価格や利回りばかりに目が行きがちですが、実は返済比率の設定こそが投資の成否を分ける重要なポイントになります。返済比率を適切に設定できれば、空室や金利上昇といったリスクにも対応でき、長期的に安定した収益を得られます。この記事では、不動産投資における返済比率の安全な基準から、具体的な計算方法、さらには状況別の最適な設定まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
返済比率とは何か?基本的な考え方を理解する

返済比率とは、家賃収入に対する年間返済額の割合を示す指標です。たとえば年間の家賃収入が120万円で、ローンの年間返済額が60万円なら、返済比率は50%となります。この数値が低いほど手元に残るお金が多くなり、投資の安全性が高まります。
不動産投資では、家賃収入からローン返済だけでなく、管理費や修繕費、固定資産税なども支払う必要があります。そのため、返済比率が高すぎると、これらの経費を支払った後に手元に残る資金が少なくなってしまいます。最悪の場合、空室が発生したときに自己資金から補填しなければならない状況に陥ることもあります。
一般的に、不動産投資における安全な返済比率は40〜50%以下とされています。これは多くの金融機関が融資審査の際に重視する基準でもあります。国土交通省の調査によると、賃貸住宅経営で安定した収益を上げている投資家の平均返済比率は45%前後となっています。
ただし、この数値はあくまで目安です。物件の立地や築年数、投資戦略によって最適な返済比率は変わってきます。都心の新築マンションと地方の中古アパートでは、リスクの性質が異なるため、同じ基準を当てはめることはできません。自分の投資スタイルに合わせた返済比率を設定することが重要です。
安全な返済比率の具体的な基準とは

実際の不動産投資では、返済比率を40〜50%に抑えることが基本的な安全ラインとなります。この範囲内であれば、空室が発生しても一定期間は自己資金の補填なしで対応できる可能性が高まります。
より保守的な投資を目指すなら、返済比率を30〜40%に設定することをおすすめします。この水準なら、家賃収入の60〜70%が手元に残るため、管理費や修繕費を支払った後も十分なキャッシュフローを確保できます。日本不動産研究所のデータでは、返済比率が35%以下の物件は、10年以上の長期保有でも安定した収益を維持している割合が高いことが示されています。
一方、返済比率が50%を超える場合は注意が必要です。この水準では、空室率が10%を超えたり、予期せぬ修繕が発生したりすると、すぐに収支が赤字になるリスクがあります。特に初心者の方は、経験不足から想定外の支出に対応できないことも多いため、できるだけ低い返済比率から始めることが賢明です。
返済比率60%以上は危険水域と考えてください。この場合、わずかな空室や家賃下落でも自己資金からの補填が必要になります。金融機関も返済比率が高すぎる案件には融資を渋る傾向があり、そもそも投資として成立しにくい状況といえます。
返済比率を計算する具体的な方法
返済比率の計算方法は比較的シンプルです。まず年間の家賃収入を算出し、次に年間のローン返済額を計算します。そして「年間返済額÷年間家賃収入×100」で返済比率が求められます。
具体例で見てみましょう。物件価格3000万円、頭金600万円、借入額2400万円、金利2%、返済期間30年の場合を考えます。この条件での月々の返済額は約8万9000円、年間では約106万8000円となります。一方、月額家賃が8万円で年間家賃収入が96万円なら、返済比率は「106万8000円÷96万円×100=約111%」となります。
この例では返済比率が100%を超えており、家賃収入だけではローン返済すらできない状態です。これは明らかに投資として成立していません。このような場合は、頭金を増やして借入額を減らすか、より家賃の高い物件を選ぶ必要があります。
計算の際に注意したいのは、満室想定ではなく実質的な家賃収入で考えることです。空室率を10〜20%程度見込んで計算すると、より現実的な返済比率が分かります。たとえば年間家賃収入96万円の物件で空室率15%を想定すると、実質収入は約82万円になります。この場合の返済比率は「106万8000円÷82万円×100=約130%」となり、さらに厳しい状況が見えてきます。
物件タイプ別の適正な返済比率
物件のタイプによって、適正な返済比率は変わってきます。新築マンションと中古アパートでは、リスクの性質が大きく異なるためです。
新築マンションの場合、当面は大きな修繕費がかからないため、返済比率を45〜50%程度まで許容できます。また、新築プレミアムにより高めの家賃設定が可能なことも多く、初期の収益性は比較的高くなります。ただし、築年数が経過すると家賃が下落するリスクがあるため、長期的な視点では保守的な計画が必要です。
中古物件の場合は、返済比率を35〜40%程度に抑えることが望ましいでしょう。築年数が経過している分、突発的な修繕費が発生する可能性が高くなります。給湯器の交換で20万円、外壁塗装で100万円以上かかることも珍しくありません。低めの返済比率を設定することで、こうした支出に対応できる余裕を持つことができます。
一棟アパートやマンションの場合は、さらに慎重な設定が求められます。複数の部屋があるため空室リスクは分散されますが、共用部分の修繕費用が大きくなる傾向があります。返済比率は30〜40%を目安とし、修繕積立金を別途確保しておくことが重要です。
区分マンションは、管理費や修繕積立金が毎月固定でかかるため、これらを含めた総支出で返済比率を考える必要があります。実質的な返済比率が50%を超えないよう、物件選びの段階で慎重に検討しましょう。
返済比率を下げるための実践的な方法
返済比率が高すぎる場合、いくつかの方法で改善することができます。最も効果的なのは、頭金を増やして借入額を減らすことです。
頭金を物件価格の30%以上用意できれば、返済比率を大幅に下げられます。たとえば3000万円の物件で頭金を300万円から900万円に増やすと、借入額が2700万円から2100万円に減り、月々の返済額も約2万円少なくなります。これにより返済比率を10〜15%程度改善できます。
返済期間を延ばすことも選択肢の一つです。返済期間を25年から30年に延ばせば、月々の返済額は減少します。ただし、総返済額は増えるため、長期的な収益性とのバランスを考える必要があります。また、築年数が古い物件では、金融機関が長期の融資を認めないこともあるため注意が必要です。
複数の金融機関を比較して、より低い金利で借りることも重要です。金利が0.5%違うだけで、30年間の総返済額は数百万円の差が生じます。メガバンク、地方銀行、信用金庫など、それぞれ融資条件が異なるため、複数の選択肢を検討しましょう。
物件選びの段階で、より高い家賃収入が見込める物件を選ぶことも根本的な解決策です。駅近物件や人気エリアの物件は、多少価格が高くても空室リスクが低く、安定した家賃収入を得られます。表面利回りだけでなく、実質利回りや将来の資産価値も含めて総合的に判断することが大切です。
返済比率以外に注目すべき重要な指標
返済比率は重要な指標ですが、これだけで投資判断をすることは危険です。他の指標も併せて確認することで、より安全な投資が可能になります。
まず注目したいのがDSCR(デット・サービス・カバレッジ・レシオ)です。これは年間の営業純利益が年間返済額の何倍あるかを示す指標で、1.3倍以上が安全ラインとされています。DSCRが1.0を下回ると、営業利益だけでは返済できない状態を意味します。金融機関の融資審査でも重視される指標なので、必ず確認しましょう。
キャッシュフロー(CF)も重要です。これは家賃収入から、ローン返済、管理費、修繕費、税金などすべての支出を差し引いた手元に残るお金です。月々のCFがプラスであることは最低条件ですが、できれば月3万円以上のプラスを目指したいところです。これにより、空室が発生しても一定期間は耐えられる余裕が生まれます。
自己資本利益率(ROE)は、投資した自己資金に対してどれだけの利益を得られているかを示します。年間CFを自己資金で割った値で、10%以上が一つの目安となります。この指標が低い場合、自己資金を他の投資に回した方が効率的な可能性もあります。
空室率の想定も忘れてはいけません。国土交通省の調査では、全国の賃貸住宅の平均空室率は約17%となっています。地域や物件タイプによって大きく異なりますが、最低でも10〜15%の空室を想定した収支計画を立てることが重要です。
金利上昇リスクへの備え方
変動金利でローンを組んでいる場合、金利上昇は返済比率を大きく変動させる要因となります。2024年以降、日本銀行の金融政策変更により、長期的な金利上昇の可能性が高まっています。
現在の金利が1.5%だとしても、将来3%や4%に上昇する可能性を考慮しておく必要があります。金利が1%上昇すると、3000万円の借入で月々の返済額が約1万5000円増加します。これにより返済比率が5〜10%程度上昇することになります。
金利上昇に備えるには、まず現在の金利で返済比率を40%以下に抑えることが基本です。そうすれば、金利が2%程度上昇しても返済比率は50%台に収まり、何とか対応できる範囲に留まります。
固定金利への借り換えも選択肢の一つです。変動金利より金利は高くなりますが、将来の金利上昇リスクを回避できます。ただし、固定金利は変動金利より0.5〜1%程度高いため、当初の返済負担は増えます。自分のリスク許容度と投資戦略に応じて選択しましょう。
繰り上げ返済の計画を立てることも重要です。余裕資金ができたら積極的に繰り上げ返済を行い、借入残高を減らしていきます。これにより、金利が上昇しても返済額の増加を抑えることができます。年間CFの30〜50%を繰り上げ返済に回すことを目標にすると良いでしょう。
初心者が陥りやすい返済比率の落とし穴
不動産投資を始めたばかりの方は、返済比率の計算や判断で失敗しがちです。よくある落とし穴を知っておくことで、同じ過ちを避けることができます。
最も多い失敗は、満室想定で返済比率を計算してしまうことです。販売資料に記載されている想定家賃収入は、常に満室であることを前提としています。しかし実際には、入居者の入れ替わり時期や、思うように入居者が決まらない期間が必ず発生します。空室率を15〜20%見込んで計算しないと、実際の運用で苦しむことになります。
管理費や修繕費を軽視することも危険です。区分マンションの場合、管理費と修繕積立金で月2〜3万円かかることも珍しくありません。一棟物件でも、年間で家賃収入の10〜15%程度の維持費がかかります。これらを考慮せずに返済比率だけを見ていると、実際の手取りが想定より大幅に少なくなってしまいます。
新築プレミアムの家賃で計算してしまうことも要注意です。新築時は周辺相場より10〜20%高い家賃設定ができることがありますが、数年後には相場並みに下がることがほとんどです。長期的な家賃下落を見込んだ返済比率の設定が必要です。
金融機関の融資審査が通ったから安全だと考えるのも誤りです。金融機関は貸し倒れリスクを重視しますが、投資家の収益性までは保証してくれません。審査に通った物件でも、実際には収益性が低いケースは多々あります。自分自身で厳しく返済比率を検証することが重要です。
返済比率を活用した物件選びの実践
返済比率を理解したら、実際の物件選びに活用していきましょう。具体的な手順を踏むことで、安全な投資物件を見極めることができます。
まず物件情報を見たら、すぐに返済比率を計算する習慣をつけましょう。物件価格、想定家賃、自己資金額、金利、返済期間を入力すれば、簡単に計算できるシミュレーションツールも多数あります。この段階で返済比率が50%を超えるようなら、その物件は候補から外すか、条件を変更できないか検討します。
次に、空室率を考慮した実質的な返済比率を計算します。想定家賃収入から15〜20%を差し引いた金額で再計算し、それでも返済比率が50%以下に収まるか確認します。この段階でも基準を満たしていれば、より詳細な検討に進む価値があります。
管理費、修繕費、固定資産税などの経費も含めた総合的な収支計画を立てます。これらの経費は家賃収入の20〜30%程度を見込むのが一般的です。すべての支出を差し引いた後のキャッシュフローがプラスになるか、できれば月3万円以上のプラスになるかを確認しましょう。
複数の物件を比較する際は、返済比率だけでなく、立地、築年数、将来性なども総合的に評価します。返済比率が低くても、将来的に家賃が大きく下落する可能性がある物件は避けるべきです。逆に、返済比率がやや高めでも、駅近で資産価値が維持されやすい物件なら、長期的には有利な投資となる可能性があります。
返済比率を改善する長期的な戦略
不動産投資を始めた後も、返済比率を継続的に改善していくことが重要です。長期的な視点で戦略を立てることで、より安定した投資を実現できます。
繰り上げ返済を計画的に実行することが、最も確実な改善方法です。年間のキャッシュフローの30〜50%を繰り上げ返済に回すことを目標にしましょう。たとえば年間CFが60万円なら、20〜30万円を繰り上げ返済に充てます。これを5年間続ければ、借入残高を100〜150万円減らすことができ、返済比率も5〜10%程度改善されます。
家賃収入を増やす工夫も効果的です。リフォームやリノベーションにより、周辺相場より高い家賃設定が可能になることがあります。100万円程度の投資で月5000円の家賃アップができれば、年間6万円の収入増となり、投資回収期間は約17年です。長期保有を前提とするなら、十分に検討する価値があります。
複数物件を所有する場合は、ポートフォリオ全体で返済比率を管理することも重要です。返済比率の低い物件と高い物件を組み合わせることで、全体としてのリスクを分散できます。また、一つの物件で問題が発生しても、他の物件の収益でカバーできる体制を作ることができます。
定期的に借り換えを検討することも忘れてはいけません。金利が下がっている時期や、返済実績が積み上がって信用力が向上した時期には、より有利な条件で借り換えができる可能性があります。借り換え手数料を考慮しても、長期的にはメリットが大きいケースも多くあります。
まとめ
不動産投資における返済比率は、投資の安全性を測る最も重要な指標の一つです。基本的には40〜50%以下を目安とし、より保守的な投資を目指すなら30〜40%に抑えることが理想的です。ただし、物件のタイプや立地、投資戦略によって最適な水準は変わってくるため、自分の状況に合わせた判断が必要になります。
返済比率を計算する際は、満室想定ではなく空室率を考慮した実質的な家賃収入で考えることが重要です。また、管理費や修繕費などの経費も含めた総合的な収支計画を立て、キャッシュフローがプラスになることを確認しましょう。金利上昇リスクにも備え、現在の金利で余裕のある返済比率を設定することが、長期的な成功につながります。
不動産投資は長期的な視点が必要な投資です。最初は保守的な返済比率から始め、経験を積みながら徐々に投資規模を拡大していくことをおすすめします。返済比率を適切に管理することで、安定した収益を得ながら、着実に資産を増やしていくことができるでしょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 – 令和5年度住宅経済関連データ – https://www.mlit.go.jp/statistics/
- 日本不動産研究所 – 不動産投資家調査(2025年10月) – https://www.reinet.or.jp/
- 金融庁 – 投資用不動産に関する実態調査 – https://www.fsa.go.jp/
- 総務省統計局 – 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp/
- 日本銀行 – 金融政策に関する統計データ – https://www.boj.or.jp/
- 不動産流通推進センター – 不動産市場動向データ – https://www.retpc.jp/
- 住宅金融支援機構 – 民間住宅ローンの実態調査 – https://www.jhf.go.jp/