賃貸物件を運営していると、給湯器の故障は突然やってきます。入居者から「お湯が出ない」と連絡を受けて慌てて業者を呼び、見積もりを見て驚いた経験はありませんか。修理費用が10万円を超えることも珍しくなく、この出費が経費として認められるのか、それとも資産計上すべきなのか迷う方も多いでしょう。実は給湯器の修理費用は、状況によって税務上の扱いが大きく変わります。この記事では、給湯器修理費の経費計上について、基本的なルールから実務的な判断基準まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。正しい知識を身につけることで、適切な税務処理ができるようになり、無駄な税金を払わずに済むようになります。
給湯器修理費が経費になるかどうかの基本ルール

不動産投資における給湯器の修理費用は、基本的に経費として計上できます。ただし、すべてのケースで即座に経費にできるわけではなく、税務上の明確な判断基準が存在します。
国税庁の定める基準では、修理や改良にかかった費用が「修繕費」に該当するか「資本的支出」に該当するかで扱いが変わります。修繕費とは、建物や設備の維持管理や原状回復のための支出で、その年の経費として一括計上できるものです。一方、資本的支出は建物や設備の価値を高めたり、使用可能期間を延長したりする支出で、資産として計上し減価償却する必要があります。
給湯器の場合、既存の機器が故障して同等品に交換する修理であれば、通常は修繕費として扱われます。例えば、10年使用した給湯器が壊れて同程度の性能の新品に交換した場合、これは原状回復のための支出と考えられるため経費計上が可能です。国税庁の通達では、1つの修理や改良にかかる金額が20万円未満であれば、その全額を修繕費として処理できると明記されています。
しかし、単純な修理や交換ではなく、明らかに性能が向上する高機能な給湯器に変更した場合は注意が必要です。例えば、従来の給湯専用機から追い焚き機能付きの高級機種に変更したり、容量を大幅に増やしたりした場合は、資本的支出と判断される可能性があります。このような場合、費用を資産計上して法定耐用年数に応じて減価償却することになります。
修繕費として一括経費にできる具体的なケース

給湯器の修理費用を修繕費として一括で経費計上できるケースには、いくつかの典型的なパターンがあります。これらを理解しておくことで、実際の税務処理で迷うことが少なくなります。
最も一般的なのは、故障した給湯器を同等品に交換するケースです。例えば、築15年のアパートで16号の給湯器が故障し、同じ16号の標準的な給湯器に交換した場合、交換費用が15万円だったとします。この場合、建物の価値を高めるものではなく原状回復のための支出と判断されるため、全額をその年の修繕費として計上できます。
部分的な修理も修繕費として扱われます。給湯器本体は問題ないものの、配管の一部が劣化して水漏れが発生したため、その部分だけを修理したケースでは、修理費用5万円を全額経費にできます。このような維持管理のための支出は、明らかに修繕費の範疇に入ります。
また、定期的なメンテナンス費用も修繕費です。給湯器の点検や清掃、消耗部品の交換などにかかる費用は、設備を正常に機能させるための必要経費として認められます。年1回の定期点検で2万円かかった場合、これも修繕費として計上可能です。
さらに、災害による損傷の修理も修繕費になります。台風で給湯器が損傷し、修理に8万円かかった場合、これは原状回復のための支出として修繕費に該当します。ただし、この機会により高性能な機種に変更した場合は、性能向上部分について資本的支出と判断される可能性があるため注意が必要です。
資本的支出として資産計上すべきケースとは
一方で、給湯器関連の支出でも資本的支出として資産計上しなければならないケースがあります。これらを正しく理解することで、税務調査で指摘を受けるリスクを避けられます。
最も分かりやすいのは、明らかに性能が向上する交換を行った場合です。例えば、従来の給湯専用機から給湯・追い焚き機能付きのオートタイプに変更し、費用が30万円かかったとします。この場合、単なる交換ではなく機能の追加による価値向上と判断され、資本的支出として扱われる可能性が高くなります。このような支出は、給湯器の法定耐用年数である6年で減価償却することになります。
容量の大幅な増加も資本的支出と判断される要因です。従来16号だった給湯器を24号の大容量タイプに変更した場合、使用可能な湯量が増えることで建物の価値が向上したと見なされます。特に、入居者の利便性が明らかに向上するような変更は、資本的支出として扱われる傾向があります。
省エネ性能の大幅な向上を伴う交換も注意が必要です。従来型の給湯器からエコジョーズなどの高効率給湯器に変更し、費用が40万円かかった場合、ランニングコストの削減という経済的価値の向上があるため、資本的支出と判断される可能性があります。ただし、2026年度の省エネ改修に関する税制優遇措置を利用できる場合もあるため、税理士に相談することをお勧めします。
複数の設備を同時に改修した場合も、総額で判断されることがあります。給湯器交換と同時に配管全体を新しくし、浴室設備も一新した場合、個別には20万円未満でも合計金額が大きくなれば、一連の改修工事として資本的支出と判断される可能性があります。このような場合、工事を分けて発注するなどの工夫が必要になることもあります。
20万円未満と60万円未満の判断基準を理解する
給湯器修理費の経費処理では、金額による判断基準が重要な役割を果たします。これらの基準を正しく理解することで、適切な税務処理が可能になります。
まず押さえておきたいのは、1つの修理や改良にかかる金額が20万円未満の場合、その支出の性質に関わらず修繕費として処理できるという原則です。例えば、給湯器の交換費用が18万円だった場合、たとえ多少性能が向上する機種に変更したとしても、全額をその年の経費として計上できます。この基準は、中小企業や個人事業主の事務負担を軽減するために設けられており、実務上非常に重要な判断基準となっています。
次に重要なのが60万円未満の基準です。修理や改良の金額が20万円以上60万円未満の場合、その支出が修繕費か資本的支出か明らかでないときは、その金額の30%相当額と前期末の取得価額の10%相当額のいずれか少ない金額を修繕費として、残額を資本的支出として処理する方法が認められています。
具体例で説明しましょう。給湯器の交換費用が50万円かかり、修繕費か資本的支出か判断が難しい場合を考えます。建物の前期末取得価額が3000万円だとすると、その10%は300万円です。一方、50万円の30%は15万円です。この場合、少ない方の15万円を修繕費として経費計上し、残りの35万円を資本的支出として資産計上することができます。
ただし、この特例を使う場合は、継続的に同じ方法を適用する必要があります。ある年は全額修繕費にして、別の年は資本的支出にするといった恣意的な処理は認められません。また、明らかに資本的支出に該当する場合は、この特例を使うことはできません。例えば、給湯器の交換と同時に配管を全面的に更新し、明らかに建物の価値が向上した場合は、金額に関わらず資本的支出として処理すべきです。
実務で迷いやすいケースの判断方法
実際の不動産投資の現場では、教科書通りにいかない複雑なケースに遭遇することがあります。ここでは、実務でよくある迷いやすいケースについて、具体的な判断方法を解説します。
給湯器の交換と同時に配管工事も行った場合、これらを一体として考えるべきか別々に考えるべきか迷うことがあります。基本的には、一連の工事として発注し、一つの目的のために行われた場合は、合計金額で判断します。例えば、給湯器交換15万円と配管工事8万円で合計23万円の場合、20万円を超えるため資本的支出の可能性を検討する必要があります。しかし、給湯器の故障に伴う交換と、たまたま同時期に発見された配管の劣化修理という別々の理由であれば、個別に判断できる可能性もあります。
複数の部屋の給湯器を同時に交換した場合も判断が分かれます。3部屋の給湯器を同時に交換し、1台あたり15万円で合計45万円かかったケースでは、各部屋の給湯器は独立した設備と考えられるため、それぞれ15万円の修繕費として処理できます。ただし、税務署によって解釈が異なる場合もあるため、心配な場合は税理士に相談することをお勧めします。
中古物件を購入してすぐに給湯器を交換した場合も注意が必要です。購入後すぐの交換は、物件の取得価額に含めるべきという考え方もあります。特に、購入時の価格交渉で給湯器の状態が考慮されていた場合や、購入後の修繕を前提に価格が決まっていた場合は、取得価額に含める方が適切です。一方、購入後しばらく経ってから故障した場合は、通常の修繕費として処理できます。
リース契約で給湯器を導入した場合は、また別の処理が必要です。リース料は毎月の経費として計上しますが、リース期間終了後に買い取る場合の残価設定などによって、実質的な購入と判断されることもあります。リース契約を検討する際は、税務上の取り扱いについても確認しておくことが重要です。
経費計上する際の必要書類と記録の残し方
給湯器の修理費用を適切に経費計上するためには、必要な書類をきちんと保管し、記録を残すことが不可欠です。税務調査で指摘を受けないための実務的なポイントを説明します。
最も重要なのは、修理や交換の内容が分かる見積書と請求書です。見積書には、作業内容、使用する機器の型番、工事費用の内訳が明記されている必要があります。「給湯器交換一式」といった曖昧な記載ではなく、「○○製16号給湯器本体」「取り外し工事費」「取り付け工事費」「配管材料費」など、詳細が分かる内容が望ましいです。請求書も同様に、何に対する費用なのかが明確に分かるものを保管しましょう。
支払いの証拠も必須です。銀行振込の場合は振込明細書、現金払いの場合は領収書を必ず保管します。クレジットカード払いの場合は、カード会社の利用明細だけでなく、店舗発行の利用伝票も保管しておくと安心です。特に高額な支出の場合、支払いの事実を証明できる書類がないと、税務調査で経費として認められない可能性があります。
作業前後の写真を撮影しておくことも有効です。故障した給湯器の状態、型番が分かる銘板部分、新しく設置した給湯器の写真などを残しておくと、修繕の必要性や交換内容を客観的に説明できます。特に、同等品への交換であることを証明したい場合、新旧の型番が分かる写真は有力な証拠になります。
修繕の経緯を記録することも大切です。いつ入居者から連絡があったか、業者に依頼した日時、修理完了日などを管理台帳に記録しておきましょう。また、なぜその修理が必要だったのか、どのような判断で業者や機種を選んだのかといった経緯をメモしておくと、後から振り返る際に役立ちます。
複数年にわたる修繕履歴を管理することも重要です。同じ給湯器で過去にどのような修理を行ったか、いつ交換したかといった履歴を残しておくと、修繕費か資本的支出かの判断材料になります。例えば、5年前に同じ給湯器を交換していれば、今回の交換は明らかに修繕費と判断しやすくなります。
まとめ
給湯器の修理費用が経費になるかどうかは、修理の内容と金額によって判断が分かれます。基本的に、故障した給湯器を同等品に交換する場合や、維持管理のための修理は修繕費として一括経費にできます。特に20万円未満の支出は、内容に関わらず修繕費として処理できるため、実務上非常に使いやすい基準となっています。
一方で、明らかに性能が向上する交換や、大幅な容量増加を伴う場合は資本的支出として資産計上し、減価償却する必要があります。判断に迷う場合は、60万円未満であれば一定の割合で修繕費と資本的支出に分ける方法も認められています。
重要なのは、適切な書類を保管し、修理の経緯や内容を記録として残すことです。見積書、請求書、支払い証明書はもちろん、作業前後の写真や修繕履歴も保管しておくことで、税務調査にも自信を持って対応できます。
不動産投資では、給湯器以外にもさまざまな修繕が発生します。今回解説した判断基準は、他の設備修理にも応用できる考え方です。正しい知識を身につけて適切な税務処理を行うことで、無駄な税金を払わずに済み、投資効率を高めることができます。判断に迷った場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。適切な経費処理は、長期的な不動産投資の成功につながる重要な要素なのです。
参考文献・出典
- 国税庁 – 修繕費とならないものの判定 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm
- 国税庁 – 資本的支出と修繕費 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm
- 国税庁 – 少額の減価償却資産の取得価額の損金算入 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5403.htm
- 国税庁 – 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
- 国土交通省 – 長期優良住宅化リフォーム推進事業 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000193.html
- 一般社団法人 住宅リフォーム推進協議会 – 住宅リフォームガイドブック – https://www.j-reform.com/
- 東京都主税局 – 個人事業税のあらまし – https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/kojin_ji.html