相続税対策として不動産投資を検討している方の中には、「評価額を下げるために物件を買うのは税務署に問題視されないだろうか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。実際、相続税の節税を目的とした不動産購入は一般的な対策ですが、やり方を間違えると税務調査で否認されるリスクがあります。この記事では、相続税評価を下げるために不動産を買うことの是非について、法的な観点と実務的なポイントを詳しく解説します。適切な知識を身につけることで、安心して相続税対策を進められるようになるでしょう。
相続税評価を下げる不動産購入は合法なのか

結論から言えば、相続税評価を下げるために不動産を購入すること自体は違法ではありません。むしろ、税法で認められた正当な節税手段として、多くの資産家が活用している方法です。現金で1億円を持っている場合、その評価額は額面通り1億円ですが、同じ金額で不動産を購入すると、相続税評価額は6,000万円から7,000万円程度まで下がることが一般的です。
この仕組みは税法上明確に定められています。不動産の相続税評価額は、土地については路線価方式または倍率方式で計算され、建物については固定資産税評価額がそのまま使われます。路線価は実勢価格の約80%、固定資産税評価額は建築費の約60%に設定されているため、現金を不動産に換えるだけで評価額が大幅に圧縮されるのです。
さらに賃貸物件として運用すれば、貸家建付地や貸家の評価減が適用されます。これにより土地は約20%、建物は約30%の評価減を受けられるため、トータルでは現金の半分以下の評価額になることも珍しくありません。国税庁もこの計算方法を公式に認めており、適切に申告すれば何ら問題はないのです。
ただし重要なのは、この節税対策が「適切に」行われているかという点です。税法上は合法であっても、あまりにも露骨な節税目的だけの取引は、税務署から「租税回避行為」として否認される可能性があります。つまり、不動産購入自体は問題ないものの、その方法やタイミングには十分な注意が必要だということです。
税務署に否認されるケースとは

相続税対策として不動産を購入しても、税務署に否認されてしまうケースが実際に存在します。最も有名なのが2022年の最高裁判決で確定した「マンション節税否認事例」です。この事例では、相続開始直前に高額マンションを購入し、相続税評価額を大幅に圧縮した結果、税務署から否認されました。
税務署が問題視するのは、主に以下のような状況です。まず、相続開始の直前に不動産を購入した場合です。具体的には相続発生の1年以内、特に数ヶ月以内の購入は要注意とされています。被相続人が高齢で健康状態が悪化している時期に、突然高額な不動産を購入すると、明らかに相続税対策だけが目的だと判断されやすくなります。
次に、購入資金の全額を借入で賄い、実質的な資産移転がない場合も問題視されます。例えば、現金1億円を持っている人が、銀行から1億円を借りて不動産を購入し、手元の現金はそのまま残しているようなケースです。これは実質的に資産を増やしただけで、相続税を不当に減らす目的が明白だと見なされます。
さらに、購入した不動産の実勢価格と相続税評価額の乖離が極端に大きい場合も危険です。タワーマンションの高層階など、市場価格は高いのに相続税評価額が著しく低い物件を選んで購入すると、節税目的が露骨すぎると判断されることがあります。実際、都心の高級タワーマンションを使った節税スキームは、税制改正の対象にもなっています。
加えて、購入後すぐに売却する予定が明らかな場合も問題です。相続税申告後、数ヶ月で物件を売却してしまうと、最初から保有する意思がなく、評価額を下げるためだけに購入したと判断されます。税務署は相続前後の一連の取引を総合的に見て判断するため、短期的な売買は避けるべきです。
安全に相続税対策を行うための5つのポイント
相続税評価を下げるために不動産を買うこと自体は問題ありませんが、税務署に否認されないためには適切な方法で実行する必要があります。ここでは、安全に相続税対策を行うための具体的なポイントを解説します。
最も重要なのは、購入のタイミングです。相続発生の少なくとも3年以上前、できれば5年以上前に購入することが望ましいとされています。これにより、相続税対策だけが目的ではなく、資産運用や収益確保という正当な理由があることを示せます。実際に賃貸収入を得て確定申告を行っていれば、事業実態があることの証明にもなります。
次に、購入資金の出所を明確にすることです。自己資金と借入金のバランスを適切に保ち、過度な借入は避けましょう。一般的には、物件価格の30%以上は自己資金で賄うことが推奨されます。また、借入を行う場合でも、返済計画が現実的で、賃貸収入でローンを返済できる見込みがあることが重要です。
物件選びも慎重に行う必要があります。実勢価格と相続税評価額の乖離が極端に大きい物件は避け、適正な価格で収益性の高い物件を選ぶことが大切です。立地や築年数、賃貸需要などを総合的に判断し、長期的に保有する価値のある物件を購入しましょう。タワーマンションの高層階など、明らかに節税目的と見なされやすい物件は慎重に検討すべきです。
さらに、購入後は適切に運用することが求められます。賃貸物件として貸し出し、家賃収入を得て確定申告を行うことで、事業としての実態を示せます。空室期間が長く続いたり、相場より極端に低い家賃で貸したりすると、事業実態がないと判断される可能性があるため注意が必要です。管理会社に委託するなど、適切な管理体制を整えることも重要です。
最後に、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。相続税に詳しい税理士に相談し、購入前に税務リスクを評価してもらうことで、後々のトラブルを避けられます。また、購入後も定期的に相談し、適切な運用方法や申告方法について助言を受けることが、安全な相続税対策につながります。
不動産以外の相続税対策も併用すべき理由
相続税評価を下げるために不動産を買うことは有効な手段ですが、それだけに頼るのはリスクが高いと言えます。不動産投資には空室リスクや価格変動リスクがあり、相続発生時に思わぬ損失を被る可能性もあるからです。そのため、複数の対策を組み合わせることが賢明です。
生前贈与は最も基本的な相続税対策の一つです。年間110万円までの贈与は非課税となるため、長期的に計画的に贈与を行えば、相続財産を大きく減らせます。例えば、子供2人に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、2,200万円の財産を無税で移転できます。さらに、2026年度現在も相続時精算課税制度が利用でき、一定の条件下で最大2,500万円まで贈与税がかからない仕組みもあります。
生命保険の活用も効果的です。生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があり、現金を保険に換えるだけで相続税を減らせます。例えば、法定相続人が3人いれば1,500万円まで非課税となります。また、保険金は受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割協議の対象外となり、相続手続きもスムーズに進みます。
教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与も検討に値します。教育資金は最大1,500万円、結婚・子育て資金は最大1,000万円まで非課税で贈与できる制度があります。ただし、これらの制度には期限や条件があるため、利用前に最新の情報を確認することが必要です。孫への贈与は相続税の課税対象から外れるため、世代を飛ばした資産移転として有効です。
事業承継税制や小規模宅地等の特例など、状況に応じて使える特例措置も多数存在します。自宅の土地については、一定の条件を満たせば330平方メートルまで80%の評価減を受けられる小規模宅地等の特例があります。これらの制度を不動産投資による評価減と組み合わせることで、より効果的な相続税対策が可能になります。
相続税対策で不動産を買う際の具体的な手順
実際に相続税対策として不動産を購入する場合、どのような手順で進めればよいのでしょうか。ここでは、税務リスクを最小限に抑えながら、効果的な対策を実行するための具体的なステップを紹介します。
まず最初に行うべきは、現状の財産評価と相続税の試算です。税理士に依頼して、現時点で相続が発生した場合の相続税額を計算してもらいましょう。この試算により、どの程度の節税が必要か、不動産投資がどの程度効果的かが明確になります。財産の内訳や相続人の構成によって最適な対策は異なるため、個別の状況に応じた計画を立てることが重要です。
次に、購入する不動産の選定を行います。立地や物件タイプ、価格帯などを検討し、長期的に保有する価値のある物件を探しましょう。この段階で不動産会社や不動産コンサルタントに相談し、収益性や将来性を慎重に評価することが大切です。相続税評価額だけでなく、実際の収益性や資産価値の維持・向上も考慮に入れる必要があります。
資金計画の策定も欠かせません。自己資金と借入金のバランスを決め、返済計画を立てます。金融機関との融資交渉では、事業計画書を作成し、賃貸収入による返済の見込みを示すことが求められます。複数の金融機関を比較し、金利や返済条件の良い融資を選ぶことで、長期的な収益性を高められます。
購入後は、適切な管理運用を開始します。賃貸物件として貸し出し、管理会社に委託するなどして、事業としての実態を作ることが重要です。家賃収入は確定申告を行い、適切に納税することで、事業の正当性を示せます。また、定期的に物件の状態をチェックし、必要に応じて修繕やリフォームを行うことで、資産価値を維持します。
最後に、定期的な見直しと調整を行いましょう。税制は頻繁に改正されるため、年に一度は税理士と相談し、対策の有効性を確認することが推奨されます。また、家族構成の変化や財産状況の変動に応じて、計画を柔軟に修正していくことが、長期的に成功する相続税対策の鍵となります。
まとめ
相続税評価を下げるために不動産を買うこと自体は、税法で認められた正当な節税手段であり、問題ありません。現金を不動産に換えることで評価額を大幅に圧縮でき、さらに賃貸物件として運用すれば追加の評価減も受けられます。しかし、購入のタイミングや方法を誤ると、税務署から否認されるリスクがあることも事実です。
安全に相続税対策を行うためには、相続発生の3年以上前に購入すること、適切な資金計画を立てること、実態のある事業として運用することが重要です。また、不動産投資だけに頼らず、生前贈与や生命保険など複数の対策を組み合わせることで、リスクを分散しながら効果的な節税が可能になります。
相続税対策は長期的な視点で計画的に進めることが成功の鍵です。専門家のアドバイスを受けながら、自分の状況に合った最適な方法を選択しましょう。適切な知識と準備があれば、安心して次世代に資産を引き継ぐことができます。今日から一歩ずつ、将来に向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献・出典
- 国税庁 – 相続税・贈与税の基本 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/sozoku.htm
- 国税庁 – 財産評価基本通達 – https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm
- 最高裁判所 – 令和4年判決(マンション節税事例)- https://www.courts.go.jp/
- 国土交通省 – 不動産市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html
- 金融庁 – 不動産投資に関する注意喚起 – https://www.fsa.go.jp/
- 日本税理士会連合会 – 相続税の実務 – https://www.nichizeiren.or.jp/
- 全国宅地建物取引業協会連合会 – 不動産取引の基礎知識 – https://www.zentaku.or.jp/