インフレが進むと、現金や預金だけでは資産価値が目減りするのではと不安になるものです。不動産投資は「実物資産」としてインフレに強いと言われますが、物件選びや資金計画を誤れば収益が圧迫されるリスクもあります。本記事では、家計の安全網としても機能する「不動産投資 インフレ対策」の基本を、初心者にも分かりやすく解説します。読み終える頃には、家賃設定からファイナンス、税制まで具体的な行動イメージがつかめるはずです。
インフレと不動産の関係を理解する

まず押さえておきたいのは、インフレが発生すると現金の購買力が下がる一方で、土地・建物の価格や賃料が上昇しやすい点です。総務省の消費者物価指数によると、2022年から2024年にかけて全国の住居費は年平均2%弱の伸びを示し、都心部ではそれを上回る傾向が続きました。言い換えると、適切な物件を保有していればインフレ分を家賃収入で吸収できる可能性が高まります。
しかし、すべての不動産が等しく恩恵を受けるわけではありません。築年数が進み修繕費が増えると、インフレによる家賃上昇分が維持費に消えるケースもあります。また、人口減少が進むエリアでは物価上昇が家賃に転嫁されにくく、空室リスクがむしろ拡大します。重要なのは、物件と立地がインフレに対して本当に「強い」かどうかを見極める視点です。
つまり、インフレ時代の不動産投資では「価格が上がるから安心」という短絡的な発想を捨て、家賃の伸び、需要動向、維持コストまで総合的に検討することが成功の前提となります。
キャッシュフローを守る家賃設定のコツ

実は、家賃をただ上げればインフレ対策になるわけではありません。家賃相場とかけ離れた設定は入居率を下げ、結果として手取りを減らす恐れがあります。ポイントは、空室が出てから慌てて募集条件を下げるのではなく、継続的な小幅改定を行い「市場と歩調を合わせる」ことです。
筆者が運営する首都圏のワンルーム物件では、2023年から2025年にかけて年1回、1〜2%の値上げを行いました。この程度の改定幅なら既存入居者の退去率は1割未満に収まり、総収入は確実に上昇します。反対に3年放置して一気に5%上げた物件では、退去率が3割を超えた事例がありました。家賃改定は「ゆるやかに・定期的に」が鉄則です。
さらに、設備投資との組み合わせも有効です。宅配ボックスや高速インターネットの導入は、月額2,000円前後のコストで家賃を3,000円引き上げられるケースがあります。設備分のコストを差し引いても手残りが増えるため、インフレを追い風にできる施策と言えるでしょう。
ファイナンス戦略で物価上昇に備える
ポイントは、インフレ局面で「借入金の実質負担が軽くなる」という金融面のメリットを最大化することです。固定金利で長期借入を行えば、物価が上がるほど返済額の実質価値は減少します。日本政策金融公庫の2025年9月時点のデータでは、20年固定でも1.5%前後の低水準が続いており、インフレ率が2%を超える局面では借り得の状態になります。
一方で、変動金利は短期的に低いものの、将来的な金利上昇リスクをはらみます。特にインフレが進むと中央銀行の利上げに連動しやすくなるため、長期保有を前提とするなら固定金利の安心感は大きいでしょう。自己資金の目安としては、物件価格の25%程度を入れると返済比率が低下し、家賃下落や空室が多少発生してもキャッシュフローが黒字で耐えられます。
また、修繕積立金のインフレ対策も忘れないでください。現行の修繕積立金ガイドライン(国土交通省)は物価変動を加味した積立計画を推奨しています。予想より工事費が高騰し、追加徴収が発生するとキャッシュフローが一気に悪化するため、購入前に管理組合の長期修繕計画を必ず確認しましょう。
物件とエリアの選び方が将来の価値を決める
まず、人口動態を読むことがインフレ下での物件選定の出発点です。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2025年から2035年にかけて全国の60%の自治体で人口が減少すると見込まれています。しかし、東京都23区や名古屋市中心部、福岡市などは若年人口がむしろ増加傾向にあり、家賃も堅調です。
次に、用途地域ごとの需給バランスにも目を向けます。準工業地域や郊外の第一種低層住居専用地域では、新築供給が制限されるため、既存物件の稼働率が高く保たれる場合があります。逆に再開発が進む大規模商業地域では、供給過多になりやすく、インフレで建設コストが上がると賃料が追いつかず空室が増えるリスクがあります。
築年数の選択も要です。インフレで建材費が高騰すると新築プレミアムが大きく、利回りは低下しがちです。そのため、築10〜15年で設備がまだ陳腐化していない物件を選び、適切なリフォームで競争力を保つ戦略が有効です。実際に筆者は築12年の区分マンションを平均利回り5.2%で取得し、軽微なリフォームで6%超へ改善できました。
2025年度の税制優遇を上手に活用する
重要なのは、インフレ対策と節税を同時に進めることです。2025年度も個人投資家が利用できる代表的な制度に「住宅ローン控除」があります。自ら居住する部分に適用されるため投資用区分では使えませんが、将来賃貸化を視野に入れている方にとっては節税と資産形成を両立できる選択肢となります。
投資用物件では、減価償却の活用が大きなカギを握ります。特に木造アパートは耐用年数が22年と短く、築古物件なら数年で大半を償却できるため、インフレで増えた家賃と相殺して課税所得を圧縮できます。ただし、2025年度の税制改正で耐用年数の見直しが議論されています。購入前に最新の法令を必ず確認し、税理士にシミュレーションを依頼することを強く推奨します。
最後に、「登録免許税の軽減措置」(2025年3月31日取得分まで)など期限付きの優遇策もあります。適用範囲は自己居住用が中心ですが、投資家が将来の住み替え後に賃貸へ転用する計画を立てれば、間接的に恩恵を受けられるケースがあります。制度には必ず期限があるので、「使える今のうちに手続きを進める」姿勢が肝心です。
まとめ
本記事では、不動産投資をインフレ対策として機能させるための視点を、家賃設定、ファイナンス、物件選び、税制の四つの軸で整理しました。インフレはリスクであると同時に、借入金の実質負担を抑え、家賃収入を伸ばすチャンスでもあります。大切なのは市場データをもとに小さな改善を積み重ね、制度の期限を見逃さずに活用することです。今日得た知識をもとに、自分の投資プランを再点検し、一歩ずつ行動へ移してみてください。
参考文献・出典
- 総務省統計局 – https://www.stat.go.jp/
- 日本銀行 統計データ – https://www.boj.or.jp/statistics/
- 国土交通省 住宅市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp/
- 日本政策金融公庫 融資情報 – https://www.jfc.go.jp/
- 国立社会保障・人口問題研究所 – https://www.ipss.go.jp/