不動産投資を始めたばかりの人ほど、「この物件は本当に儲かるのか?」という漠然とした不安を抱えています。表面利回りだけを信じて購入した結果、思いがけない支出に追われキャッシュフローが赤字になる例は後を絶ちません。本記事では、収益物件 収支計算 方法を最新データとともに体系的に示します。読むことで、購入前にリスクとリターンを数値で把握し、自分に合った投資判断ができるようになります。
収支計算が必要な理由

まず押さえておきたいのは、収支計算が単なる数字遊びではなく、投資戦略そのものを左右する工程だという点です。国土交通省の2024年度「不動産投資市場動向調査」によると、購入前に詳細なシミュレーションを行った投資家は、行わなかった層に比べ平均空室期間が約15%短いと報告されています。数字を根拠に判断することで、賃料設定やリフォーム時期など具体的な戦術を立てやすくなります。
一方で、収支計算を怠ると初年度は黒字でも、数年後に大規模修繕が重なり突然の資金ショックに見舞われる可能性が高まります。実は日本賃貸住宅管理協会のデータでは、築20年超のアパートで一度に100万円を超える修繕が発生する確率は30%を超えます。つまり、長期視点で支出を洗い出さなければ、帳簿上の利益はすぐに幻となります。
結論として、収支計算は「購入可否の判断」だけでなく「保有後の運営計画」を策定するために不可欠です。計算の過程で見えるリスク要因を先回りして管理すると、想定外の出費を利益に変える布石が打てます。
家賃収入のリアルな見積もり方

ポイントは「机上の利回り」を現実のキャッシュに落とし込むことです。まず、成約家賃を把握するために不動産テック企業が提供するレントロールデータや、国土交通省「不動産取引価格情報検索」を確認します。掲載賃料ではなく、実際の成約事例を基準にすることで過大評価を回避できます。
次に、空室率を地域ごとに設定します。住宅金融支援機構が2025年5月に公表した調査では、三大都市圏のファミリータイプ平均空室率は7.2%、地方中核都市のワンルームでは12.4%でした。自物件の間取りと立地に近い数値を選び、さらに築年数に応じて1〜3ポイント上乗せしておくと安全圏です。
また、家賃下落率にも目を向けましょう。都心部の鉄筋コンクリート造の場合、築10年までは年0.5%、10年以降は年1%程度の下落が多いとされます。言い換えると、家賃は「均等に減っていく傾向」が強く、初年度の利回りだけでは本当の収益性を示しません。将来キャッシュフローに年単位の家賃減額を織り込むことで、返済計画の持続性を確認できます。
ランニングコストの漏れを防ぐ視点
重要なのは、経費を「定期的に必ず発生する費用」と「突発的に大きく発生する費用」に分けて考えることです。前者には管理手数料、共用部電気代、火災保険料、固定資産税が含まれます。たとえば管理手数料は家賃の5%が目安ですが、地方では8%を上回るケースもあるため平均値に飛びつくと危険です。
一方で突発費用の代表格が修繕費です。国土交通省の長期修繕計画ガイドライン(2023年改訂版)によると、外壁塗装や屋上防水は12〜15年周期で実施するのが一般的です。実際に1戸あたりの平均コストは木造で30万円、RCで60万円前後となります。つまり、月割りで積み立てておかないと、表面上のキャッシュフローは簡単に吹き飛びます。
さらに、2025年度税制では減価償却の区分が大きく変更される予定はなく、耐用年数超過物件でも法定耐用年数の1.5倍ルールが継続します。減価償却費は現金支出を伴わない節税効果を生むため、正しく計上すると表面利回りで見えなかった税引後キャッシュが増える可能性があります。この部分を見逃すと、納税資金が不足するリスクが高まります。
キャッシュフロー表の作り方
まず、年間家賃収入から空室損と滞納損を差し引き、実効総収入(EGI)を算出します。次に管理費や修繕積立金などの運営費(OPEX)を引き、不動産取得税など一時費用を別枠で計上すると、純営業利益(NOI)が得られます。そして金融機関返済額を差し引くと、税引前キャッシュフロー(BTCF)が見えてきます。こうした流れをエクセルでも手書きでもかまいませんが、必ず年次で10〜15年分並べることが肝心です。
キャッシュフロー表を作る際は、ローン金利の上昇リスクもシナリオに加えておきます。日本銀行の金融政策決定会合議事要旨(2025年7月公表)では、長期金利が1.5%まで緩やかに上昇する可能性が示唆されました。金利が1%上がると、1億円を3%・30年返済で借りた場合、総返済額は約1800万円増加します。シミュレーション上で返済額を変動させておくと、金利局面の変化にも動じない戦略が立てられます。
最終的に、年間キャッシュフローが安定的に黒字で推移し、自己資金回収期間(CCR)が10年以内に収まるか確認します。実はCCRが長すぎる物件ほど、少しの空室や修繕で赤字転落しやすい傾向があります。いくつかのシナリオを比べることで、もっとも堅実に資金を回せる購入価格と融資条件にたどり着けます。
2025年度の税制・融資動向を踏まえたシミュレーション
まず押さえておきたいのは、2025年度も住宅ローン減税は居住用のみ対象であり、賃貸用物件には適用されない点です。一方で、法人化して取得する場合、青色申告特別控除65万円がフル活用できるため、個人の最高45%所得税率より低い実効税率で運営できる可能性があります。
また、2025年度の中小企業向け設備投資促進税制では、賃貸住宅の耐震・省エネ工事が控除対象に含まれています。期限は2026年3月31日までであり、施工完了ベースで要件を満たせば法人税額の10%が控除されます。つまり、大規模修繕を計画的に行うことで、キャッシュアウトと節税を同時に最適化できます。
融資面では、日本政策金融公庫が発表した「2025年度不動産担保貸付方針」によると、エリア限定で最大融資比率(LTV)が80%まで引き上げられる予定です。ただし、対象は耐震基準適合証明を取得した物件に限られるため、物件調査の段階から書類取得を視野に入れておく必要があります。金利は固定で1.7〜2.2%と民間より低めですが、審査に3か月以上かかるためスケジュール管理が不可欠です。
これらの制度や融資条件を加味したシミュレーションを行うと、単に利回りを追うよりも、税引後キャッシュフローと自己資金効率が大きく改善する可能性があります。したがって、制度の活用有無を複数パターンで比較することが、2025年以降の投資成績を左右する鍵となります。
まとめ
この記事では、収益物件 収支計算 方法を「家賃収入の現実的把握」「経費の漏れ防止」「キャッシュフロー表の構築」「2025年度制度の活用」という四つの視点で整理しました。数字を丹念に積み上げることで、物件を買う前から未来の収益とリスクを見通せます。読者の皆さんには、本文を参考に自分の計算シートを作り、複数シナリオで試算する行動を強くおすすめします。そうすることで、景気や金利が変わっても動じない、堅実かつ戦略的な不動産投資が実現します。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産投資市場動向調査(2024年度版) – https://www.mlit.go.jp
- 日本賃貸住宅管理協会 空室率・修繕費データ(2023年度) – https://www.zenchin.or.jp
- 住宅金融支援機構 住宅ローン・賃貸市場調査(2025年5月) – https://www.jhf.go.jp
- 日本銀行 金融政策会合議事要旨(2025年7月) – https://www.boj.or.jp
- 国土交通省 長期修繕計画ガイドライン(2023年改訂版) – https://www.mlit.go.jp
- 日本政策金融公庫 2025年度不動産担保貸付方針 – https://www.jfc.go.jp