近年、経済環境の変化により企業倒産が増加傾向にあります。テナントビルや商業施設のオーナーにとって、入居企業の突然の倒産は大きな経営リスクです。家賃収入が途絶えるだけでなく、原状回復費用の未払いや次のテナント募集までの空室期間など、複数の問題が同時に発生します。しかし、適切な対策を講じることで、こうしたリスクは大幅に軽減できます。この記事では、テナント倒産による退去リスクを最小限に抑えるための具体的な対策と、万が一の際の対応方法について詳しく解説します。
テナント倒産が増加している背景と現状

2026年現在、日本国内の企業倒産件数は依然として高い水準で推移しています。帝国データバンクの調査によると、2025年の企業倒産件数は前年比で増加傾向を示しており、特に中小企業や飲食業、小売業での倒産が目立っています。
この背景には複数の要因が絡み合っています。まず、コロナ禍以降の経済環境の変化により、消費者の行動パターンが大きく変わりました。オンラインショッピングの普及で実店舗の売上が減少し、テレワークの定着でオフィス需要が変化しています。さらに、原材料費や光熱費の高騰、人件費の上昇が企業の収益を圧迫しています。
国税庁のデータでは、法人税申告件数のうち赤字法人の割合が約60%に達しており、多くの企業が厳しい経営状況に置かれていることが分かります。特に設立5年以内の企業は倒産リスクが高く、テナントとして入居している場合は注意が必要です。
不動産オーナーにとって、テナントの倒産は単なる空室発生以上の問題を引き起こします。未払い賃料の回収困難、保証金だけでは賄えない原状回復費用、次のテナント募集までの長期空室など、経済的損失は予想以上に大きくなる可能性があります。実際、中小企業庁の調査では、テナント倒産による平均的な損失額は数百万円に及ぶケースも少なくありません。
入居審査を強化して倒産リスクを事前に見極める

テナント倒産リスクを最小限に抑えるために最も重要なのは、入居前の審査を徹底することです。適切な審査により、財務状況が不安定な企業との契約を避けることができます。
まず基本となるのが、企業の財務諸表の確認です。直近3期分の決算書を提出してもらい、売上高の推移、営業利益率、自己資本比率などをチェックします。売上が継続的に減少している企業や、債務超過に陥っている企業は要注意です。一般的に、自己資本比率が30%以上あれば財務的に安定していると判断できますが、業種によって基準は異なります。
信用調査会社の活用も効果的な方法です。帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査機関に依頼すれば、企業の信用度を客観的に評価したレポートを入手できます。費用は1件あたり数万円程度かかりますが、倒産リスクを事前に把握できる価値は十分にあります。
業種や事業内容の将来性も重要な判断材料です。市場が縮小傾向にある業種や、特定の取引先に依存している企業は、経営環境の変化に弱い傾向があります。一方、成長市場で事業を展開している企業や、複数の収益源を持つ企業は比較的安定しています。
代表者の経歴や過去の事業実績も確認しましょう。過去に倒産経験がある経営者や、短期間で複数の会社を設立している場合は慎重な判断が必要です。また、面談時の対応や事業計画の具体性からも、経営者の資質をある程度見極めることができます。
契約条件を工夫してリスクを分散する
入居審査に加えて、賃貸借契約の条件を適切に設定することで、倒産リスクをさらに軽減できます。契約内容の工夫は、万が一の際の損失を最小限に抑える重要な防衛策となります。
保証金の設定は最も基本的な対策です。一般的には賃料の6〜12ヶ月分を保証金として預かりますが、財務状況に不安がある企業の場合は12〜24ヶ月分に引き上げることも検討すべきです。保証金は未払い賃料や原状回復費用の支払いに充当できるため、オーナーの損失を大幅に減らせます。
連帯保証人の設定も効果的です。法人の代表者個人を連帯保証人とすることで、法人が倒産した場合でも個人資産から債権回収できる可能性が高まります。ただし、2020年4月の民法改正により、個人の根保証契約には極度額の設定が必要になった点に注意が必要です。
家賃保証会社の利用は、近年増加している対策方法です。保証会社が家賃の支払いを保証してくれるため、テナントが倒産しても一定期間の家賃は保証されます。保証料はテナント負担が一般的で、月額賃料の0.5〜1%程度です。ただし、保証会社によって保証範囲や条件が異なるため、契約内容を十分に確認することが重要です。
短期契約や定期借家契約の活用も検討に値します。通常の普通借家契約では、正当事由がなければオーナー側から契約を解除できませんが、定期借家契約なら契約期間満了時に確実に契約を終了できます。財務状況に不安がある企業には、まず2〜3年の定期借家契約を結び、経営が安定してから更新するという方法も有効です。
日常的なモニタリングで早期に異変を察知する
契約後も、テナントの経営状況を継続的に監視することで、倒産の兆候を早期に発見できます。早期発見により、被害を最小限に抑える対応が可能になります。
定期的な財務状況の確認は基本的な対策です。契約書に「年1回の決算書提出義務」を盛り込んでおけば、毎年の経営状況をチェックできます。売上の急激な減少や赤字の拡大が見られた場合は、早めに面談を申し入れて状況を確認しましょう。
現場での観察も重要な情報源です。店舗やオフィスを定期的に訪問し、営業状況を確認します。客足が明らかに減っている、従業員数が減少している、設備のメンテナンスが行き届いていないなどの兆候は、経営悪化のサインかもしれません。
賃料の支払い状況は最も分かりやすい指標です。支払いが遅れがちになった、分割払いを申し出てきた、といった変化があれば要注意です。1回の遅延で即座に問題視する必要はありませんが、2〜3ヶ月連続で遅延が発生する場合は、経営状況の確認が必要です。
業界動向や競合状況の把握も役立ちます。テナントが属する業界全体が不況に陥っている場合、個別企業の努力だけでは経営改善が難しいケースがあります。業界紙やニュースをチェックし、マクロ的な視点からもリスクを評価しましょう。
倒産の兆候が見えたときの具体的な対応策
テナントの経営悪化や倒産の兆候を察知したら、速やかに適切な対応を取ることが重要です。早期の対応により、損失を大幅に減らせる可能性があります。
まず行うべきは、テナントとの直接対話です。経営状況や今後の見通しについて率直に話し合い、現状を正確に把握します。この際、感情的にならず、冷静に事実確認を行うことが大切です。テナント側も誠実に対応してくれる場合が多く、早期の情報共有が双方にとってメリットになります。
保証金の増額や追加担保の設定を交渉することも検討すべきです。経営が悪化している段階であれば、テナント側も契約継続のために協力的な姿勢を示す可能性があります。ただし、過度な要求は関係悪化を招くため、バランスが重要です。
賃料の減額交渉に応じる代わりに、契約期間の延長や保証条件の強化を求めるという方法もあります。一時的な賃料減額により経営を立て直せる見込みがあれば、長期的には空室リスクを避けられる可能性があります。ただし、減額後の賃料でも収支が成り立つか、慎重に計算する必要があります。
弁護士や不動産管理会社などの専門家に相談することも重要です。法的な権利関係や取るべき手続きについて、専門的なアドバイスを受けられます。特に、契約解除や明け渡し請求を検討する段階では、法的リスクを避けるために専門家の助言が不可欠です。
実際に倒産が発生した場合の対処法
万が一、テナントが実際に倒産してしまった場合、迅速かつ適切な対応が求められます。初動の対応次第で、最終的な損失額が大きく変わってきます。
倒産の事実を確認したら、まず物件の現状を保全します。破産管財人が選任されるまでの間、無断で物件内の設備や残置物が持ち出されるリスクがあります。可能であれば、写真や動画で室内の状況を記録し、必要に応じて鍵の交換も検討します。
破産管財人や弁護士との連絡を速やかに取ります。倒産手続きの種類(破産、民事再生、会社更生など)によって対応が異なるため、正確な情報を把握することが重要です。債権者として債権届出を行い、配当を受けられる可能性を確保します。
保証金の充当手続きを進めます。未払い賃料や原状回復費用に保証金を充当できますが、破産手続きとの関係で法的な制約がある場合もあります。弁護士に相談しながら、適切な手続きを踏むことが大切です。
原状回復については、破産管財人と協議します。管財人が原状回復費用を支払えない場合、オーナー側で費用を負担せざるを得ないケースもあります。この場合、最低限の清掃や修繕にとどめ、次のテナント募集時に改めてリフォームを検討するという選択肢もあります。
次のテナント募集を早期に開始することも重要です。空室期間が長引くほど損失が拡大するため、倒産処理と並行して新規テナントの募集活動を進めます。場合によっては、賃料を一時的に下げてでも早期に入居者を確保する判断も必要です。
まとめ
テナントの倒産リスクは、不動産オーナーにとって避けられない経営課題です。しかし、適切な対策を講じることで、リスクを大幅に軽減できます。
重要なのは、入居前の審査を徹底し、契約条件を工夫し、入居後も継続的にモニタリングすることです。財務諸表の確認や信用調査の活用により、リスクの高いテナントを事前に見極められます。保証金の適切な設定や家賃保証会社の利用により、万が一の際の損失を最小限に抑えられます。
また、倒産の兆候を早期に察知し、速やかに対応することで、被害を防げる可能性が高まります。テナントとの良好な関係を維持しながら、定期的な財務状況の確認や現場観察を行いましょう。
万が一倒産が発生した場合も、冷静に対処することが大切です。専門家のアドバイスを受けながら、法的手続きを適切に進め、次のテナント募集を早期に開始します。
不動産投資において、リスク管理は収益確保と同じくらい重要です。今回ご紹介した対策を参考に、テナント倒産リスクに備えた堅実な賃貸経営を実現してください。
参考文献・出典
- 帝国データバンク – 全国企業倒産集計 – https://www.tdb.co.jp/tosan/index.html
- 東京商工リサーチ – 倒産情報 – https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/
- 国税庁 – 法人税申告の実態 – https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/hojin/index.htm
- 中小企業庁 – 中小企業白書 – https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/
- 法務省 – 民法改正(債権法改正)について – https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html
- 国土交通省 – 不動産市場動向 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html
- 日本賃貸住宅管理協会 – 賃貸住宅市場の動向 – https://www.jpm.jp/