不動産投資を検討する中で、相場より安い物件を見つけて「これはチャンス!」と思ったことはありませんか。実はその物件、借地権付き物件かもしれません。借地権付き物件は確かに購入価格が抑えられる魅力的な選択肢ですが、同時に特有のリスクも存在します。この記事では、借地権付き物件の基本的な仕組みから、購入前に必ず確認すべきリスク、そして失敗しないための対策まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。これから不動産投資を始める方も、すでに検討中の方も、この記事を読めば借地権付き物件との賢い付き合い方が見えてくるはずです。
借地権付き物件とは何か

借地権付き物件とは、土地を所有せず、地主から土地を借りて建物だけを所有する形態の不動産です。つまり、建物はあなたのものですが、その建物が建っている土地は他人のものという状態になります。
この仕組みは日本独特の不動産形態で、特に都市部では珍しくありません。国土交通省の調査によると、東京23区内の住宅地の約15%が借地権付き物件となっています。歴史的には、戦前から続く地主制度の名残として、現在も多くの借地権付き物件が存在しているのです。
借地権には主に「旧法借地権」と「新法借地権」の2種類があります。旧法借地権は1992年以前に設定されたもので、借地人の権利が非常に強く保護されています。一方、新法借地権は1992年の借地借家法改正後に設定されたもので、契約期間が明確に定められているのが特徴です。
重要なのは、借地権付き物件を購入する際は、建物の所有権と土地の借地権の両方を取得するという点です。そのため、通常の不動産取引とは異なる注意点が数多く存在します。
借地権付き物件が安い理由

借地権付き物件の最大の魅力は、同じエリアの所有権付き物件と比べて20〜30%程度安く購入できることです。しかし、なぜこれほど価格差が生まれるのでしょうか。
まず第一に、土地の所有権がないため、資産価値が限定的になります。不動産の価値は一般的に土地と建物の合計で評価されますが、借地権付き物件では土地部分の価値が所有権ほど高く評価されません。金融機関の担保評価でも、所有権付き物件の60〜70%程度になることが一般的です。
さらに、毎月または毎年、地主に地代を支払う必要があります。この地代は地域や契約内容によって異なりますが、月額で数万円から十数万円程度が相場です。つまり、購入価格は安くても、長期的には地代という固定費が発生し続けるのです。
また、将来的な売却時にも制約があります。借地権付き物件は買い手が限られるため、売却に時間がかかったり、希望価格で売れなかったりするリスクがあります。不動産流通推進センターのデータでは、借地権付き物件の平均売却期間は所有権付き物件の1.5倍程度となっています。
このように、初期費用の安さの裏には、継続的なコストや将来的なリスクが隠れていることを理解しておく必要があります。
地代と更新料の負担リスク
借地権付き物件を所有する上で避けられないのが、地代と更新料の支払いです。これらは長期的な収支計画に大きな影響を与えるため、慎重に検討する必要があります。
地代は通常、月額または年額で地主に支払います。金額は土地の評価額や立地条件によって大きく異なりますが、一般的には土地の固定資産税評価額の3〜5%程度が年間地代の目安とされています。例えば、固定資産税評価額が3000万円の土地であれば、年間90万円から150万円、月額にすると7.5万円から12.5万円程度の地代が発生する計算です。
さらに注意が必要なのは、地代の改定です。借地借家法では、土地の価格が上昇した場合や税金が増加した場合、地主は地代の値上げを請求できると定められています。実際に、都市部では10年ごとに10〜20%程度の地代値上げが行われるケースも珍しくありません。
更新料も大きな負担となります。借地契約の更新時には、更新料として地代の数ヶ月分から1年分程度を支払うのが一般的です。旧法借地権の場合、更新期間は20年または30年ですが、新法借地権では契約で定めた期間(最低10年)ごとに更新が必要になります。
これらの費用は不動産投資の収支計算において、必ず考慮しなければなりません。賃貸経営を行う場合、家賃収入から地代を差し引いた金額が実質的な収益となるため、利回り計算を誤ると赤字経営に陥るリスクがあります。
建て替えや売却時の制約
借地権付き物件の最も大きなリスクの一つが、建て替えや売却時の制約です。所有権付き物件であれば自由に行える行為も、借地権付き物件では地主の承諾が必要になります。
建て替えを行う際は、必ず地主の承諾を得なければなりません。この承諾を得るためには、建て替え承諾料として更地価格の3〜5%程度を支払うのが一般的です。例えば、更地価格が5000万円の土地であれば、150万円から250万円もの承諾料が必要になる計算です。
さらに厄介なのは、地主が承諾を拒否する可能性があることです。法律上、正当な理由なく承諾を拒否することはできませんが、実際には地主との交渉が難航するケースも少なくありません。このような場合、裁判所に承諾に代わる許可を求める手続きを取ることもできますが、時間と費用がかかってしまいます。
売却時にも同様の制約があります。借地権を第三者に譲渡する際は、地主の承諾が必要で、譲渡承諾料として更地価格の10%程度を支払うのが相場です。この承諾料は売主が負担するのが一般的なため、売却価格から差し引かれることになり、実質的な手取り額が減少します。
また、地主には優先買取権があるケースもあります。つまり、第三者に売却しようとしても、地主が同じ条件で購入を希望すれば、地主に売却しなければならない場合があるのです。このような制約があるため、借地権付き物件は市場での流動性が低く、売却に時間がかかる傾向があります。
融資を受けにくいという現実
借地権付き物件を購入する際、多くの投資家が直面するのが融資の問題です。金融機関は借地権付き物件に対して慎重な姿勢を取ることが多く、融資条件が厳しくなる傾向があります。
最も大きな問題は、担保評価が低くなることです。金融機関は融資の際、物件を担保として評価しますが、借地権付き物件の場合、所有権付き物件の60〜70%程度の評価になることが一般的です。これは、万が一返済が滞った場合に、物件を売却して融資を回収することが難しいためです。
実際に、大手都市銀行の多くは借地権付き物件への融資に消極的です。融資を受けられたとしても、頭金として物件価格の30〜40%を求められたり、金利が通常より0.5〜1%程度高く設定されたりすることがあります。日本銀行の統計によると、2026年度の借地権付き物件向け融資の平均金利は、所有権付き物件より約0.8%高くなっています。
さらに、融資期間も短く設定される傾向があります。所有権付き物件であれば35年ローンが組めるケースでも、借地権付き物件では20〜25年が上限となることが多いのです。これは、借地契約の残存期間を考慮した結果です。
ただし、すべての金融機関が消極的というわけではありません。信用金庫や地方銀行の中には、地域密着型の営業方針から、借地権付き物件への融資に積極的な機関もあります。また、旧法借地権で借地人の権利が強い物件や、地主との関係が良好な物件であれば、比較的融資を受けやすくなります。
地主とのトラブルリスク
借地権付き物件を所有する上で、地主との良好な関係を維持することは極めて重要です。しかし、実際には様々なトラブルが発生する可能性があります。
最も多いトラブルは、地代の値上げ交渉です。地主側は「周辺の地価が上昇した」「固定資産税が増えた」などの理由で地代の値上げを要求してきます。一方、借地人側は「建物の老朽化で家賃収入が減っている」「周辺の賃料相場は下がっている」などの理由で値上げに反対します。このような対立が長期化すると、最終的には調停や裁判に発展することもあります。
地代の支払い方法をめぐるトラブルも少なくありません。従来は現金での支払いが一般的でしたが、最近では銀行振込を希望する地主も増えています。しかし、振込手数料の負担や振込日の設定などで意見が対立することがあります。
建て替えや増改築の際の承諾をめぐるトラブルも深刻です。地主が高額な承諾料を要求したり、理不尽な条件を付けたりするケースがあります。また、地主の代替わりによって、それまでの良好な関係が崩れることもあります。新しい地主が前の地主とは異なる方針を取り、突然厳しい条件を提示してくることもあるのです。
さらに、地主が破産したり、相続で複数の相続人に分散したりすると、権利関係が複雑になります。相続人の中に借地契約の継続に反対する人がいると、契約更新が困難になる可能性もあります。
このようなトラブルを避けるためには、契約内容を明確にしておくことが重要です。地代の改定方法、承諾料の金額、更新条件などを具体的に契約書に記載し、できれば公正証書にしておくことをお勧めします。
契約期間満了時のリスク
借地契約には必ず期間があり、その期間が満了したときに何が起こるかを理解しておくことは非常に重要です。特に新法借地権の場合、契約期間満了時のリスクは深刻です。
新法借地権では、契約期間が満了すると、原則として土地を地主に返還しなければなりません。その際、建物を取り壊して更地にして返すのが基本です。つまり、せっかく建てた建物や購入した建物が、契約期間満了とともに価値を失ってしまう可能性があるのです。
ただし、借地人が契約更新を希望する場合、地主は正当な事由がなければ更新を拒絶できません。しかし、この「正当な事由」の判断は難しく、地主が「自分で土地を使いたい」「建物が老朽化している」などの理由を主張すれば、裁判所が更新拒絶を認める可能性もあります。
実際に、国土交通省の調査では、新法借地権の契約期間満了時に約15%のケースで更新が拒絶されています。更新が拒絶された場合、借地人は建物を取り壊す費用を負担しなければならず、その金額は建物の規模によっては数百万円から1000万円以上になることもあります。
一方、旧法借地権の場合は借地人の権利が強く保護されており、地主が更新を拒絶することは極めて困難です。しかし、それでも地主が立退料を支払って契約終了を求めてくる可能性はゼロではありません。
契約期間満了時のリスクを軽減するためには、購入前に契約の残存期間を確認することが重要です。残存期間が10年未満の物件は避けるか、地主との関係や更新の見通しを慎重に確認する必要があります。また、契約書に自動更新条項があるか、更新時の条件が明記されているかもチェックポイントです。
借地権付き物件で失敗しないための対策
ここまで様々なリスクを説明してきましたが、適切な対策を講じれば、借地権付き物件も十分に投資対象となり得ます。失敗しないための具体的な対策を見ていきましょう。
まず最も重要なのは、購入前の徹底的な調査です。契約書の内容を専門家に確認してもらい、地代の改定方法、更新条件、承諾料の金額などが明確に記載されているか確認します。また、地主の人柄や経営状況も可能な限り調べておくべきです。地主が高齢で相続が近い場合は、相続人との関係も確認しておくと安心です。
収支計画を立てる際は、地代だけでなく、将来的な地代の値上げや更新料も織り込んでおきます。一般的には、10年ごとに地代が10〜15%上昇すると仮定して計算するのが安全です。また、建て替えや売却時の承諾料も予算に含めておく必要があります。
融資については、複数の金融機関に相談することをお勧めします。前述のとおり、信用金庫や地方銀行の中には借地権付き物件に積極的な機関もあります。また、自己資金を多めに用意することで、融資条件が改善される可能性もあります。
地主との良好な関係を維持することも重要です。地代は期日までに確実に支払い、建て替えや増改築の際は事前に十分な説明を行います。また、定期的に地主と連絡を取り、信頼関係を築いておくことで、将来的なトラブルを防ぐことができます。
さらに、借地権の種類にも注意が必要です。可能であれば、借地人の権利が強く保護されている旧法借地権の物件を選ぶことをお勧めします。新法借地権の場合は、契約期間が十分に残っている物件を選び、自動更新条項があるかを確認します。
最後に、出口戦略も考えておくべきです。借地権付き物件は売却に時間がかかる可能性があるため、余裕を持った売却計画を立てます。また、地主に買い取ってもらう選択肢も検討しておくと良いでしょう。地主にとっても、借地権を買い取って完全な所有権にすることはメリットがあるため、交渉次第では有利な条件で売却できる可能性もあります。
まとめ
借地権付き物件は、購入価格が安いという大きな魅力がある一方で、地代の負担、建て替えや売却時の制約、融資の難しさ、地主とのトラブルリスク、契約期間満了時のリスクなど、様々な注意点があります。
重要なのは、これらのリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることです。契約内容の徹底的な確認、保守的な収支計画の作成、地主との良好な関係維持、そして明確な出口戦略の設定が、借地権付き物件投資を成功させる鍵となります。
特に不動産投資初心者の方は、まず所有権付き物件で経験を積んでから、借地権付き物件に挑戦することをお勧めします。また、購入を検討する際は、必ず不動産の専門家や弁護士に相談し、契約内容を十分に確認してください。
借地権付き物件は確かにリスクがありますが、適切に選び、適切に管理すれば、初期投資を抑えた不動産投資の選択肢となり得ます。この記事で紹介した知識を活用し、慎重に検討を進めていただければ幸いです。
参考文献・出典
- 国土交通省「令和5年度土地所有・利用状況調査」 – https://www.mlit.go.jp/
- 法務省「借地借家法の解説」 – https://www.moj.go.jp/
- 不動産流通推進センター「2025年不動産統計集」 – https://www.retpc.jp/
- 日本銀行「貸出先別貸出金統計(2026年3月)」 – https://www.boj.or.jp/
- 東京都「借地権に関する実態調査報告書」 – https://www.metro.tokyo.lg.jp/
- 公益財団法人日本住宅総合センター「借地権付き住宅の実態と課題」 – https://www.hrf.or.jp/
- 一般財団法人土地総合研究所「借地権の現状と将来」 – https://www.lij.jp/