親から相続した古い家をどうするか、悩んでいませんか。思い出の詰まった実家を手放すのは心苦しいけれど、維持費もかかるし管理も大変です。賃貸に出せば収入になるかもしれないけれど、本当に借り手がつくのか不安もあります。この記事では、相続した古家を賃貸にするか売却するか、あなたに最適な選択ができるよう、具体的な判断基準と注意点を詳しく解説します。物件の状態や立地、あなたの経済状況に応じた最善の選択肢が見つかるはずです。
相続した古家の現状を正確に把握する

まず押さえておきたいのは、感情的な判断ではなく客観的なデータに基づいて物件を評価することです。相続した古家に対しては思い出や愛着があるため、冷静な判断が難しくなりがちです。しかし、不動産は大きな資産であり、間違った選択は数百万円単位の損失につながる可能性があります。
物件の築年数と構造を確認しましょう。木造住宅の法定耐用年数は22年とされていますが、実際には適切なメンテナンスを行えば50年以上使用できます。一方で、築30年を超える物件は大規模修繕が必要になるケースが多く、その費用は数百万円に及ぶこともあります。国土交通省の調査によると、築30年の木造住宅で必要な修繕費用の平均は約300万円から500万円とされています。
建物の状態を専門家に診断してもらうことも重要です。ホームインスペクション(住宅診断)を依頼すれば、基礎や構造、雨漏り、シロアリ被害など、素人では分からない問題点を発見できます。費用は5万円から10万円程度ですが、この投資で数百万円の損失を防げる可能性があります。実際、賃貸に出した後に雨漏りが発覚し、修繕費と入居者への補償で大きな出費を強いられたケースは少なくありません。
立地条件も冷静に評価する必要があります。最寄り駅からの距離、周辺の商業施設、学校や病院へのアクセスなど、賃貸需要に直結する要素を客観的にチェックしましょう。総務省の住宅・土地統計調査では、駅から徒歩10分以内の物件と15分以上の物件では、賃料に20%以上の差が生じることが示されています。
賃貸に出す場合のメリットとリスク

賃貸経営の最大の魅力は、継続的な収入が得られることです。売却すれば一時的にまとまった資金が手に入りますが、賃貸なら毎月安定した家賃収入を期待できます。例えば、月8万円の家賃で貸し出せれば、年間96万円の収入になります。これは老後の生活資金や、他の投資の原資として活用できる貴重な収入源です。
資産を手元に残せることも大きなメリットです。将来的に土地の価値が上昇する可能性がある地域なら、賃貸で収益を得ながら資産価値の上昇も期待できます。また、子どもや孫の世代が将来その家に住みたいと考えた場合、売却してしまえば取り戻すことはできません。賃貸なら、必要に応じて自己使用に切り替えることも可能です。
しかし、賃貸経営には見過ごせないリスクも存在します。最も深刻なのは空室リスクです。国土交通省の調査によると、2026年の全国平均空室率は約13.6%に達しており、特に地方都市では20%を超える地域もあります。空室期間中も固定資産税や管理費、修繕積立金などの支出は続くため、収支が赤字になる可能性があります。
修繕費用の負担も無視できません。賃貸物件として貸し出す以上、入居者が快適に暮らせる状態を維持する責任があります。エアコンや給湯器の故障、水回りのトラブルなど、突発的な修繕が必要になることは珍しくありません。一般社団法人不動産流通経営協会の調査では、賃貸物件のオーナーが年間に支出する修繕費の平均は家賃収入の10%から15%とされています。
入居者トラブルのリスクも考慮すべきです。家賃滞納、近隣住民とのトラブル、退去時の原状回復をめぐる争いなど、賃貸経営には様々な問題が発生する可能性があります。特に古い物件の場合、設備の老朽化が原因でクレームが増える傾向にあります。これらの対応には時間と精神的な負担がかかり、本業に支障をきたすケースもあります。
売却を選ぶべきケースとその利点
売却の最大のメリットは、まとまった現金を一度に手に入れられることです。相続税の支払いや住宅ローンの返済、子どもの教育費など、すぐに大きな資金が必要な場合には売却が最適な選択肢となります。また、現金化することで資産を分散投資に回し、リスクを軽減することも可能です。
管理の手間から完全に解放されることも大きな利点です。賃貸経営では入居者対応、修繕手配、確定申告など、継続的な管理業務が発生します。特に遠方に住んでいる場合、物件の管理は大きな負担になります。売却すれば、これらの煩わしさから一切解放され、時間と精神的な余裕を得られます。
固定資産税や都市計画税などの維持費用も不要になります。空き家のまま放置していても、これらの税金は毎年課税されます。国土交通省のデータによると、一般的な戸建て住宅の固定資産税は年間10万円から20万円程度です。10年間保有すれば100万円から200万円の支出になるため、使用予定のない物件は早期に売却した方が経済的です。
相続した古家の売却を検討すべきケースは明確です。建物の老朽化が著しく、賃貸に出すために大規模な修繕が必要な場合、修繕費用が売却価格の30%を超えるようなら売却を優先すべきです。また、立地条件が悪く賃貸需要が見込めない地域の物件も、空室リスクを考えると売却が賢明な選択となります。
自分自身が高齢で賃貸経営の管理が負担になる場合も売却を検討すべきです。賃貸経営には突発的なトラブル対応が必要になることがあり、体力的・精神的な負担は決して小さくありません。健康に不安がある場合や、他の趣味や活動に時間を使いたい場合は、売却して資産を現金化する方が生活の質を高められます。
賃貸と売却の収支を具体的にシミュレーションする
実際に数字で比較することで、より明確な判断ができます。ここでは築35年の木造戸建て住宅を例に、賃貸と売却それぞれのケースをシミュレーションしてみましょう。物件の想定条件は、土地面積100平方メートル、建物面積80平方メートル、最寄り駅から徒歩12分、周辺の家賃相場は月8万円とします。
賃貸に出す場合の収支を見てみましょう。まず初期費用として、リフォーム費用が必要です。古い物件を賃貸に出すには、最低限の修繕が不可欠です。水回りの交換、壁紙の張り替え、畳の表替えなどで約150万円から200万円かかると想定されます。さらに不動産会社への仲介手数料として家賃1か月分の8万円が必要です。
年間の収入は、家賃8万円×12か月で96万円です。しかし、ここから様々な経費を差し引く必要があります。固定資産税と都市計画税で年間約12万円、火災保険料で年間約3万円、管理会社への委託費用が家賃の5%として年間約4.8万円、修繕積立金として年間約10万円を見込むと、年間経費は約30万円になります。
したがって、実質的な年間収入は96万円から30万円を引いた66万円です。ただし、これは満室を前提とした計算です。空室率を10%と仮定すると、実際の年間収入は約59万円になります。初期投資の200万円を回収するには約3.4年かかる計算です。10年間運用した場合、総収入は約590万円から初期費用200万円を引いた390万円となります。
売却する場合の収支も計算してみましょう。この条件の物件であれば、売却価格は土地の評価額と建物の残存価値を合わせて約1,500万円から2,000万円程度が相場です。ここでは1,800万円で売却できたと仮定します。売却にかかる諸費用は、仲介手数料が売却価格の3%+6万円で約60万円、登記費用や印紙代で約10万円、合計約70万円です。
手元に残る金額は1,800万円から70万円を引いた1,730万円です。この金額を年利3%で運用できれば、年間約52万円の収益が得られます。10年間で約520万円の運用益に加え、元本の1,730万円も手元に残ります。ただし、相続した不動産の売却には税制上の優遇措置があり、相続開始から3年以内に売却すれば取得費加算の特例を利用できる可能性があります。
この比較から分かるように、単純な収益性だけで判断すると、10年間の総収入では賃貸が約390万円、売却後の運用が約520万円となり、売却の方が有利に見えます。しかし、賃貸の場合は10年後も物件が残り、さらに収益を生み続ける可能性があります。一方、売却すれば資産は現金化され、インフレリスクや不動産価値の上昇機会を失うことになります。
税金面での違いを理解して判断する
賃貸と売却では、税金の扱いが大きく異なります。この違いを理解することで、より有利な選択ができます。まず賃貸収入にかかる税金について説明しましょう。家賃収入は不動産所得として所得税の対象になります。年間の家賃収入から必要経費を差し引いた金額が課税対象です。
不動産所得の計算では、減価償却費を経費として計上できることが大きなポイントです。建物の取得価額を耐用年数で割った金額を毎年経費として計上できるため、実際の支出がなくても税金を減らせます。木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、中古物件の場合は簡便法により短い期間で償却できます。築35年の物件なら、耐用年数は4年となり、大きな節税効果が期待できます。
ただし、不動産所得が給与所得などと合算されるため、所得税率が高い人ほど税負担が重くなります。所得税と住民税を合わせた税率は、課税所得が330万円から695万円の場合で30%、695万円から900万円で33%です。年間の不動産所得が60万円あれば、税率30%として約18万円の税金がかかる計算です。
売却の場合は譲渡所得税が課税されます。譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた金額です。相続した不動産の取得費は、被相続人が取得した時の価格を引き継ぎます。ただし、取得費が不明な場合は売却価格の5%を概算取得費として計上できます。
譲渡所得税の税率は、所有期間によって大きく異なります。所有期間が5年以下の短期譲渡所得は39.63%(所得税30.63%、住民税9%)、5年超の長期譲渡所得は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。相続の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐため、多くのケースで長期譲渡所得として扱われます。
相続した不動産を売却する場合、いくつかの特例を利用できる可能性があります。最も重要なのが「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」です。相続税を支払った人が、相続開始から3年10か月以内に相続財産を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できます。これにより譲渡所得が減少し、税負担を軽減できます。
また、相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば「空き家に係る譲渡所得の特別控除」を利用できます。この特例では、譲渡所得から最大3,000万円を控除できるため、大幅な節税が可能です。ただし、昭和56年5月31日以前に建築された建物であること、相続開始直前まで被相続人が一人で居住していたことなど、厳しい要件があります。2026年度も継続されていますが、適用期限があるため早めの検討が必要です。
立地条件と将来性から判断する
物件の立地条件は、賃貸と売却のどちらを選ぶべきかを判断する上で極めて重要な要素です。立地の良し悪しは、賃貸需要と売却価格の両方に直接影響します。まず人口動態を確認しましょう。総務省の人口推計によると、日本の総人口は2008年をピークに減少を続けており、2026年現在も減少傾向が続いています。
特に地方都市や郊外エリアでは人口減少が顕著です。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、2040年までに全国の約半数の自治体で人口が30%以上減少すると予測されています。人口が減少する地域では賃貸需要も減少するため、空室リスクが高まります。このような地域の物件は、賃貸よりも早期の売却を検討すべきです。
一方、都市部や駅近物件は依然として需要が高い状態が続いています。特に東京都心部や大阪、名古屋などの大都市圏では、単身世帯の増加により賃貸需要が堅調です。国土交通省の調査では、駅から徒歩10分以内の物件の空室率は全国平均を5ポイント以上下回っています。このような好立地の物件なら、賃貸経営も十分に検討に値します。
周辺環境の変化にも注目しましょう。近隣に大型商業施設や企業の本社、大学などが新設される計画があれば、将来的に賃貸需要が高まる可能性があります。逆に、主要な企業が撤退したり、学校が統廃合されたりする地域では、需要の減少が予想されます。自治体の都市計画や開発計画を確認することで、将来の見通しを立てられます。
災害リスクも重要な判断材料です。国土交通省が公開しているハザードマップで、洪水や土砂災害、地震の危険性を確認しましょう。災害リスクの高い地域の物件は、賃貸需要が低下する傾向にあり、売却価格も下がります。2026年現在、気候変動の影響で豪雨災害が増加しており、ハザードマップの重要性は年々高まっています。
交通インフラの整備状況も見逃せません。新しい鉄道路線の開通や駅の新設、バス路線の拡充などは、物件価値を大きく向上させます。逆に、路線の廃止や本数の減少は価値の下落要因です。国土交通省の資料によると、新駅開設から徒歩10分圏内の物件は、開設後5年間で平均15%から20%価値が上昇するとされています。
自分の状況に合わせた最終判断のポイント
最終的な判断は、物件の条件だけでなく、あなた自身の状況も考慮して行う必要があります。まず年齢と健康状態を考えましょう。賃貸経営は長期的な取り組みであり、突発的なトラブル対応も必要です。60歳以上で健康に不安がある場合、10年後、20年後も管理を続けられるか慎重に検討すべきです。
本業の忙しさも重要な要素です。賃貸経営には入居者募集、契約手続き、トラブル対応など、様々な業務が発生します。管理会社に委託すれば負担は軽減されますが、重要な判断は自分で行う必要があります。本業が多忙で不動産管理に時間を割けない場合、売却して資産を現金化する方が賢明かもしれません。
他の資産状況も判断材料になります。すでに複数の不動産を所有している場合、さらに賃貸物件を増やすことはリスクの集中につながります。資産の分散という観点からは、売却して現金化し、株式や債券など他の資産に投資する方が健全です。一方、現金や金融資産が十分にあり、不動産投資の経験を積みたい場合は、賃貸経営にチャレンジする価値があります。
家族の意向も無視できません。相続した実家には家族の思い出が詰まっており、簡単に手放せない感情的な価値があります。兄弟姉妹がいる場合は、全員で話し合い、納得できる結論を出すことが大切です。一人が賃貸を希望し、もう一人が売却を望む場合、物件を共有名義のまま保有するとトラブルの原因になります。
将来のライフプランも考慮しましょう。5年後、10年後にまとまった資金が必要になる予定があるなら、売却して現金を確保する方が安心です。例えば、子どもの大学進学費用、自宅のリフォーム資金、老人ホームへの入居費用などです。一方、老後の生活資金として安定した収入源が欲しい場合は、賃貸経営が適しています。
リスク許容度も人それぞれです。空室リスクや修繕費用の負担に不安を感じる人は、売却して確実に現金化する方が精神的に楽です。一方、多少のリスクを取ってでも資産を増やしたい人、不動産投資に興味がある人は、賃貸経営にチャレンジする価値があります。自分の性格や価値観に合った選択をすることが、後悔しない判断につながります。
専門家に相談して客観的な意見を得る
相続した古家の処分方法を決める際、専門家の意見を聞くことは非常に重要です。不動産は高額な資産であり、一度決断すると簡単には取り消せません。複数の専門家に相談することで、より客観的で正確な判断ができます。
まず不動産会社に相談しましょう。地域の不動産市場に精通した会社なら、物件の適正な売却価格や賃料相場を教えてくれます。ただし、1社だけでなく3社以上に査定を依頼することが大切です。会社によって査定額に数百万円の差が出ることも珍しくありません。また、売却を勧める会社と賃貸を勧める会社があるため、複数の意見を聞いて総合的に判断しましょう。
税理士への相談も欠かせません。賃貸と売却では税金の扱いが大きく異なるため、税務の専門家のアドバイスは非常に価値があります。特に相続税を支払った場合、取得費加算の特例などの節税策を活用できる可能性があります。税理士に具体的な数字でシミュレーションしてもらえば、どちらが有利か明確になります。
ファイナンシャルプランナー(FP)に相談するのも良い方法です。FPは不動産だけでなく、あなたの全体的な資産状況やライフプランを考慮してアドバイスしてくれます。老後資金の準備、教育費の確保、住宅ローンの返済など、総合的な視点から最適な選択肢を提案してもらえます。
建築士やホームインスペクターに建物の状態を診断してもらうことも重要です。外見では分からない構造的な問題や、将来必要になる修繕の内容と費用を把握できます。この情報があれば、賃貸に出す場合の初期投資額を正確に見積もれますし、売却する場合も適正な価格交渉ができます。
弁護士への相談が必要なケースもあります。相続人が複数いる場合、遺産分割協議がまとまらないことがあります。また、物件に抵当権が設定されていたり、境界が不明確だったりする場合、法律の専門家のアドバイスが必要です。トラブルを未然に防ぐためにも、複雑な案件では早めに弁護士に相談しましょう。
相談する際は、具体的な質問を準備しておくことが大切です。「この物件は賃貸と売却のどちらが良いですか」という漠然とした質問ではなく、「築35年で駅から徒歩12分の物件ですが、賃貸に出す場合の想定家賃と初期投資額を教えてください」といった具体的な質問をすれば、より実践的なアドバイスが得られます。
まとめ
相続した古家を賃貸にするか売却するかは、物件の状態、立地条件、あなた自身の状況を総合的に考慮して判断する必要があります。賃貸経営は継続的な収入が得られる魅力がありますが、空室リスクや修繕費用の負担、管理の手間というデメリットもあります。一方、売却すればまとまった現金を得られ、管理の負担から解放されますが、将来的な資産価値の上昇機会を失います。
重要なのは、感情的な判断ではなく、客観的なデータと専門家の意見に基づいて決断することです。物件の収支シミュレーション、税金の比較、将来の賃貸需要予測などを行い、10年後、20年後を見据えた判断をしましょう。また、一人で悩まず、不動産会社、税理士、ファイナンシャルプランナーなど複数の専門家に相談することで、より確実な選択ができます。
どちらを選ぶにしても、早めの決断が大切です。空き家のまま放置すれば、固定資産税の負担が続くだけでなく、建物の劣化も進みます。この記事で紹介した判断基準を参考に、あなたにとって最適な選択をしてください。相続した古家は、適切に活用すれば大きな資産になります。後悔のない決断をして、豊かな未来を築いていきましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省「住宅・土地統計調査」 – https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
- 国土交通省「不動産市場動向調査」 – https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000085.html
- 総務省「人口推計」 – https://www.stat.go.jp/data/jinsui/
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」 – https://www.ipss.go.jp/
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」 – https://disaportal.gsi.go.jp/
- 一般社団法人不動産流通経営協会「不動産流通業に関する消費者動向調査」 – https://www.frk.or.jp/
- 国税庁「譲渡所得の計算方法」 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/jouto.htm