賃貸物件を所有していると、突然シロアリの被害に直面することがあります。駆除費用は決して安くないため、不動産所得の経費にできるのか、どの勘定科目で処理すればよいのか迷う方も多いはずです。実は、シロアリ駆除費用の扱いは工事の目的や規模によって変わり、判断を誤ると税務調査で指摘を受ける可能性もあります。この記事では、勘定科目の選び方から修繕費と資本的支出の境界、具体的な仕訳例までを、国税庁の基準をもとにわかりやすく整理していきます。
シロアリ駆除費用は不動産所得の経費になるのか
まず結論からお伝えすると、賃貸物件のシロアリ駆除費用は不動産所得の必要経費にできます。国税庁の不動産所得に関する解説では、不動産収入を得るために直接必要な費用で、貸付資産に係るものは必要経費になると示されており、主要な経費として「修繕費」が明記されています。シロアリ駆除は建物の劣化を防ぎ、賃貸物件としての価値を守るために欠かせない作業ですから、貸付けに直接関わる費用として経費計上の対象になります。
ただし、注意したいのはすべての駆除費用が同じように一括経費にできるわけではない点です。工事の内容によっては、その年に全額を経費にできず、数年かけて経費化する「資本的支出」として扱われる場合があります。資本的支出とは、建物の価値を高めたり使用可能期間を延ばしたりする支出のことで、減価償却を通じて少しずつ経費にしていく必要があります。
大切なのは、駆除の目的を整理しておくことです。すでに発生した被害を直す原状回復であれば修繕費に近づき、建物全体を長期的に強化する大規模な改良であれば資本的支出に近づきます。この境界を理解することが、適切な勘定科目を選ぶ第一歩になります。
シロアリ駆除の勘定科目は「修繕費」が基本
シロアリ駆除費用をどの勘定科目で処理すべきか悩む方は多いですが、賃貸物件の場合はまず「修繕費」を基本に考えるのが正解です。国税庁の収支内訳書(不動産所得用)の書き方を見ると、不動産所得には修繕費という標準的な欄が設けられており、他のどの科目にも当てはまらないものだけを「雑費」に入れる構成になっています。つまり、シロアリの駆除や被害箇所の復旧費は、安易に雑費でまとめるのではなく、まず修繕費に落とし込むのが申告書の作りに沿った処理といえます。
会計ソフト各社の解説でも、この考え方が裏づけられています。マネーフォワードは、害虫駆除費に一律の勘定科目が決まっているわけではないとしたうえで、シロアリ被害で「被害部分の修繕+白アリ駆除」を行った例について「修繕費 100,000円 / 現金 100,000円」という仕訳を示しています。また、freeeでも建物の柱や壁の修繕を伴うシロアリ工事は修繕維持費として計上し、摘要欄に「害虫駆除および柱の修繕」のように内容を記すやり方を紹介しています。いずれも、建物の修繕を伴うシロアリ対応は修繕費系の科目で処理する実務を前提としています。
もっとも、ここで重要なのは勘定科目の名前そのものではありません。国税庁の修繕費の判定基準では、税務上の取り扱いは科目名ではなく「その実質によって判定する」とされています。建物の通常の維持管理や原状回復であれば修繕費、価値を増やしたり耐用年数を延ばしたりするものは資本的支出という区分です。帳簿上の名前が修繕費でも、実態が改良工事であれば資本的支出として扱われる点には注意しておきましょう。
修繕費と資本的支出を分ける判断基準
では、シロアリ工事が修繕費になるか資本的支出になるかは、どう見分ければよいのでしょうか。ポイントは金額の目安と工事の性質の二つです。国税庁によると、修繕費と資本的支出の判定は、工事が建物の通常の維持管理や原状回復に当たるか、それとも価値を増加させたり使用可能期間を延長させたりするものかによって判断されます。部分的な駆除や被害箇所の小規模な補修であれば、修繕費として処理しやすいケースが多いでしょう。
金額が大きく区分が曖昧な場合でも、安全に修繕費として処理できる「形式基準」が用意されています。具体的には、1件あたりの金額が60万円未満である場合、または前年末の建物取得価額のおおむね10%以下である場合には、修繕費として処理できる安全域があります。判断に迷うシロアリ工事でも、この形式基準に当てはめることで適切な処理が可能になります。
一方で、資本的支出に振り分けられるのは、建物の使用可能期間を延長させたり、価値を増加させたりする工事です。国税庁の資本的支出に関する解説でも、こうした性質を持つ支出はその年の経費にせず減価償却すると整理されています。たとえば、シロアリ被害を受けた柱や土台を、より耐久性の高い防蟻処理済みの木材に交換し、建物の性能を明確に高めるような工事は、原状回復を超えた改良と見なされやすくなります。
資本的支出と判断された場合は、その金額を建物の取得価額に加え、減価償却で経費化します。木造建物の法定耐用年数は22年で、定額法による償却を通じて経費化していきます。仮に200万円の大規模工事が資本的支出になった場合、毎年の減価償却費を計算して長期間にわたって経費計上していくことになります。
「駆除」と「予防」は分けて考える
シロアリ工事を語るうえで見落とされがちなのが、「駆除」と「予防」を一括りにしてはいけないという点です。施工実務では、すでに食害中のシロアリを駆除して今後の蟻害も予防する工事と、被害はないが予防のために行う工事に分かれます。賃貸物件の経費処理を考えるときも、この性質の違いを意識しておくことが大切です。
とくに注意が必要なのは、自分が住む居住用家屋のケースです。国税庁の質疑応答では、居住用家屋についてはシロアリ被害の修繕費と駆除費は雑損控除の対象になる一方、被害前の予防費や、駆除と同時に行う予防のための薬剤散布までは雑損控除の対象にならないと明示されています。「駆除も予防もまとめて全額控除できる」と単純に考えるのは危険で、駆除部分と予防部分は分けて理解しておく必要があります。
なお、こうした雑損控除の扱いはあくまで居住用家屋に関するものです。賃貸用に貸している部分の費用は雑損控除ではなく、不動産所得の必要経費として処理するのが基本になります。被害状況や物件の使い方によって有利な方法が変わるため、判断に迷う場合は税理士や税務署へ相談すると安心です。予防工事については、業界団体のFAQで標準的な仕様として定期的に再処理する目安が示されており、計画的に管理しておくと記録の整理にも役立ちます。
シロアリ駆除費用の具体的な仕訳例
ここからは、実際の仕訳を見ていきましょう。修繕費として処理する場合の仕訳はとてもシンプルです。たとえば15万円のシロアリ駆除費用を現金で支払ったときは、借方に「修繕費 150,000円」、貸方に「現金 150,000円」と記帳します。銀行振込であれば貸方が「普通預金」になり、クレジットカード払いであれば「未払金」を経由する仕訳になります。マネーフォワードが示す「修繕費 100,000円 / 現金 100,000円」という例も、まさにこの形にあたります。
一方、資本的支出として処理する場合は、まず建物の取得価額に加算します。200万円の大規模工事であれば、借方に「建物 2,000,000円」、貸方に「現金 2,000,000円」と記帳し、この時点では経費を計上しません。その後、毎年の決算で減価償却費として仕訳し、少しずつ経費化していきます。資本的支出は固定資産台帳への登録も必要になるため、迷ったときは税理士に確認するのが確実です。
仕訳のタイミングにも触れておきましょう。国税庁の必要経費に関する解説では、その年の経費に含められるのは「債務の確定した金額」とされています。年末までに工事が完了し、債務が成立して金額が合理的に決まっていれば、まだ支払いを済ませていなくても、その年の必要経費に算入できます。逆に、前払いしていても工事が終わっておらず債務が確定していない場合は、その年の経費にはできない点に注意が必要です。
自宅併用物件では按分が必要
自宅と賃貸部分が混在する物件では、シロアリ駆除費用の全額を不動産所得の経費にすることはできません。国税庁の収支内訳書の書き方でも、自用部分に対応する費用は必要経費にならないと明記されています。そのため、貸付面積の割合など合理的な基準に基づいて費用を按分し、賃貸部分に対応する金額だけを経費に計上する必要があります。
たとえば建物全体に対してシロアリ工事を行い、そのうち賃貸部分が床面積の60%を占めるのであれば、工事費用の60%を不動産所得の経費とし、残りの40%は自用部分として経費から除く、といった処理になります。按分の根拠があいまいだと、税務調査で否認されるリスクが高まります。図面や面積の計算根拠を残し、どの基準で按分したのかを説明できるようにしておきましょう。
確定申告での記載と必要書類
確定申告では、シロアリ駆除費用を収支内訳書または青色申告決算書の「修繕費」欄に記載します。白色申告の収支内訳書では必要経費の修繕費の項目に金額を入れ、青色申告決算書でも同様に修繕費へ計上したうえで、内訳を別紙で添えておくとより明確になります。資本的支出に該当する分は修繕費ではなく減価償却費として処理する点を取り違えないようにしましょう。
必要書類として最も重要なのは、駆除業者の請求書や領収書です。作業日、作業内容、金額が明記されていることを確認し、「シロアリ駆除」「防蟻処理」「被害箇所修復」といった具体的な文言が書かれているとより安心です。あわせて、駆除前の被害状況を撮影した写真や調査報告書、複数業者から取得した見積書を保管しておくと、修繕費として計上した根拠を示しやすくなります。これらの資料は、金額が大きい工事ほど説明責任を果たすうえで役立ちます。
とくに気をつけたいのが、シロアリ駆除と同時に床の張り替えやリフォームを行った場合です。工事内容が一体となっていると、駆除部分は修繕費、改良部分は資本的支出と分けて判断されることがあります。見積書や請求書の段階で工事項目を分けて記録しておけば、後から区分しやすくなり、税務上の説明もスムーズになります。
まとめ
賃貸物件のシロアリ駆除費用は、貸付けに直接必要な支出であれば不動産所得の必要経費にできます。勘定科目はまず「修繕費」を基本に考え、安易に雑費でまとめないことがポイントです。ただし税務上の判定は科目名ではなく実質で行われるため、建物の価値を高めたり耐用年数を延ばしたりする工事は資本的支出として減価償却する必要があります。
判断に迷うときは、60万円未満や取得価額の10%以下なら修繕費の安全域があることを思い出してください。さらに、駆除と予防は性質が異なること、自宅併用物件では按分が欠かせないこと、債務確定のタイミングで計上年が決まることも押さえておきたい要点です。具体的な処理に不安がある場合は、最新の取り扱いを国税庁の公式サイトで確認しつつ、早めに税理士や税務署へ相談することをおすすめします。適切な経費処理は、長期的に安定した不動産経営を支える大切な基盤になります。
参考文献・出典
- 国税庁 – No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得) – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 国税庁 – No.1379 修繕費とならないものの判定 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm
- 国税庁 – No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm
- 国税庁 – No.2210 必要経費の知識 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁 – 令和7年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方 – https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/pdf/019.pdf
- 国税庁 – シロアリの駆除費用(質疑応答事例) – https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/01.htm
- 国税庁 – 修繕費の判定基準 – https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/07.htm
- 日本しろあり対策協会 – シロアリQ&A – https://www.shiroari.org/faq