不動産投資や事業を行っていると、建物や設備の修理・改修工事が必要になる場面は必ず訪れます。そのとき多くの方が悩むのが「この費用は修繕費として全額経費にできるのか、それとも資本的支出として資産計上しなければならないのか」という問題です。この判断を誤ると、税務申告に影響が出るだけでなく、税務調査で指摘を受けるリスクも生じます。この記事では、国税庁の情報をもとに、修繕費と資本的支出の違い・判断基準となる20万円・60万円のルール・実際の仕訳方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。
修繕費と資本的支出の根本的な違い

まず押さえておきたいのは、修繕費と資本的支出は「何のための支出か」という目的によって区別されるという点です。国税庁の情報によると、修繕費とは資産の通常の維持管理または原状回復に当たる支出のことを指し、支出した年分の必要経費として一括で計上できます。一方、資本的支出とは資産の使用可能期間を延長させる部分、または資産の価値を増加させる部分に該当する支出のことです(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm)。
重要なのは、この判定が「修繕費」「改良費」といった名目ではなく、支出の実質によって行われるという点です(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm)。たとえば「修繕工事」という名目で請求書が届いていても、実際に建物の価値を高めるような工事であれば資本的支出として扱わなければなりません。逆に「改修工事」と呼ばれていても、壊れた部分を元の状態に戻すだけであれば修繕費として処理できます。
具体的に資本的支出に該当するものとして、国税庁は建物への避難階段の取り付け、用途変更のための模様替え、機械の部品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合の通常取替額を超える部分などを挙げています(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm)。これらはいずれも、単なる原状回復ではなく、資産としての価値や機能を高める工事であることが共通点です。
20万円未満なら修繕費にできる基準

実務上、非常に使いやすいのが「20万円未満」という基準です。国税庁の情報によると、一つの修理や改良などの金額が20万円未満の場合、またはおおむね3年以内の周期で行われることが既往の実績などから明らかな修理・改良の場合は、その支出した金額を修繕費として処理することができます(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm)。
この基準のポイントは、20万円未満であれば修繕費か資本的支出かを厳密に判定しなくても、修繕費として一括経費計上が認められるという点です。たとえば、賃貸物件の壁紙の張り替えや給湯器の部品交換など、比較的小規模な工事はこの基準に該当することが多いでしょう。手間のかかる判定作業を省けるため、実務上の負担を大きく軽減できます。
ただし、注意が必要なのは「一つの修理や改良」という単位の考え方です。複数の工事をまとめて発注した場合、全体の金額で判定するのか、工事ごとに判定するのかによって結果が変わることがあります。この点については個別の状況によって判断が異なるため、不安な場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
判断が難しいときの60万円基準と按分ルール
修繕費か資本的支出かが明らかでない場合に使える、もう一つの重要な基準が「60万円」です。国税庁の情報によると、修繕費か資本的支出かが明らかでない支出について、その金額が60万円未満のときは修繕費として処理することができます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm)。また、60万円以上であっても、その金額がその修理・改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合も、修繕費として処理できます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm)。
この60万円基準は、20万円基準とは適用される場面が異なります。20万円基準は「修繕費か資本的支出かにかかわらず」使える基準であるのに対し、60万円基準は「修繕費か資本的支出かが明らかでない場合」に使える基準です。つまり、20万円以上60万円未満の支出で、かつ修繕費か資本的支出かの判断が難しいケースで活用できる基準と理解するとよいでしょう。
さらに、どちらの基準にも当てはまらない場合の実務的な処理方法として、按分ルールがあります。国税庁の情報によると、法人が継続して、支出額の30%相当額と前期末取得価額の10%相当額のいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、その処理が認められます(国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm)。この按分ルールは継続適用が条件となっているため、毎年同じ方法で処理することが求められます。
修繕費と資本的支出の仕訳方法
実際の経理処理では、修繕費と資本的支出で仕訳の形が大きく異なります。修繕費として処理する場合は、費用として当期に全額計上するため、借方に「修繕費」、貸方に「現金」または「未払金」を記入します。一方、資本的支出として処理する場合は固定資産として計上するため、借方に「建物」や「機械装置」などの固定資産科目、貸方に「現金」または「未払金」を記入します(マネーサポートパートナーズ会計事務所 https://www.msp-tax.jp/accounting/capital-vs-repair-expense/)。
具体的な例で確認してみましょう。たとえばパソコンが故障して5万円の修理費を支払った場合、金額が20万円未満であるため修繕費として処理できます。仕訳は「(借)修繕費 50,000円 / (貸)現金預金 50,000円」となります。一方、機械装置に新しい機能を追加するために50万円を支払った場合は、資産の価値を高める支出として資本的支出に該当します。この場合の仕訳は「(借)機械装置 500,000円 / (貸)現金預金 500,000円」となり、その後は減価償却を通じて費用化していきます(仙波総合会計事務所 https://semba-tax.jp/corpolate-advisor/repaircosts/)。
資本的支出として資産計上した場合、その後の減価償却の計算も重要です。国税庁の情報によると、資本的支出は原則として、その支出を行った減価償却資産と種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして、償却費の額を計算します(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm)。つまり、既存の建物に資本的支出を行った場合は、その建物と同じ耐用年数で新たな資産として減価償却を行うことになります。
個人事業主と法人での取り扱いの共通点と注意点
不動産投資を行う個人事業主にとっても、この判断基準は非常に重要です。国税庁の情報によると、貸付けや事業の用に供している建物・建物附属設備・機械装置・車両運搬具・器具備品などの資産の修繕費で、通常の維持管理や修理のために支出されるものは必要経費になります(国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm)。この点は法人と共通しており、原状回復のための支出は経費として認められます。
一方で、按分ルール(30%・10%基準)については、国税庁の通達上は法人向けの規定として示されています。個人事業主の場合の取り扱いについては、個別の状況によって異なる可能性があるため、最新情報は国税庁の公式サイトや担当税務署、または税理士にご確認ください。
実務上、修繕費か資本的支出かの判断を誤りやすいのが、複数の工事が混在するケースです。たとえば屋根の修理と同時に断熱材を追加するような工事では、原状回復部分は修繕費、断熱材の追加部分は資本的支出として按分して処理する必要があります。このような混在工事では、工事業者から詳細な内訳書を取得し、どの部分がどの費用に相当するかを明確にしておくことが、後の税務調査への備えとしても重要です。
まとめ
修繕費と資本的支出の判断は、不動産投資や事業における税務処理の中でも特に重要なポイントです。基本的な考え方は「原状回復なら修繕費、価値向上なら資本的支出」ですが、実務では判断が難しいケースも多く存在します。そのような場合に活用できるのが、20万円未満の基準と60万円未満の基準です。これらの基準を正しく理解し、適切な仕訳処理を行うことで、税務リスクを減らしながら適正な節税効果を得ることができます。判断に迷う工事が発生した場合は、工事の内訳書を詳細に保管し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。正確な処理の積み重ねが、長期的に安定した不動産投資の基盤を作ることにつながります。
参考文献・出典
- 国税庁 No.5402 修繕費とならないものの判定 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5402.htm
- 国税庁 第8節 資本的支出と修繕費 — https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/07/07_08.htm
- 国税庁 No.1379 修繕費とならないものの判定 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm
- 国税庁 No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2107.htm
- 国税庁 No.5405 資本的支出後の減価償却資産の償却方法等 — https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5405.htm
- マネーサポートパートナーズ会計事務所 固定資産の資本的支出と修繕費の判断ガイド — https://www.msp-tax.jp/accounting/capital-vs-repair-expense/
- 仙波総合会計事務所 修繕費とは?資本的支出との違い、判断基準を解説 — https://semba-tax.jp/corpolate-advisor/repaircosts/
- マネーフォワード クラウド会計 修繕費とは?勘定科目や経費にならない資本的支出の判定方法 — https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/23741/