収益物件に興味はあるけれど、数字の計算が苦手で一歩踏み出せない──そんな悩みを抱える方は少なくありません。家賃はいくら入るのか、経費や税金はいくら掛かるのか、そして毎月手元に残るお金はいくらなのか。この記事では、収益物件 収支計算 進め方を初心者でも理解できるように体系立てて説明します。読了後には、ご自身でキャッシュフロー表を作成し、投資判断ができる力が身につくでしょう。さらに、2025年度の最新税制を踏まえた注意点も盛り込みます。
収支計算の全体像をつかむ

重要なのは、収支計算を単なる数字合わせではなく、物件の将来価値を見極めるプロセスとして捉えることです。ここでは全体像を俯瞰し、後の詳細計算へスムーズに進める土台を作ります。
まず確認すべきは、年間家賃収入と年間支出の差額である「ネット収益」です。表面利回りという指標もありますが、これは購入価格に対する年間家賃収入の割合に過ぎません。そのため、管理費や固定資産税などを差し引いた実質利回りを計ることが欠かせません。数字を追う際は、月ごとではなく年ベースで捉えると季節変動の影響をならせます。
次に、金融機関からの融資条件を加味したキャッシュフローシミュレーションに移ります。金利、返済期間、元利均等か元金均等かで毎月の返済額は大きく変化します。日本銀行の統計では、2025年9月時点の投資用ローン平均金利は1.9%前後ですが、物件種別や属性で差があるため複数行へ打診することが大切です。借入額が変われば、自己資金比率と年間収支の安全度も変わるので早めに数字を当てはめましょう。
最後に、出口戦略まで含めたトータルリターンをイメージします。保有期間中のキャッシュフローに加え、売却益または損失を合算した内部収益率(IRR)を把握すると、他の資産クラスとの比較が容易になります。IRRは複利思考で投資効率を示す指標のため、長期保有を前提とする不動産投資との相性が良いといえます。
家賃収入と経費の具体的な算出方法

まず押さえておきたいのは、家賃収入を多めに見積もり、経費を少なめに見積もると失敗しやすい点です。ここでは、公的データと実務経験を交えつつ適切な数字の拾い方を解説します。
家賃収入は、国土交通省の「賃貸住宅市場概況調査」やポータルサイトの成約事例を参考に、周辺相場の中央値で設定します。募集賃料の上限で試算すると、想定利回りが実現しないケースが多いため注意が必要です。毎年1%程度の下落シナリオも同時に組み込むことで、長期的な安全余裕を確保できます。
空室率は自治体が公表する統計より、エリアの築年数や間取りに近い物件の実績を優先します。たとえば東京都23区の平均空室率は2024年末で10%弱ですが、築30年のワンルームなら12%前後に悪化する傾向があります。よって、年間家賃収入=年間満室想定賃料×(1−空室率)で計算すると現実的です。
経費は大きく固定費と変動費に分かれます。固定費には管理委託料、固定資産税・都市計画税、火災保険料(2025年度参考料率)などが含まれ、合計で年間家賃収入の15%前後になるのが一般的です。変動費として修繕費や広告料があり、築年が古いほど修繕費比率は高まります。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、築20年を超える区分マンションで年間家賃収入の5〜8%を修繕費に充当する想定が推奨されています。
さらに、所得税計算を左右する減価償却費を忘れてはいけません。2025年度の税制では、木造住宅の法定耐用年数が22年、鉄骨鉄筋コンクリート造が47年と従来どおりです。中古取得の場合は残存耐用年数を簡便法で求められるため、購入後に急激に減価償却費が減るリスクを把握しておきましょう。
キャッシュフロー分析で見るリスクとリターン
ポイントは、単年度の黒字に安心せず、将来キャッシュフローの持続性を検証することです。ここではリスクとリターンを数値化し、可視化する方法を示します。
キャッシュフロー表は、縦に年次、横に項目を並べるシンプルな形式が見やすいです。まず家賃収入、経費、借入返済を入力し、税引前キャッシュフローを算出します。借入の金利が変動型の場合、日銀短期プライムレートが上昇した場合のシナリオを2%刻みで用意すると安心です。たとえば金利が1%から3%に上がると、年間返済額は約130万円増えるケースもあるため、影響を早めに把握できます。
実は、感度分析を取り入れると意思決定が格段に楽になります。空室率、家賃下落率、金利、修繕費比率といった主要変数を1%ずつ動かし、最終的な内部収益率がどこまで耐えられるか確認しましょう。リスクが高いと判断された場合は、自己資金を厚くする、家賃設定を見直すなど対策が見えてきます。
ストレステストとして、家賃下落3%、空室率15%、金利上昇2%を同時に起こした「最悪シナリオ」も作成します。黒字幅がゼロを下回る場合でも、売却益で補えるかまで検証するとより実践的です。ここまで行うと、逆に好調シナリオがどれだけ魅力的かも数字で比較でき、心理的なバイアスを排除できます。
分析結果はグラフ化すると一目で理解できます。累積キャッシュフローを折れ線で示し、プラス域へ転じる年度が何年目かを確認しましょう。投資家の目標が「10年以内に元本回収」であれば、グラフが示す損益分岐点と一致するかどうかが決定打になります。
シミュレーションを活かした投資判断の進め方
基本的に、シミュレーションは作って終わりではなく、投資判断に落とし込むまでがセットです。ここでは作業手順と意思決定のポイントをまとめます。
最初に、想定利回りと返済比率から投資目標を数値化します。具体的には、ネット収益が年間返済額の120%以上を確保できるかを一つの基準とします。これは収益還元評価で使われるDSCR(債務返済余裕率)1.2倍に相当し、金融機関も重視する指標です。
次に、先ほど作成した感度分析シートを使い、目標DSCRを下回る条件を洗い出します。もし金利2.5%以上で赤字に転落する場合、固定金利へ切り替えるか、自己資金を増やすかといった対策が有効です。対策後に再計算し、改善効果を確認することで、計画の実現性が高まります。
第三段階として、税引後キャッシュフローを確認します。不動産所得が赤字の場合、給与所得と損益通算して税金を抑えられるメリットもありますが、2025年度の税制改正により、損益通算額が一部制限される動きが議論されています。法改正が施行される前提で、税効果を保守的に見積もると計画にブレが出にくくなります。
最後に、購入から保有、売却までを時系列で並べた投資シナリオを作成し、家族や専門家と共有します。人的リスクやライフプランの変化にも目を向けると、机上の計算を実践へ落とし込む道筋がよりクリアになります。こうして段階的にブラッシュアップした計画こそが、安定収益をもたらす収益物件 収支計算 進め方の核心です。
まとめ
ここまで、収益物件の収支計算を全体像から詳細、リスク分析、意思決定の流れまで順を追って解説しました。要するに、家賃収入と経費を現実的に見積もり、複数シナリオでキャッシュフローを検証し、対策を講じることが成功への近道です。難しそうに見えても、一度自分の数字を入れてみれば意外とシンプルだと気づくはずです。今日から試算表を作り、数字と向き合う一歩を踏み出しましょう。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅市場概況調査 2024年版 – https://www.mlit.go.jp/
- 日本銀行 金融経済統計月報 2025年8月号 – https://www.boj.or.jp/
- 総務省 住宅・土地統計調査 2023年速報 – https://www.stat.go.jp/
- 国土交通省 長期修繕計画作成ガイドライン 2025改訂版 – https://www.mlit.go.jp/
- 財務省 所得税法令解説(2025年度版) – https://www.mof.go.jp/