家賃収入で将来の不安を減らしたいと思っても、実際にいくら手元に残るのか計算できずに踏み出せない人は多いものです。特に物価上昇と金利変動が続く2025年の今、収益物件の収支計算を正しく行うことはこれまで以上に重要になっています。本記事では、今から不動産投資を始める初心者でも理解できるよう、収入と支出の項目を整理し、キャッシュフローをシミュレーションする方法を具体的に解説します。さらに、2025年度に利用できる税制優遇の活用ポイントも紹介するので、資金計画をより精緻に組み立てられるようになります。読み終えるころには、自分で数字を組み立て、購入判断を下すための基礎力が身につくはずです。
収支計算の全体像をつかむ

ポイントは、収益物件の収支を「入るお金」と「出ていくお金」に分け、年間単位で比較することです。これにより、実際に残るキャッシュフローを数値で把握でき、投資判断が明確になります。
まず家賃収入や共益費を足したグロス収入を求めます。国土交通省「賃貸住宅市場動向調査」によると、地方主要都市の平均空室率は2025年上半期で11%でした。つまり、満室想定のまま試算すると誤差が大きくなるため、あらかじめ空室率を差し引いたネット収入で計算する必要があります。初心者ほど保守的に15%程度の空室率を設定すると、安全域を確保しやすくなります。
次に支出項目ですが、ローン返済、管理委託料、修繕積立、固定資産税の四つが柱になります。金融機関の融資条件は物件種別で異なりますが、2025年時点の地方銀行平均金利は年2.1%前後です。返済額を試算するときは、元利均等か元金均等かでキャッシュフローが大きく変わるため、複数パターンを比較することが欠かせません。また、修繕費は家賃収入の10%を目安に積み立てると突発的な出費に備えられます。
最後に入金合計から支出合計を差し引き、年間の手残りを求めます。この金額を自己資金と比較し、利回りや投資回収期間を確認することで、リスクとリターンのバランスが見えてきます。重要なのは、数値を机上で終わらせず、物件の現地調査や管理会社へのヒアリングと照合して精度を高める姿勢です。その積み重ねが、誤った期待利回りに惑わされない力になります。
家賃収入を現実的に見積もる

まず押さえておきたいのは、家賃収入は市場相場と入居率の二つで決まるという点です。高利回りをうたう広告でも、この二つを適切に見積もらなければ数字は砂上の楼閣になります。
市場相場を調べる際は、賃貸検索サイトだけでなく、国土交通省「不動産取引価格情報検索システム」を活用しましょう。売買事例から逆算して家賃水準を割り出すと、周辺エリアの収益性を客観的に把握できます。また、募集賃料と成約賃料に差が出やすい時期があるため、過去1年の実績で平均を取ると精度が上がります。
次に入居率ですが、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の2025年春のデータでは、管理戸数50戸未満のオーナー平均入居率は88%でした。単純に逆算すると空室率12%となり、先ほどの保守的な15%という数字が妥当であることが分かります。ただし、築年数が20年を超える木造物件などは平均より低いケースが多いので、物件固有の要素を加味してください。
さらに、家賃保証会社の利用やサブリース契約で入居率を高める方法もありますが、保証料や賃料減額が発生します。つまり、収入を安定させる施策ほどコストがかかる点を忘れずに、ネット収入ベースで比較することが不可欠です。収益計算を行うノートやスプレッドシートには、想定家賃と成約家賃の両方を入力し、差額を常に意識できる体制を整えましょう。
ランニングコストを過小評価しない
実は、初心者がつまずきやすいのはローン以外のランニングコストです。固定費を見落とすと、想定利回りが一気に半減することも珍しくありません。
管理委託料は大手管理会社で家賃の5%前後、中小企業では3%程度が相場となります。委託料が低いほど運営成績が良くなるわけではなく、入居率やクレーム対応の質が下がれば結局収益が減るため、費用対効果を見極める視点が必要です。
修繕費は、国土交通省の長期修繕計画標準様式を参考に、屋根や外壁、給排水管ごとの周期を把握してください。たとえば外壁塗装は12年ごと、給水ポンプ交換は15年ごとが目安です。2025年の資材価格指数は2019年比で約23%上昇しているため、以前の見積もりを使い回すと不足リスクが高まります。
固定資産税は所在地と築年数で差がありますが、総務省統計局の2024年度平均値では、評価額1000万円の木造アパートで年7万円前後が目安です。都市計画税と合わせて1割上乗せすると、安全側のシミュレーションになります。さらに、火災保険は改定により2025年10月の加入から最長10年契約が5年契約へ短縮されます。更新時の保険料上昇を見込んでおくことで、キャッシュフローのブレが抑えられます。
これらのコストをすべて年額に換算し、未来の値上げ率を3%で見積もると、中長期シミュレーションの精度が向上します。物価が上昇しても家賃はすぐには上げられないため、支出側を多めに見込む姿勢こそがリスク管理の要となります。
キャッシュフローを組み立てる手順
基本的に、キャッシュフローは①初期費用、②運用収支、③売却益の三段階で評価します。ここでは運用期間中の手残りを可視化する手順を解説します。
ステップの第一は、購入時に発生する諸費用を洗い出すことです。仲介手数料、登録免許税、司法書士報酬、火災保険料などが代表例で、合計すると物件価格の7%前後になります。自己資金を圧迫する要素なので、ローンに組み込める費用と自己負担になる費用を分けて一覧化しておきましょう。
次に、先ほど整理した年間のネット収入と支出を月次に落とし込みます。Excelや無料の家計簿アプリを流用してもかまいませんが、シート上で金利や空室率を変数化しておくとシナリオ分析が簡単になります。たとえば金利を1%上げると、2億円のローンでは年間約160万円の支出が増える計算です。こうした感度分析により、耐性ラインを把握できます。
損益計算ができたら、現金の出入りを示すキャッシュフロー計算書を作ります。減価償却費は支出を伴わないため税引き前の利益から控除できますが、キャッシュフロー上は影響しない点を押さえてください。年間キャッシュフローがプラスであっても、大規模修繕や繰上返済の資金を考慮すると余裕が足りない場合があります。したがって、手残りの50%を内部留保に回すなど、自分なりのルールを決めておくと安定運用につながります。
最後に、運用期間終了時の売却シナリオを加味して内部収益率(IRR)を計算すると、他の投資との比較が可能になります。REITの平均分配利回りが4%台にとどまる2025年の市場環境で、IRRが7%を上回れば相対的に魅力的と判断できます。ただし、売却価格は築年数とエリア需要で大きく変わるため、複数の下落率シナリオを設定することが肝心です。
2025年の税制優遇と補助を味方にする
ポイントは、2025年度に実際に利用できる制度だけを組み込み、絵に描いた餅を避けることです。ここでは代表的な二つの制度を紹介し、収支計算への影響を示します。
ひとつ目は、青色申告特別控除です。不動産所得を青色申告で届け出ると、最大65万円の控除が受けられます。電子帳簿保存要件を満たすことが前提ですが、クラウド会計ソフトを使えば手間は大きくありません。控除額を税率20%で換算すると、実質13万円の税負担軽減となり、同額だけキャッシュフローが改善します。
二つ目は、中小企業経営強化税制(2025年度末まで延長)です。法人で木造アパートを新築し、一定の認定を受けた場合、建物部分を即時償却または特別償却できる仕組みになっています。初年度に大きな節税効果が得られるため、売上規模のある個人事業主が法人成りするケースも増えています。もっとも、減価償却を前倒しするだけという側面もあるので、長期で見た利益計画に組み込んでバランスを取ることが必要です。
このほか、太陽光発電を設置した場合の再エネ賦課金軽減措置や、省エネ改修に対する固定資産税の3年間2分の1減額といった制度もあります。ただし、適用条件が細かく、2025年度で終了するものもあるため、必ず自治体窓口か税理士に確認してください。制度名と期限を正しく把握し、確実に利用できるものだけを収支計算に反映させる姿勢が、予想外の資金繰り悪化を防ぎます。
つまり、制度は「使えば得」ではなく「要件を満たせば得」という性質を持ちます。要件を見誤ると、当初予定していた節税額がゼロになる恐れがあります。収益計算の表には控除・減税の適用可否をチェックボックスで管理し、実行の確度を常に点検しましょう。
まとめ
ここまで、収益物件の収支計算を今から始めるためのステップを解説しました。家賃収入の現実的な見積もりと、ランニングコストの厳密な把握が核心です。さらに、シミュレーションで金利や空室率を変化させ、税制優遇を確実に反映させれば、数字に裏打ちされた投資判断ができます。記事で紹介した手順を自分の物件データに当てはめ、今日からキャッシュフロー表を作成してみてください。それが安定経営への第一歩になります。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 不動産取引価格情報検索システム – https://www.land.mlit.go.jp
- 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 2025年春季入居率調査 – https://www.chinkan.jp
- 総務省統計局 令和6年度 固定資産税課税台帳情報 – https://www.stat.go.jp
- 日本銀行 金融システムレポート2025 – https://www.boj.or.jp