不動産の税金

未経験でもできる収益物件の収支計算

不動産投資に興味はあるものの、数字が苦手で一歩を踏み出せない人は少なくありません。特に初めて収益物件を検討する場合、収支計算が複雑に思えて尻込みしがちです。本記事では、未経験の方でも迷わず計算できるステップと考え方を詳しく解説します。読めば毎月のキャッシュフローを予測し、リスクとリターンを把握する力が身につくでしょう。さらに2025年時点の融資環境や税制の基本情報も盛り込み、実践に役立つ最新の視点を提供します。

収益と費用を洗い出すのが第一歩

収益と費用を洗い出すのが第一歩のイメージ

ポイントは、収益と費用を漏れなくリスト化することです。数字を細分化すれば、後の収支計算が格段に正確になります。そうすることで、想定外の出費に慌てるリスクを低減できます。

まず収益部分を整理しましょう。賃料収入が中心ですが、月極駐車場や自販機設置料など副次的な収入源も計上します。これらを年間ベースで合算し、12で割ると月次の平均がつかめます。総務省の家計調査によると、2024年の平均家賃上昇率は前年比1.4%にすぎません。そのため賃料アップを過度に期待せず、現行家賃を基準にします。

一方で費用項目は多岐にわたります。代表的なのはローン返済、管理委託料、固定資産税・都市計画税、火災保険料、共用部電気代です。国土交通省「賃貸住宅管理業実態調査」では、管理委託料の平均は賃料の4.9%でした。未経験者ほど細かい数字に疎くなりやすいので、見積書や税額通知書を手元に置き正確に入力しましょう。

さらに空室率の設定が欠かせません。2025年の総務省住宅・土地統計調査速報では、全国平均空室率は13.2%です。都心は8%前後、地方は20%を超える地域もあるため、物件所在地のデータを基に保守的に設定する姿勢が大切です。

未経験者が陥りやすい見落としコスト

未経験者が陥りやすい見落としコストのイメージ

実は収支計算を狂わせるのは、目立たない小さな費用です。未経験者ほど「年間に直すと大きな差になる」という感覚が希薄になりがちです。

修繕費の積立がその代表例です。築年が浅いうちは見過ごされますが、屋上防水やエレベーター更新など一度に数百万円かかることも珍しくありません。国土交通省「長期修繕計画ガイドライン」では、鉄筋コンクリート造で30年目に平米当たり1万円超の大規模修繕が推奨されています。物件の延床面積が1000㎡なら1000万円を超える計算です。

また仲介手数料を忘れないよう注意しましょう。退去が発生するたび、次の入居者募集で賃料1か月分程度の負担が生じます。年間の平均入れ替え率が20%として賃料月額が8万円なら、物件全体で年間約19万円のコストです。

火災保険は更新サイクルが長く、支払時期を失念しやすい項目です。2022年10月の保険料改定以降、築古物件ほど料率が上昇しています。5年更新のケースなら、5年分を均等割にして月額費用に含めると精度が上がります。

キャッシュフローを守る融資戦略

重要なのは、金利と返済期間のバランスを最適化することです。低金利が続く2025年でも、物件の属性によっては1%台後半の提示が一般的になっています。

返済期間を延ばせば月々の負担は軽くなりますが、元本が減るペースは遅くなります。日本政策金融公庫の2025年度利率は基準4.0%以内ですが、条件付きで0.9%優遇が受けられる制度もあります。住宅ローン減税は自宅用で投資には使えませんので、混同しないよう注意が必要です。

さらに自己資金比率はキャッシュフローを大きく左右します。不動産経済研究所の調査によると、自己資金20%未満と30%以上では、金利引き下げ幅に平均0.3ポイントの差がありました。少額の自己資金でも、諸費用分を現金で賄うだけで金利優遇が得られるケースもあるため、金融機関へ具体的に交渉すると効果的です。

一方で繰上返済は慎重に判断します。キャッシュフローが黒字のうちは内部留保を厚くし、次の投資機会に備える選択肢もあります。利回りが金利を大きく上回るなら、レバレッジ効果を活かす方が資産形成のスピードが速まります。

失敗しない収益物件の選び方

まず押さえておきたいのは、立地と利回りのバランスです。都心駅徒歩10分圏は利回りが低くても空室リスクが小さいため、初心者に向いています。逆に高利回り物件は空室リスクや修繕コストが嵩みやすく、経験値が必要です。

国土交通省「土地総合情報システム」によると、2025年の東京都心中古マンション平均利回りは4.1%、地方中核市は7.3%でした。差は3ポイント以上でも、空室率や賃料下落スピードを加味すると実質利回りの差は縮まります。数字を鵜呑みにせず、人口動態や再開発計画も調べましょう。

建物構造の確認も欠かせません。木造は価格が安く利回りが高めですが、法定耐用年数が22年と短いため融資年数が制限されやすいです。鉄筋コンクリート造は47年で融資条件が有利ですが、修繕費も高額になります。未経験者は融資期間が物件残存年数に左右される点を早めに理解する必要があります。

さらに管理会社の質が長期収益を左右します。国交省の2024年管理業登録数は8000社を超えましたが、サービスや報酬体系は千差万別です。空室時のリーシング力やクレーム対応の評判を、オーナー口コミや地元不動産業者からヒアリングし、信頼できるパートナーを選ぶことが成功への近道です。

シミュレーション事例で理解を深める

ポイントは、現実的な数値を使って複数シナリオを比較することです。ここでは築15年の鉄骨造アパート(8戸、家賃6.5万円)を例に収支計算を行います。

年間家賃収入は624万円です。空室率を10%と設定すると実収入は561万6千円になります。管理委託料は賃料の5%で28万800円、修繕積立を年36万円、固定資産税・都市計画税を年48万円とします。火災保険は5年45万円を均等割りで年9万円、共用部電気代は年6万円です。これらを差し引くと年間の運営費は127万8千円、営業純利益は433万8千円となります。

次に融資条件を組み込みます。購入価格6,000万円、自己資金1,200万円、借入金額4,800万円、金利1.9%、返済期間25年で試算すると、年間元利返済額は約238万円です。営業純利益から返済額を引いた税引前キャッシュフローは195万8千円、月当たり約16.3万円の黒字となりました。

言い換えると、自己資金1,200万円で年195万円が手元に残るため、表面上の自己資金利回りは16.3%です。しかし空室率を20%、金利を2.5%に変更するとキャッシュフローは月3万円まで減少します。このように厳しめの条件で試算し、耐性を確認しておくことが長期安定経営の鍵です。

最後に税金の影響を加えます。減価償却費を考慮すると、課税所得が圧縮され所得税・住民税が軽減されます。2025年度の個人所得税率は変わらない見込みですが、利益が大きい年ほど税金が増えるため、青色申告特別控除や法人化も視野に入れて節税手段を検討すると良いでしょう。

まとめ

結論として、収益物件の収支計算は項目を網羅し現実的な数値を当てはめれば、未経験でも十分に行えます。収益と費用を細かく把握し、空室率や金利上昇など悲観シナリオでも黒字を確保できるかを確認することが欠かせません。さらに融資戦略と物件選定の質がキャッシュフローを大きく左右します。記事を参考に自分のシミュレーションを作成し、数字に裏付けられた意思決定を行いましょう。

参考文献・出典

  • 国土交通省 住宅局「賃貸住宅管理業実態調査2024」 – https://www.mlit.go.jp/
  • 総務省統計局「住宅・土地統計調査2025速報」 – https://www.stat.go.jp/
  • 日本政策金融公庫「中小企業事業 2025年度利率情報」 – https://www.jfc.go.jp/
  • 不動産経済研究所「収益不動産投資調査レポート2024」 – https://www.fudousankeizai.co.jp/
  • 国土交通省「土地総合情報システム 取引価格情報」 – https://www.land.mlit.go.jp/

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