不動産投資を始めたいと考えていても、「実際に手元に残るお金がいくらになるのか分からない」と戸惑う人は少なくありません。物件価格や家賃収入だけを眺めても、維持管理費や税金まで含めたリアルな数字が見えてこなければ、判断を誤るリスクが高まります。そこで本記事では、収益物件の購入前に欠かせない収支計算の手順を基礎から解説し、初心者でも再現しやすいチェックポイントを紹介します。読み進めることで、自分に合った投資判断ができるようになり、将来のキャッシュフローを具体的に描けるようになるでしょう。
キャッシュフローを理解する第一歩

まず押さえておきたいのは、「キャッシュフロー」と「表面利回り」がまったく別物だという点です。表面利回りは家賃収入を物件価格で割った単純な指標ですが、キャッシュフローはすべての支出を差し引いた後に残る手取りです。国土交通省の2025年度賃貸住宅市場データによると、首都圏ワンルームの平均表面利回りは4.2%ですが、実質利回りは2%台に下がる物件が大半です。つまり、見かけの利回りだけで判断すると、実際の手残り額が想定より大幅に少なくなる恐れがあります。
次に、キャッシュフローは「年間家賃収入―年間支出―年間ローン返済額」で算出します。ここで「年間支出」には管理費や修繕積立金、固定資産税のほか、火災保険料や広告費も含めます。ローン返済額は元金と利息を合算し、返済年数と金利から正確に計算しましょう。この時点でプラス圏に収まらない場合、購入条件を見直すか、物件を再検討することが必要です。
実は、キャッシュフローは投資の安全余裕度を測るバロメーターでもあります。手残りが毎月1万円しかない物件では、空室や修繕が発生した途端に赤字へ転落してしまいます。一方で毎月3万円以上残る物件なら、多少のリスク要因が生じても資金繰りが破綻しにくいという安心感が得られます。
収益と費用の内訳を洗い出す

ポイントは、収入項目と支出項目を漏れなくリスト化し、数字を一つずつ検証することです。家賃収入はもちろん、礼金や更新料などの一時金も含め、年換算で計上します。さらに、駐車場代や自販機設置料など副収入が見込めるかどうかも確認しましょう。
一方、支出は「変動費」と「固定費」に分けて把握すると精度が上がります。変動費には管理会社への手数料や入居者募集時の広告費があり、入居率に応じて上下します。固定費には管理組合費、火災保険料、固定資産税が含まれ、毎年ほぼ同額が発生します。ここで「収益物件 収支計算 必要」という視点が生きてきます。すべての費用を合算した後に初めて、真の利回りが浮き彫りになるからです。
たとえば、築10年の区分マンションで年間家賃収入96万円、管理費・修繕積立金合計18万円、固定資産税6万円、広告費2万円、火災保険1万円とします。支出の合計は27万円となり、収入との差額は69万円です。ここからローン返済を年額50万円とすると、キャッシュフローは19万円、月当たり1.6万円となります。数字を具体的に置き換えることで、利回りの影響がより明確に見えてきます。
融資条件が収支に与える影響
基本的に、ローン金利と融資年数は収支計算の肝です。金融機関別の金利差は0.5%前後に見えるかもしれませんが、35年ローンなら総返済額が数百万円単位で動きます。金融庁の2025年度金融モニタリングレポートによると、投資用不動産ローンの平均金利は2.2%ですが、属性や担保評価によっては1.6%前後に下がるケースもあります。
また、元利均等返済か元金均等返済かで返済の内訳が変わり、初年度のキャッシュフローに差が生じます。元利均等は毎月の返済額が一定で計画は立てやすいものの、序盤は利息負担が重くなります。一方、元金均等は元金を早く減らせるため総利息は少なくなりますが、初期の返済額が大きくなる点に注意が必要です。
さらに、自己資金比率も無視できません。物件価格の20%を自己資金として投入すれば、ローン残高が圧縮され返済負担が軽減されます。自己資金ゼロでフルローンを組むと、返済額が膨らみキャッシュフローは厳しくなりがちです。つまり、金利・返済方法・自己資金の三要素を組み合わせ、最適な融資条件を引き出すことが収支改善の近道となります。
空室リスクと修繕費をどう織り込むか
しかし、収入が常に満室ベースで続くとは限りません。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2025年から2030年にかけて全国の単身世帯数はやや横ばいになる見通しです。地域によっては空室率上昇の懸念があるため、年間家賃収入を実際の入居率で割り引く必要があります。初心者の場合、首都圏でも入居率95%、地方都市なら90%程度を想定すると無難です。
修繕費も計画的に積み立てましょう。築15年を過ぎると、給排水管や屋根防水の大規模修繕が避けられません。国土交通省の長期修繕計画ガイドラインでは、マンション一室あたり年間7,000〜10,000円の修繕積立金を推奨しています。戸建てや一棟物件の場合は、年間家賃収入の5〜10%を修繕予備費として見込んでおくと安心です。
ポイントは、空室と修繕を同時に迎えてもキャッシュフローが枯渇しないかを確認することです。たとえば、月の手残りが3万円ある物件で、半年間空室が続くと18万円の減収になります。この状態で20万円の修繕が発生すれば、予備費を用意していない場合、すぐに持ち出しを迫られます。シミュレーション段階で最悪シナリオを織り込み、資金繰りの余裕をチェックしておくことが大切です。
シミュレーションの精度を高めるポイント
重要なのは、数字を一度入力して終わりにしない姿勢です。金利、税制、管理費率は毎年変動し得るため、少なくとも年に一度は収支シミュレーションを更新しましょう。国税庁の2025年度税制改正により、固定資産税評価額の算定方法が一部見直され、評価額が上昇する地域も報告されています。こうした動きを反映しなければ、実際の負担と乖離が生じます。
シミュレーションでは「ベースケース」「悲観ケース」「楽観ケース」の三つを作ると効果的です。空室率、金利、修繕費をシナリオごとに変動させ、どのケースでも赤字にならないかを確認します。また、ExcelのNPV(純現在価値)関数やIRR(内部収益率)関数を活用すれば、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて比較できます。投資判断を数字で裏付けることで、感情に左右されない冷静な意思決定が可能になります。
最後に、専門家のセカンドオピニオンを得ることも忘れないでください。2025年度時点では、不動産投資専門のファイナンシャル・プランナーがオンライン相談を提供しており、1回1万円前後で詳細な収支チェックを受けられます。客観的な視点を取り入れることで、見落としを最小限に抑えられるでしょう。
まとめ
本記事では、収益物件の購入前に必ず行うべき収支計算の手順とポイントを解説しました。表面利回りではなくキャッシュフローに着目し、収入と支出を細かく洗い出すことが第一歩となります。そのうえで、金利・融資年数・自己資金の組み合わせを最適化し、空室リスクと修繕費を現実的に織り込むことで、安定した投資計画が描けます。ぜひ年に一度はシミュレーションを更新し、数字の変化に敏感な投資家を目指してください。手元に残るお金を正確に把握できれば、次の物件取得や出口戦略へ踏み出す自信も生まれるはずです。
参考文献・出典
- 国土交通省 不動産市場動向調査(2025年版) – https://www.mlit.go.jp/
- 国土交通省 長期修繕計画標準ガイドライン – https://www.mlit.go.jp/
- 金融庁 金融モニタリングレポート2025 – https://www.fsa.go.jp/
- 国税庁 2025年度税制改正の概要 – https://www.nta.go.jp/
- 国立社会保障・人口問題研究所 将来人口推計2025 – https://www.ipss.go.jp/