マンション投資に興味はあるものの、「毎月のキャッシュフローが本当にプラスになるのか」「将来の大規模修繕に備える修繕積立金が重荷にならないか」と不安を抱える人は多いでしょう。実際、利回りだけを見て購入した結果、思ったより手残りが少ないケースは珍しくありません。本記事ではキャッシュフローの基本から修繕積立金のしくみ、両者がどのように影響し合うかまでを丁寧に解説します。最後まで読めば、数字の裏側を読み解く力が身につき、初心者でも無理のない投資判断が可能になります。
キャッシュフローとは何か

まず押さえておきたいのは、キャッシュフローが「入金と出金の時間差から生まれる現金の流れ」を示す言葉だという点です。家賃収入からローン返済や管理費などを差し引いた後に残る金額がプラスなら投資は順調、マイナスなら資金不足に陥るリスクが高まります。
国土交通省の「賃貸住宅経営実態調査」によると、区分マンション投資の平均家賃は月額9.1万円、空室率は約9%です。この数値を基に、家賃収入年間約100万円、空室リスクを考慮した実際の年間入金91万円としましょう。一方でローン返済は金利1.5%・期間35年・借入額2,500万円の場合、年間約96万円になります。さらに管理費・修繕積立金が年間18万円かかれば、単純計算でキャッシュフローは23万円の赤字です。つまり、表面利回りが高く見えても資金繰りが追いつかないケースは意外に多いのです。
一方で、頭金を多めに入れて借入額を2,000万円に抑えると、年間返済は約77万円に下がります。同じ条件ならキャッシュフローはほぼトントンまで改善します。このように、資金計画と返済条件の調整こそが現金収支を安定させるカギになります。
修繕積立金の基礎知識

重要なのは、修繕積立金が大規模修繕の費用を平準化するための前払い金だという点です。マンション標準管理規約では、屋上や外壁の修繕を12年~15年周期で実施するよう推奨しており、その費用は区分所有者全員が均等に負担します。
修繕積立金の額は築年数と共に上昇するのが一般的です。東京都都市整備局の2024年度調査によれば、築5年未満の平均は月180円/㎡、築20年超では月330円/㎡に跳ね上がります。たとえば専有面積30㎡なら月額5,400円から9,900円へと、約1.8倍に増える計算です。加えて、2025年度以降も建設資材価格と人件費の高騰が続く見通しで、将来負担がさらに重くなる可能性があります。
言い換えると、現在の修繕積立金が低く設定されているマンションは要注意です。積立不足が続けば、大規模修繕のタイミングで一時金を請求されるリスクが高まります。購入前に長期修繕計画書と現在の積立残高を必ず確認し、将来の負担を見積もる姿勢が欠かせません。
キャッシュフローに与える修繕積立金の影響
ポイントは、修繕積立金が固定費としてキャッシュフローに直接響くという事実です。さらに、段階増額方式を採用しているマンションでは、築年ごとに負担が増えるため、長期保有を前提にすると見かけの利回りがどんどん目減りします。
たとえば築10年の物件を購入し、購入時の修繕積立金が月8,000円だったとします。長期修繕計画で築15年に月10,000円、築20年に月12,000円へ増額予定なら、年間支出は6年後に24,000円、11年後には48,000円増える計算です。この増額幅を家賃上昇でカバーできるとは限らず、空室発生時には赤字幅が一気に拡大します。
また、金融機関は融資審査の際に「実質利回り」を重視します。修繕積立金が適正額より低いと一見利回りが良く見えるため、初心者が高値で掴みやすいのです。購入前に長期的な支出を加味して再計算し、少なくとも月1万円のバッファを設けておくと、家賃下落や空室があってもキャッシュフロー破綻を防ぎやすくなります。
投資判断を磨くシミュレーション手法
実は、キャッシュフロー表を作る際に「修繕積立金の将来増額」と「空室率変動」の二つを同時に織り込むことで、リスクを定量的に把握できます。ここではExcelを使った三段階シナリオ分析を紹介します。
まずベースラインとして、空室率10%、修繕積立金が現在の額で据え置きという楽観的条件を設定します。次に、空室率15%、修繕積立金が段階増額の通り上昇する標準シナリオを作ります。最後に、空室率20%、修繕積立金がさらに10%上乗せになる悲観シナリオを用意し、それぞれ10年間のキャッシュフローを計算しましょう。
ここでのキモは、年間平均キャッシュフローが3年連続でマイナスになるかどうかです。金融機関が延滞リスクを判断する際の基準に近いため、このラインを超えると追加融資が難しくなります。もし悲観シナリオで赤字が続く場合は、購入価格を10%下げる、頭金を増やす、もしくは管理費の安い物件に乗り換えるなど改善策を検討してください。
さらに、日本銀行の2025年上期金融システムレポートでは、政策金利が今後0.25%刻みで段階的に引き上げられる可能性が指摘されています。金利1%上昇で年間返済額が数十万円増えるケースもあるため、金利感応度も同時に試算するとより実践的です。
2025年度の制度と実務ポイント
基本的に、2025年度に区分マンション投資を後押しする直接的な補助金は存在しませんが、住宅ローン減税の拡充や賃貸住宅省エネ改修補助が間接的にメリットをもたらす場合があります。住宅ローン減税は自己居住用が原則ですが、将来的にマイホーム転用を視野に入れるなら選択肢に入ります。また、賃貸住宅省エネ改修補助(2025年度、上限80万円、交付申請は2026年3月まで)は、空室時のリフォームと同時に利用することで入居付けを有利にし、実質的にキャッシュフローを押し上げる効果が期待できます。
一方で、インボイス制度の本格運用により、課税売上1,000万円超のオーナーは適格請求書発行事業者登録が必須になりました。登録すると消費税の納税義務が生じるため、家賃収入が多い場合はシミュレーション時に消費税負担を加味する必要があります。免税事業者のままでは仲介業者から取引を敬遠されるリスクもあるため、登録の可否は早めに判断すると安心です。
さらに、区分所有法改正(2024年6月施行)の影響で、共用部の管理規約変更がオンライン総会でも可能になりました。これにより修繕積立金の増額決議がスムーズに行えるようになった一方、オーナーが議論の場を欠席すると気づかぬうちに負担増が決まる恐れがあります。管理組合からの通知メールをこまめに確認し、必要に応じて議決権行使書を提出するなど、能動的な関与が求められます。
まとめ
本記事ではキャッシュフローと修繕積立金の関係を軸に、マンション投資の落とし穴を解説しました。家賃収入からローン返済や固定費を引いた実質収支を常に把握し、修繕積立金の将来増額や金利上昇を織り込んだシミュレーションを行うことが成功への近道です。物件選びの際は長期修繕計画と積立残高を必ず確認し、最低でも月1万円の余裕資金をキャッシュフローに組み込むと安心できます。最後に、制度改正や補助金情報は毎年更新されるため、購入後もアンテナを張り続ける姿勢が長期安定経営を支えます。今日から数字と向き合い、堅実なマンション投資を一歩ずつ進めてみてください。
参考文献・出典
- 国土交通省 賃貸住宅経営実態調査(2024年版) – https://www.mlit.go.jp
- 東京都都市整備局 マンション実態調査(2024年度) – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 不動産経済研究所 新築マンション価格動向(2025年10月) – https://www.fudousankeizai.co.jp
- 日本銀行 金融システムレポート(2025年上期) – https://www.boj.or.jp
- 賃貸住宅管理業協会 インボイス制度対応ガイド(2025年版) – https://www.chinkan.jp