不動産の税金

収益物件 査定方法をどのように学ぶか

不動産投資を始めたばかりの方にとって、「物件の価格は妥当なのか」「この家賃で本当に利益が出るのか」という疑問は尽きません。特に収益物件の査定方法をどのように身につければよいかは、多くの初心者が最初にぶつかる壁です。本記事では、査定の基本指標から最新市場データの読み解き方までを丁寧に解説します。読了後には、自分で数字を組み立てて物件の収益力を判断できるようになるはずです。

収益物件の価値を決める三つの視点

収益物件の価値を決める三つの視点のイメージ

まず押さえておきたいのは、収益物件の価値は「収益力」「リスク」「市場環境」という三つの視点で決まるという事実です。数字だけでなく背景を理解することで、表面的な利回りに惑わされにくくなります。

最初の視点である収益力は、家賃収入から運営費と空室損失を差し引いた純収益(NOI: Net Operating Income)で把握します。国土交通省の2025年賃貸住宅実態調査によると、東京23区の平均NOI利回りは4.2%で、地方中核都市は6.1%でした。数字が高いほど収益性は高いものの、リスク視点も併せて評価する必要があります。

次にリスクを測る代表的な指標がキャップレート(還元利回り)です。これは期待収益を物件価格で割って算出します。リスクが大きいエリアほどキャップレートが高く設定されるため、単純に利回りが高いから得とは言えません。家賃下落や修繕負担を織り込む視点が欠かせないのです。

最後の市場環境は金利と人口動態に集約されます。日本銀行が2025年4月に示した短期政策金利は0.3%ですが、中長期国債利回りは1.0%前後で推移しています。金利が上がればキャッシュフローが圧迫されるため、金利動向と地域の入居需要をセットで追い続ける姿勢が要となります。

ポイントは収益還元法の理解

ポイントは収益還元法の理解のイメージ

重要なのは、査定の中心に収益還元法(Income Approach)を据えることです。これは、将来得られる家賃収入を現在価値に割り引いて評価する方法で、実務では一棟物件でも区分マンションでも広く使われています。

収益還元法には直接還元法とDCF法の二系統があります。直接還元法は1年分のNOIをキャップレートで割るシンプルな形で、概算価格を短時間で把握できる利点があります。ただし、空室率や運営費率の設定が甘いと価格が大きくぶれるため、保守的に数字を置く姿勢が欠かせません。

一方でDCF(Discounted Cash Flow)法は、10年程度のキャッシュフローと売却時の残存価格を割引現在価値で合計します。たとえば表面利回り7%の地方アパートでも、空室率20%シナリオと修繕積立を盛り込むと、実質利回りが4%台に下がるケースが珍しくありません。結論として、DCF法は手間がかかりますがリスクを細かく織り込めるため、中長期で保有する予定なら必須の分析手法です。

さらに、2025年度の税制改正で最大200万円までの原状回復費を一括経費計上できる特例が継続しています。この経費効果をDCFに組み込むことで、実効税率を下げ、投資回収期間を1〜2年短縮できる場合があります。数字が小さくても税引後キャッシュフローに与える影響は大きいため、見逃さないようにしましょう。

実は数字だけでなく周辺データが鍵

実務では、査定結果が机上の空論にならないよう、エリア特性を読み解く作業が必要です。人口統計、雇用統計、再開発計画などの非財務データが、家賃の将来推移を左右します。

たとえば総務省の2025年推計人口では、都内城東エリアで20〜34歳人口が微増する一方、同じ都内でも西多摩では年1.3%減少が見込まれています。若年単身世帯が増える地域はワンルーム需要が底堅く、利回りが多少低くても安定収益を得やすい傾向があります。

加えて、賃料水準はネットの募集賃料ではなく実際の成約賃料を基準にすべきです。レインズの2025年上期データによると、首都圏の募集賃料と成約賃料の差は平均6%でした。差を詰めて査定しないと、購入後に想定利回りが一気に下がるリスクが高まります。

また、地域の修繕業者の単価や管理会社の空室対策力も無視できません。同じ築年数でも、管理体制が整った物件は賃料下落幅が小さいという調査結果が、国交省の「民間賃貸住宅に関する市場動向調査」で示されています。数字と現地情報を組み合わせることで、査定の精度は飛躍的に向上します。

査定の流れはどのように進むか

ここでは収益物件 査定方法 どのように進めるかを、実務の時系列で整理します。流れを理解すれば、専門家に依頼する際も要点を的確に伝えられるようになります。

最初のステップは、物件概要とレントロール(入居状況表)の収集です。築年数、構造、間取り、現行賃料、管理費などを一覧化し、漏れがないか確認します。情報が不足していると、後工程で修正が発生し手戻りが増えるため、丁寧に行うことが肝心です。

次に、近隣成約賃料と空室率の調査を行います。ここでは不動産情報サービスの統計だけでなく、実際に周辺を歩いて空室看板の数を数える「リアル空室率」も取り入れます。数字と体感が大きくずれる場合は、賃料設定やリフォーム計画を再検討すべきサインとなります。

三つ目の工程では、運営費と修繕費を予測します。2025年度の国税庁耐用年数表では、木造アパートの法定耐用年数は22年ですが、実務上は30年以上使用されることが多いです。そこで、大規模修繕を築25年時点で一度行う前提でCFを組み、資金繰りを点検します。

最後に、割引率を設定して価値を算定し、売買価格と比較します。割引率は無リスク利子率に地域リスクプレミアムを上乗せして決めますが、実務では銀行の長期金利+2〜4%が目安とされます。査定価格が売買価格を下回る場合は利回り改善策を考えるか、次の物件を探す判断が合理的です。

2025年度の市場環境を踏まえたチェックリスト

ポイントは、査定後に「いつ買うか」「何を優先するか」を市場環境と結びつけることです。2025年10月時点の金融・賃貸市場の特徴を反映したチェックリストを用意しました。

まず金利動向です。日本銀行は大幅な利上げ局面に入っていませんが、長期固定金利は2024年比で0.3ポイント上昇しました。固定で借りる場合は、利回りが低い都市部物件ほど金利上昇リスクを強く受けるため、返済比率を年収の35%以内に抑える設計が安全圏です。

次に、地方都市の人口減少リスクです。総務省の2040年人口推計によれば、県庁所在地でも10%以上の減少が見込まれる地域が半数を超えます。それでも駅徒歩5分圏や大学近隣は需要が安定しているため、ミクロ立地を丁寧に吟味すればチャンスは残ります。

三点目は環境性能です。2025年度の住宅省エネルギー基準適合義務は新築のみ対象ですが、既存物件でも断熱改修に対して最大75万円の補助が継続しています。改修後の光熱費削減を賃料に転嫁できれば、キャップレートを0.2〜0.3ポイント改善できる試算もあります。

最後に管理体制です。賃貸住宅管理業法の改正で、サブリース契約の情報開示が義務化されました。借上げ家賃が市場賃料の90%を超えているか、更新時の減額条件が明記されているかを確認し、長期の収益計画にズレが生じないように気を付けましょう。

まとめ

ここまで、収益物件の査定方法をどのように学び実践するかを解説してきました。NOIやキャップレートなどの基礎指標を理解し、収益還元法を用いてキャッシュフローを精緻に組み立てることが第一歩です。さらに、人口動態や金利動向といった外部要因を織り込むことで、机上と現実のギャップを最小化できます。ぜひ本記事で紹介した手順を使い、自分の手で数字を積み上げ、納得できる物件選びに挑戦してみてください。

参考文献・出典

  • 国土交通省 賃貸住宅実態調査2025 – https://www.mlit.go.jp
  • 日本銀行 金融政策決定会合資料 2025年4月 – https://www.boj.or.jp
  • 総務省 日本の地域別将来推計人口 2025年版 – https://www.soumu.go.jp
  • 国税庁 耐用年数表(令和7年度版) – https://www.nta.go.jp
  • レインズ マーケットインフォメーション2025上期 – https://www.reins.or.jp
  • 国土交通省 民間賃貸住宅に関する市場動向調査 2025 – https://www.mlit.go.jp/housing

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