円安が長期化する現在、海外からの不動産買いが増え、国内投資家は「物件価格は上がるのに家賃は伸び悩むのでは」と不安を抱きがちです。それでも正しい知識と戦略を持てば、円安はむしろ収益機会を広げます。本記事では為替と家賃収入の関係、資金調達、物件選定までを体系的に整理します。初心者でも今日から実践できる判断基準を提示するので、最後まで読めば円安時代でも安定したキャッシュフローを構築する道筋が見えてきます。
円安で変わる不動産投資の前提

重要なのは、円安が不動産市場に与える影響が「国内外の資金流入」と「物価連動コスト」の二層で表れる点です。まず為替が一ドル=165円前後で推移する今、外国人投資家は実質的に二割以上割安で日本の物件を購入できます。日本銀行の国際収支統計によると、2024年度の不動産直接投資額は前年比35%増となり、この傾向は2025年も続いています。
次に建築資材の輸入価格が上昇し、新築コストは五年前より平均15%高い水準です。その結果、新築賃貸の供給ペースは鈍化し、既存物件の空室リスクは相対的に下がりました。つまり中古収益物件の希少性が高まり、適切にリノベーションすれば家賃維持がしやすい状況が生まれています。
一方で、国内賃金上昇は緩やかなため家賃の大幅値上げは簡単ではありません。家賃が横ばいでも、金利と為替の読み方次第で総収益は改善できます。ポイントは家賃の微増と円安メリットを組み合わせ、実質利回りを高める視点です。
収益物件のキャッシュフローに為替が与える影響

まず押さえておきたいのは、円建て家賃とドル建て支出が交錯するケースが増えていることです。海外投資家はドル資金を円に替え家賃を受け取るため、為替益が上乗せされ利回りを押し上げます。一方、国内投資家も管理委託料や設備の輸入部材コストがドル建てで上昇しやすい点に注意が必要です。
実は、為替影響を抑える最もシンプルな方法は、運営費率を下げ内部コストを極力円建てに固定することです。例えばエアコン交換を国内メーカーの長期保証品に切り替え、輸入部材の使用頻度を下げるだけで維持費を年3%削減できた事例があります。家賃が年間360万円のワンルーム20戸のマンションでは、維持費圧縮により実質利回りが0.4ポイント改善しました。
さらに、長期固定金利を活用すると金利上昇局面でも支出が安定します。2025年10月時点でフラット35の不動産投資版は存在しませんが、信金や信組が提供する最長25年固定型が年2.2%前後で利用可能です。為替と金利を同時にヘッジすることで、キャッシュフローのブレを最小化できます。
外国人投資家の動きと国内投資家の戦略
ポイントは、海外マネーが集中するエリアと、その周辺に波及する賃料相場を見極めることです。国土交通省の地価LOOKレポートでは、2025年第2四半期に訪日客が多い大阪心斎橋や福岡天神で商業地の価格指数が前年同期比8%上昇しました。これに対し、徒歩十五分圏の住宅地は3%程度の上昇に留まっており、家賃も緩やかな伸びにとどまっています。
つまり、外国人投資家が狙う中心部は価格競争が激化する一方、その外縁部はまだ取得コストが抑えられ、将来の賃料増に転換しやすい余地があると言えます。国内投資家はこの「温度差」を利用し、複数路線が利用できる三番手駅の築浅物件を選ぶと安定しやすいです。
また、海外投資家は法改正リスクに敏感なため賃貸管理を現地法人に一任する傾向があります。国内投資家は自主管理や地域密着管理会社を活用し、管理コストを抑えつつ入居者サービスを充実させる差別化が有効です。外国人マネーと真っ向勝負するより、運営力で差を出す戦略が結果的に利回りを高めます。
今こそ見直したい資金調達とリスク管理
まず、金融機関の融資姿勢は物件種別で温度差があります。住宅ローン並みの低金利を期待するのは難しいものの、2025年度の中小企業等経営強化法に基づく固定資産税軽減措置を活用し、法人名義での融資審査を有利に進める事例が増えました。固定資産税が三年間半減すれば、同期間のキャッシュフローに最大1.5ポイントの貢献が見込めます。
さらに、自己資金二割を投入し返済比率を50%未満に抑えると、変動金利型でも金利上昇耐性が高まります。例えば金利が1.0%上昇しても返済額の増加は年間48万円にとどまり、家賃収入が維持できれば許容範囲です。重要なのは、金利シミュレーションを楽観・標準・悲観の三段階で作り、最悪シナリオでも黒字を確保できるラインを把握しておくことです。
保険によるリスクヘッジも見逃せません。火災保険は2025年10月改定で最長契約期間が五年に短縮されましたが、免責金額を調整すると年間保険料は約12%削減できます。加えて、家賃保証会社の倒産リスクを踏まえ、複数保証会社の併用プランを導入するオーナーも増えています。保険と保証を組み合わせた多層防御が、円安で上昇する修繕・空室リスクへの備えになります。
成功する物件選びのチェックポイント
実は、円安時代こそ収益物件の選定基準をシンプルにすると判断ミスが減ります。最初に見るべきは「実質利回り=年間家賃−運営費−空室損失÷購入価格」です。表面利回り10%でも、運営費が高い木造アパートでは実質7%に落ち込むケースが少なくありません。
次に、賃貸需要の堅さを人口動態データで確認します。総務省の推計では2025年から2030年にかけ、全国平均で人口は4%減少する見込みですが、政令指定都市の中心区は逆に1%増える地域もあります。エリア全体が微減でも、駅徒歩七分以内・築二十年以内の物件は入居期間が長く、長期的な空室率を5%以下に抑えやすいと実感しています。
最後に、出口戦略を必ずセットで考えることが肝要です。不動産価格が上昇している間に売却益を狙う転売型か、三十年保有して家賃収入を積み上げる年金型かで、購入時の築年数許容範囲が変わります。転売型なら築浅RC造、年金型なら管理のしやすい木造テラスハウスも視野に入るでしょう。物件選びはゴール設定から逆算することで、迷いなく決断できます。
まとめ
円安時代の不動産市場は、外国人資金の流入と建築コスト上昇が同時進行する独特の環境です。それでも家賃が大きく下がりにくい現状を踏まえ、運営費の円建て固定化と長期固定金利を組み合わせれば安定収益は十分に可能です。海外マネーが届きにくい周縁エリアや築浅中古に焦点を当て、自己資金二割・返済比率五割以下を守ることでキャッシュフローのブレを抑えられます。最終的には出口戦略まで描き、実質利回りで判断すれば、円安を追い風にした堅実な不動産投資が実現します。さっそく今日、手持ち物件や候補物件の収支シミュレーションを更新し、行動の第一歩を踏み出してみてください。
参考文献・出典
- 日本銀行 国際収支統計 – https://www.boj.or.jp/statistics/
- 国土交通省 地価LOOKレポート – https://www.mlit.go.jp/
- 財務省 為替統計 – https://www.mof.go.jp/
- 東証REIT指数 月次レポート – https://www.jpx.co.jp/
- 総務省 人口推計 – https://www.stat.go.jp/