不動産融資

アパート経営 金利上昇期でも収益性を守る戦略

不動産投資に魅力を感じつつも、「金利が上がったらローン返済が苦しくなるのでは」と不安に思う人は少なくありません。とくにアパート経営は長期の融資を組むため、金利動向が収益に直結します。そこで本記事では、金利上昇期におけるキャッシュフローの守り方や投資判断のポイントを、最新データと具体例を交えて解説します。読み進めることで、今から準備できる対策が明確になり、将来の金利変動にも動じない経営スタンスが身につくはずです。

金利が上がると収益構造はどう変わるか

金利が上がると収益構造はどう変わるかのイメージ

まず押さえておきたいのは、金利上昇がアパート経営のどこに影響するかという点です。借入金利が1%上がると、毎月の元利返済額は物件価格の規模によって大きく変化します。たとえば1億円を25年返済、元利均等、金利2%から3%に上昇した場合、月額返済は約42万円から約47万円へ増加します。つまり年間60万円前後のキャッシュアウト増となり、賃料収入が横ばいなら利回りは約0.6ポイント低下する計算です。

一方で、2025年8月時点の全国アパート空室率は21.2%と、国土交通省住宅統計によると昨年より0.3ポイント改善しています。空室改善が続けば賃料下落リスクは抑えられますが、金利上昇の影響は避けられません。そこで重要なのは、空室改善で得た増収を返済増に充当し、実質手残りの減少を最小限に抑える発想です。

また、インフレが進む局面では賃料アップ交渉もしやすくなります。都心の単身者向けでは、2024年から2025年にかけて平均賃料が約2%上昇しました(不動産流通推進センター調査)。家賃改定と金利上昇が同時に起こる場合、差し引きでキャッシュフローを維持できるかをシミュレーションすることが欠かせません。

キャッシュフローを守る具体的な資金計画

キャッシュフローを守る具体的な資金計画のイメージ

重要なのは、返済負担率と自己資本比率をバランスさせる資金計画です。返済負担率とは家賃収入に対する年間返済額の比率で、金融機関は通常50%未満を推奨しますが、金利上昇期は40%以下に抑えると安心です。自己資本を物件価格の25%程度投入すれば、元本残高が減り返済額も下がるため、この水準を一つの目安にしましょう。

さらに、金利が0.5%上がるごとにキャッシュフローがいくら減るかを試算し、その額の3年分を「予備費」として別口座にプールしておくと心理的な余裕が生まれます。例えば月3万円の減少見込みなら、100万円強を準備すればよい計算です。

融資期間にも注目したいところです。期間を延ばせば月々の返済は下がりますが、総支払利息は増えます。変動金利で短めに組み、金利上昇局面で固定型へ借り換える方法もありますが、借り換え手数料と違約金を考慮する必要があります。したがって、最初から固定金利を選ぶか、あるいは「上限金利付き変動型」を活用して上限を3%程度に抑える戦略が有効です。

低金利時代と比較した投資指標の読み方

ポイントは、利回りだけでなくイールドギャップに注目することです。イールドギャップとは表面利回りから借入金利を差し引いた値で、投資の安全余裕度を示します。低金利時代はこの差が広く、多少の空室や修繕があってもキャッシュフローが黒字化しやすい状況でした。一方、金利が上がると差が縮むため、同じ利回りの物件でも手残りが減少します。

具体的には、表面利回り7%の物件で金利2%ならイールドギャップは5%ですが、金利3.5%に上がると差は3.5%まで縮小します。この数値が4%を切ると、空室率が20%を超えた途端に赤字化する可能性が高まります。そのため、購入判断では利回り8%以上、あるいはエリアの空室率が平均より5ポイント低いなど、複数の安全マージンを重ねることが大切です。

また、自己資本利回り(ROE)も見逃せません。金利が上がると借入金利とROEの両方が変動しますが、自己資本を厚くすればROEは低下しやすい一方で安全度は増します。そこで、初期段階ではROE10%前後を維持しつつ、繰上返済により徐々に借入残高を縮小し、中長期でROEと安全性を両立させるプランが現実的です。

2025年度の資金調達と支援策

実は、金利上昇期でも公的制度をうまく活用すれば、実質金利負担を引き下げられます。2025年度は、国土交通省が賃貸住宅の省エネ改修を対象に最大工事費の三分の一を補助する「賃貸住宅省エネ化支援事業」を継続中です。断熱改修や高効率給湯器の導入を行えば、工事費の250万円まで補助が出るケースもあり、これを自己資金の補填に充てることでキャッシュフローが改善します。

加えて、住宅金融支援機構の「フラット35リノベ」では、改修後に省エネ基準を満たせば金利が当初10年間0.25%引き下げられます(2025年度制度)。アパート一棟でも条件を満たせば利用可能であり、固定金利で長期資金を確保できるメリットは大きいです。

自治体レベルでも、東京都の「賃貸住宅居住環境向上助成」(2025年度)は、空き家のアパートをバリアフリー化する場合に1室あたり最大50万円を支給します。こうした補助を組み合わせれば、金利上昇期でも実質負担を抑えられ、競争力の高い物件に仕上げることができます。

将来シナリオ別リスク管理と出口戦略

まず、中期の金利シナリオを三段階で想定することが肝心です。1つ目は金利上昇が小幅で止まるケース、2つ目は3%台で高止まりするケース、3つ目は景気後退で再び下がるケースです。それぞれのシナリオで返済額と空室率の変動を組み合わせ、損益分岐点を把握すると決断が早くなります。

売却を視野に入れる場合、物件価格は表面利回りと補修状態で決まります。金利が上がると買い手は利回りを重視するため、築古物件でも共用部を美装化し利回り9%台を維持できれば、出口価格を守りやすくなります。また、保有を続ける場合は、家賃を下げずに入居率を維持するためのサービス向上策、たとえばインターネット無料や宅配ボックス設置など小額投資で差別化を図る手法が効果的です。

最後に、生命保険代わりの団体信用生命保険(団信)のメリットも再確認しておきましょう。金利上昇期でも団信は付保されるため、もしもの際にローン残債がゼロになる点は大きな保障です。家族に無借金の不動産を残せることは、リスク管理の観点から見ても強力な出口戦略と言えます。

まとめ

ここまで、アパート経営における金利上昇期の収益性確保策を見てきました。要点は、返済負担率を40%以下に抑え、イールドギャップ4%以上を維持しつつ、補助金や低金利融資で実質コストを引き下げることです。また、シナリオごとの損益分岐点を把握し、売却と保有の両面で出口を設計することで、金利変動にも柔軟に対応できます。まずは自身の物件と資金計画を棚卸しし、3年分の予備費を確保するところから始めてみてください。準備を整えれば、金利上昇期でも安定したアパート経営は十分可能です。

参考文献・出典

  • 国土交通省住宅局「住宅市場動向調査」2025年8月版 – https://www.mlit.go.jp
  • 不動産流通推進センター「賃貸住宅市場データ」2025年7月 – https://www.retpc.jp
  • 住宅金融支援機構「フラット35リノベ 2025年度概要」 – https://www.flat35.com
  • 東京都都市整備局「賃貸住宅居住環境向上助成 2025」 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
  • 国土交通省「賃貸住宅省エネ化支援事業 2025年度公募要領」 – https://www.mlit.go.jp

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