アパート経営を始めたばかりの方の多くは「家賃をいくらにすればいいのか」で頭を悩ませます。高すぎれば空室が増え、安すぎれば収益が縮みます。しかし市場データと競合物件を丁寧に比較し、長期的な視点で戦略を立てれば、家賃設定はむしろ収益を最大化する強力な武器になります。本記事では最新の空室率や利回りの指標を交えながら、初心者でも実践できる家賃設定のステップを解説します。読めば自信を持って「アパート経営 家賃設定 比較」ができるようになるはずです。
市場動向を読み解くことから始めよう

まず押さえておきたいのは、家賃設定の出発点は自分の希望額ではなく市場の実勢家賃だという事実です。国土交通省住宅統計によると、2025年8月の全国アパート空室率は21.2%で前年同月比0.3ポイント改善しました。つまり空室は依然として高水準ながら、需要はわずかに回復傾向にあります。需要が戻り始めたタイミングで競合より高い家賃を提示すれば入居付けは難航します。逆に強気の家賃を設定する場合でも、改善幅がどのエリアに集中しているのかを把握しなければ的外れになります。
次に、新築と築古、ワンルームとファミリータイプでは需給の状態が異なる点に注目してください。たとえば都心部の駅近ワンルームは供給過剰気味でも、郊外の2LDKはファミリー層の転入により募集開始前に申し込みが入るケースもあります。この事情を無視して平均家賃だけを参照すると高い空室リスクを抱えることになります。物件タイプごとに細分化されたデータを入手し、同じ土俵で比較する姿勢が重要です。
また、近年はインフレの進行で物価全体が上昇している一方、賃料の伸びは地域差が大きいという特徴があります。総務省の小売物価統計では生活必需品の値上がり率が5%前後だったのに対し、地方都市の賃料指数は横ばいでした。家賃の据え置きが当然という空気があるエリアでいきなり値上げを行えば、入居者の抵抗感は想像以上になるでしょう。物価と賃料の乖離がどの程度かを照らし合わせる視点も欠かせません。
競合物件との比較で差別化ポイントを探る

重要なのは、同じエリアにある競合物件と自分のアパートをどう差別化できるかを明確にすることです。インターネットのポータルサイトを眺めるだけでは、表面的な家賃の数字しか見えません。築年数、設備、管理状態、さらには募集図面の写真の質まで含めて比べることで、本当の競合力が見えてきます。例えば築20年でも宅配ボックスや高速インターネットを導入している物件は、築浅の家賃水準を維持しやすくなります。
一方で、周辺相場を下回る家賃で長期間満室を実現している物件があったら要注意です。そのオーナーが短期回収型の投資戦略をとっている場合、地域相場全体を引き下げることがあります。相場より安い物件に合わせて家賃を落とすと、収益低下だけでなく物件のグレードイメージまで下がりかねません。競合の家賃が低い理由を分析し、自物件と立地・設備の違いを数字と写真で整理しておくと判断を誤りにくくなります。
さらに、2025年以降はエリア限定のリノベ支援事業が続々と拡充されており、設備向上で家賃アップを狙う余地が広がっています。例えば東京都の「2025年度賃貸住宅省エネ改修補助(上限120万円)」は、断熱改修と同時にインターネット無料化を行う場合に補助率が引き上げられる仕組みです。補助金を使って競合との差別化を図り、適正家賃の上限を押し上げる方法も検討する価値があります。
利回りとキャッシュフローを両立させる家賃設定
ポイントは、家賃を上げれば利回りが上がるとは限らないという現実です。高すぎる家賃は空室期間を延ばし、年間の家賃収入をむしろ減らすことがあります。例えば家賃を1万円高く設定した結果、平均空室期間が一か月伸びると年間収入は同額になりますが、再募集コストや広告料が発生すれば赤字です。利回り計算では「年間予定家賃収入」を用いますが、この数字を現実に近づけるためには想定空室率を慎重に設定する必要があります。
実は、キャッシュフローには家賃だけでなく、管理費や修繕積立の計画も大きく影響します。家賃を据え置く代わりに共益費を500円引き上げると、入居者の心理的抵抗は小さいまま収益を底上げできる場合があります。なぜなら共益費は値上げ理由を「設備増設」など具体的に説明しやすいからです。家賃と共益費、礼金、更新料をトータルで設計する発想を持つと、数字以上に競争力のある条件を提示できます。
金融機関の融資審査では、家賃の安定性が重視されます。例えば同じ想定利回り8%でも、空室率10%の保守的な計画を立てている方が審査担当者の評価は高い傾向があります。家賃設定を検討する際は、金融機関が用いる試算表を自分でも作成し、金利上昇や大規模修繕を組み込んだキャッシュフローを確認しましょう。こうした事前準備が、将来の追加融資や金利交渉を有利に進める土台になります。
家賃設定後に行うべき調整と長期戦略
まず押さえておきたいのは、家賃は一度決めたら終わりではなく、年次で見直す運用型の指標だという点です。最新の管理実務では、退去が発生したタイミングでAI査定を活用し、周辺成約事例と物件スペックを比較して1万円以内で微調整するケースが増えています。これにより相場上昇局面では取り残されず、下落局面では空室期間を最小限に抑えられます。
家賃改定の時期を決めるうえで、入居者への通知方法にも注意が必要です。民法改正により賃料改定の合意形成プロセスが明文化され、書面または電子交付での通知を行い、協議が整わなければ調停に移行する流れが定着しました。とりわけ長期入居者ほど改定交渉はセンシティブになるため、半年以上前から設備改善の提案とセットで進めるとスムーズです。
一方で、長期運用を前提とするなら出口戦略も含めた家賃設定が欠かせません。2025年時点で人気のサブリース一括借上げは10年目以降に保証家賃が見直される契約が一般的です。将来の再販を視野に入れ、途中でサブリースを外して家賃を市場連動型に戻す可能性まで想定しておくと、出口での物件評価を高めやすくなります。つまり家賃設定は購入時から売却時まで一貫したシナリオで描くことが、最終的な投資成果を左右します。
まとめ
ここまで、家賃設定を成功させるために市場動向の読み取り方、競合物件との比較、利回りとキャッシュフローの調整、さらに長期戦略としての改定手法を解説しました。家賃は高くても低くてもリスクが潜みますが、データに基づく比較と柔軟な運用を心掛ければ安定収益を実現できます。まずは自物件と周辺物件の情報を整理し、想定空室率や改定シナリオをシミュレーションしてみてください。行動に移すことで、数字は机上の計算から確かな成果へと変わります。
参考文献・出典
- 国土交通省 住宅統計調査 2025年版 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 小売物価統計 2025年9月公表 – https://www.stat.go.jp
- 東京都住宅政策本部 2025年度賃貸住宅省エネ改修補助要綱 – https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
- 日本賃貸住宅管理協会 家賃改定実務ガイドライン2025 – https://www.jpm.jp
- 全宅連 不動産ポータル成約データ2025年上期 – https://www.zentaku.or.jp