金利がじわじわ上がり、変動型で借りた物件の返済額が将来いくらになるのか見当もつかない──そんな不安を抱える投資家が増えています。不動産投資ローンはわずか0.5%の金利差でも総返済額が数百万円単位で動くため、金利上昇期には特に注意が必要です。それでも、返済シミュレーションを正しく行い、金利や返済方式を戦略的に選べば、キャッシュフローを安定させつつ資産を増やすことは十分に可能です。本記事では2025年10月時点の最新金利データを踏まえ、具体的な実例とともにシミュレーションの手順、金利上昇への備え方、活用できる支援制度までを解説します。
金利上昇局面で押さえるローンの基本

重要なのは、借入金利と返済方式がキャッシュフローを直接左右するという事実です。物件の立地や賃料設定と同じくらい、ローン設計そのものが投資成績を決めます。
まず、金利タイプには変動型と固定型があります。変動型は初期金利が低く、当面のキャッシュフローを厚くできますが、将来の金利上昇リスクを抱えます。一方、固定型は金利こそ高いものの、返済額が一定で長期の計画を立てやすい特徴があります。どちらを選ぶにせよ、金利が上昇した場合に家賃収入がどこまで吸収できるかを事前に検証することが欠かせません。
全国銀行協会のデータによると、2025年10月時点の投資用ローン平均金利は変動型1.5〜2.0%、固定10年2.5〜3.0%です。過去10年の低金利局面では変動型が主流でしたが、今後は固定型へ切り替える投資家も増えると予想されています。つまり、市場環境に合わせてローンタイプを見直す柔軟性が求められます。
さらに、元利均等返済と元金均等返済の違いも押さえておきましょう。元利均等は毎月の返済額が一定で資金計画が立てやすい半面、初期は利息分が多く元金がなかなか減りません。元金均等は返済開始時の負担が大きいですが、時間の経過とともに返済額が減るため、長期的には利息総額を抑えられます。金利上昇局面では元金均等の方が利息軽減効果が大きく、総支払額の抑制に寄与します。
実例で学ぶキャッシュフローの変化

ポイントは、具体的な数字でキャッシュフローを把握することです。ここでは実際に投資家Aさんが購入した区分マンションを例に、金利変動がどのように収支に影響するかを追います。
Aさんは都内ワンルームを3,000万円で購入し、自己資金600万円を投入、2,400万円を変動金利1.6%・35年元利均等で借り入れました。購入当初の毎月返済額は約77,000円で、家賃収入105,000円から管理費などを差し引いたキャッシュフローは月18,000円でした。ところが5年後に金利が1.6%から3.1%へ上昇すると、毎月返済額は約94,000円に増加し、キャッシュフローはほぼゼロになりました。こうして、わずか1.5%の上昇で年間約20万円の手取りが吹き飛んだのです。
同じ物件を固定金利2.7%で借りた場合も見てみましょう。初期の毎月返済額は92,000円で、手取りキャッシュフローは月3,000円とかなり薄い状態でスタートします。しかし10年後の金利2%上昇局面でも返済額は変わらないため、家賃が平均2%ずつ上昇すれば月8,000円まで手取りが増える試算になりました。つまり、短期的な利益か長期的な安全か、投資家の戦略によって選択肢は変わるわけです。
この実例が示すのは、金利が低い段階で変動型を選ぶとキャッシュフローが厚く見えるものの、金利上昇局面では一気に赤字転落するリスクが高まるという点です。逆に固定型は初期の手残りが薄くても、長期の金利上昇リスクをヘッジできます。実は、金利差だけでなく家賃成長率や修繕費の発生時期を同時にシミュレーションすることで、より精度の高い判断が可能になります。
返済シミュレーションの作り方
まず押さえておきたいのは、シミュレーションは「金利」「期間」「返済方式」「空室率」の4要素を軸に組み立てることです。特に金利は複数のシナリオを設定し、楽観・標準・悲観の3段階で検証するのが基本です。
最初に、借入条件と家賃収入をExcelに入力します。元利均等返済なら関数PMTを使い、変動金利シナリオごとに返済額を算出します。同時に、管理費や固定資産税、将来発生する大規模修繕費も年次で見込んでおくと、キャッシュフローの凹凸がはっきりします。言い換えると、数字を時系列で並べることで「返済額の増加」と「家賃の伸び」がどの年度で交差するかが分かるのです。
次に、金利上昇シナリオを追加します。例えば借入5年後に1%、10年後にさらに0.5%上がるケースを入れると、返済額がどの程度跳ね上がるか一目で把握できます。このとき、前述の家賃成長率や空室率を控えめに設定しておくと、より保守的な計画になります。金融機関が審査で重視するのも、こうした悪化シナリオに耐え得るかどうかです。
最後に、自己資金の返済シミュレーションも加えます。繰上返済を年1回行い、残高の5%を減らすと、総支払額がどこまで縮小するかを試算します。実は、元金を早期に圧縮すると金利上昇の影響を受ける元本自体が減るため、リスク軽減効果が大きくなります。こうした「もしも」の数字を積み重ねることで、金利上昇期でも耐えられる資金計画が見えてきます。
金利タイプ別のリスクと対策
ポイントは、金利タイプごとに異なるリスクを把握し、具体策を講じることです。変動型は金利が上がると返済額も自動的に増えるため、毎年のキャッシュフロー点検が不可欠です。
変動型を選ぶなら、金利上昇幅を年1%までと想定する「金利キャップ型」商品を取り扱う金融機関を検討しましょう。上限を設定できれば、急激な返済額増加を抑えられます。また、金利が急上昇する前に固定型へ借換えられる「固定切替特約」を付ける方法もあります。借換え時の手数料や残債の再審査に対応できるよう、手元資金を厚くしておく準備も忘れてはいけません。
一方、固定型を選んだ場合でも安心は禁物です。金利が下がったときに借換えられないデメリットがあるため、市場金利が再び低下した場合の乗り換えコストを試算しておくと良いでしょう。さらに、返済額が一定だからと余裕資金を使い切らず、将来の空室リスクや修繕費に備えた内部留保を積み増すことが重要です。
共通する対策として、家賃の定期的な見直しと物件価値の維持があります。国土交通省の賃貸住宅市場データでは、築20年以降は設備更新を行った物件が平均10%高い賃料を維持しています。つまり、金利が上がっても家賃を引き上げられる状態を保てば、返済負担を吸収しやすくなるわけです。
2025年度に使える支援制度と金融機関選び
実は、投資用ローンでも活用できる支援制度や優遇商品が存在します。2025年度は「中小企業投資促進税制」が延長され、不動産管理会社を活用して法人名義で物件を取得する場合、初年度の設備投資額に対し一部特別償却が選択できます。個人投資家でも、特定の省エネ性能を満たす物件なら自治体の利子補給制度を利用でき、金利負担を年0.3〜0.5%下げるケースがあります。
金融機関を選ぶ際は、金利だけでなく「融資期間」「自己資金比率」「団体信用生命保険の内容」も総合的に比較しましょう。都市銀行は金利が低めでも自己資金2〜3割を求めることが多く、地方銀行や信用金庫は金利がやや高くても1割前後で借りられる場合があります。つまり、初期資金に余裕がなければ地銀や信金の方が投資を開始しやすい場合もあるのです。
また、2025年10月時点で複数のネット銀行が投資用ローンのリフォーム資金を同時借入できるパッケージ商品を提供しています。内装やWi-Fi設備など付加価値工事を一括で融資に組み込めれば、物件力を高めつつ金利負担も一本化できるため、長期の空室リスクを抑える効果が期待できます。
まとめ
結論として、金利上昇期に不動産投資ローンで成功するためには、金利タイプの選択と返済シミュレーションを徹底することが欠かせません。変動型で初期キャッシュフローを厚く取る戦略も、固定型で長期の安定を優先する戦略も、それぞれにリスクとリターンがあります。重要なのは、複数の金利シナリオを設定し、家賃収入や修繕費を保守的に見積もった上で、自己資金の投入や繰上返済といった対策を組み合わせることです。この記事で紹介した実例と手順を参考に、ぜひ自分の投資プランを数字で検証し、金利上昇という波を味方につけてください。
参考文献・出典
- 全国銀行協会 – https://www.zenginkyo.or.jp
- 国土交通省 不動産価格指数 – https://www.mlit.go.jp
- 国土交通省 住宅市場動向調査 – https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku
- 総務省 家計調査 – https://www.stat.go.jp
- 中小企業庁 中小企業投資促進税制パンフレット – https://www.chusho.meti.go.jp