都市に住む家族向けマンションへの投資は、ワンルームより安定すると聞くものの、「実際の利回りは低いのでは」と心配する人が多いはずです。たしかに2025年12月時点の表面利回りは東京23区で平均3.8%とワンルームより0.4ポイント低めです。しかし空室期間の短さや長期入居の期待値を加味すると、手取りベースでは逆転する例も少なくありません。本稿では利回りの計算方法から市場動向、物件選び、資金計画まで順にひもとき、読後には自分で収支を組める状態を目指します。
利回りを正しく測るための基本知識

まず押さえておきたいのは「表面利回り」と「実質利回り」の違いです。前者は年間家賃収入を購入価格で割った単純な数値で、公表データに多く使われます。一方で実質利回りは管理費や固定資産税、修繕積立金などを差し引き、自己資金割合や融資条件も反映させます。つまり手取りキャッシュフローを知るには実質利回りが不可欠です。
日本不動産研究所の2025年12月調査によると、東京23区のファミリーマンション平均表面利回りは3.8%でした。管理費と修繕積立金が年額家賃の15%前後、固定資産税などが約7%とすると、実質利回りは2.7%程度に下がる計算になります。しかし空室率が低いエリアで長期入居が続けば、この下げ幅を小さくできます。実際、筆者が管理する板橋区の築15年物件では空室期間が年10日未満のため、実質3.2%を維持しています。
利回り計算でもう一つ大切なのが自己資金比率です。自己資金を多く入れると表面利回りは変わりませんが、融資返済が減るぶんキャッシュフローが厚くなります。例えば5,000万円の物件で頭金1,000万円を入れ、年収入200万円、諸費用40万円なら、実質利回りは2.4%から2.9%へ改善します。小幅でも複利効果を考えると長期で大差となります。
最後に、利回りは単独で評価せず「安全余裕率」を見ることが重要です。金利上昇や修繕費増をシミュレーションし、手取りがマイナスにならないか検証します。空室率20%・金利2%アップといった厳しめ条件でも黒字が保てるなら、リスク許容度は高いと判断できるでしょう。
市場動向から読み解くファミリーマンションの魅力

重要なのは、利回りだけでなく市場の先行きを読むことです。不動産経済研究所によれば、2025年12月の東京23区新築マンション平均価格は7,580万円で前年比3.2%上昇しました。家族向けの70㎡台住戸は土地価格と建築費の高騰で新規供給が減り、中古の需要が強まっています。供給不足は賃料の下支え要因となり、家賃下落リスクを抑えます。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、都心回帰が続く30代子育て世帯が2030年まで微増する見通しです。共働きで保育園や小学校の近さを重視する層が、賃貸でも通勤利便性を最優先に物件を選びます。こうした借り手は転勤が少なく、平均居住年数は7年超とワンルームの約2倍です。長期入居はリフォーム費や空室損失を抑え、実質利回りの底上げに寄与します。
一方で注意したいのはエリア間格差です。総務省の住宅・土地統計調査では、東京23区内でも湾岸部の世帯増加率が2.1%に対し、城北エリアは0.3%にとどまります。前者は人気が集中し価格高騰で利回りが低下しやすいのに対し、後者は賃料が横ばいでも購入価格が抑えられ、バランスが取りやすい場合があります。つまり人口動態と価格水準の両面を比較する姿勢が欠かせません。
新築か中古かという論点では、利回りを重視するなら築10〜20年の中古が優位です。新築プレミアムが取れた直後は価格が落ち着き、修繕積立金が適正に設定される頃合いだからです。加えて、2025年度も適用される住宅ローン減税は要件が厳しく、投資用区分には使えません。減税に頼らず利回りを高めるなら、相場より1割安く買える中古を探すほうが現実的と言えます。
物件選びと利回り改善の具体策
ポイントは「家賃を上げる」のではなく「費用を下げる」という視点です。家賃市場は周辺相場でほぼ決まるため、大幅な上乗せは難しいからです。そこで管理費の見直しやリフォームコストの抑制が効いてきます。管理組合に参画し、業者選定を競争入札にするだけで、年間維持費が1割下がるケースも珍しくありません。
次に、間取りと設備がターゲットに合致しているか確認します。ファミリー層は収納力と対面キッチンを重視する傾向が強く、国土交通省の「住生活総合調査」でも満足度に直結する項目とされています。築古物件でも壁面収納や食洗機を後付けすることで、家賃1万円アップが実現した事例があります。初期費用は50万円ほどかかりますが、4年で回収でき、その後は利回り向上へ直結します。
また、賃貸管理会社の選び方も収益に直結します。サブリースは空室保証が魅力ですが、賃料が相場の80%前後に設定されることが多く、長期的には手取りが減ります。代わりに客付け力の強い仲介会社と管理を分ける「リーシング分離型」を採用し、早期成約と管理コスト削減を両立する方法が広がっています。筆者のクライアントでは平均空室期間が22日短縮され、年間収入が2%改善しました。
最後に、修繕積立金の水準を見逃さないでください。築10年超で平米300円以下の積立金は、将来の大規模修繕不足につながり資産価値を下げます。購入前に長期修繕計画を確認し、不足があればディスカウント交渉や購入見送りを判断しましょう。利回りは単年ではなく、20年先のキャッシュフローまで読んでこそ意味があります。
融資・税務を踏まえた長期戦略
実は、融資条件次第で表面利回り3.8%の物件も手取り5%相当まで高められます。理由は税効果です。建物部分は法定耐用年数47年の定額法が基本ですが、中古購入なら残存年数か取得価額のいずれか短い期間で減価償却できます。築20年なら残存27年より短い22年を採用し、年間経費を増やして課税所得を圧縮できます。
金融機関のスタンスも変化しています。2025年は地銀や信金が自己資金20%を条件に、期間35年・金利1.8%前後の投資ローンを提供しています。ワンルーム向けの商品より金利が0.2ポイント低い設定が多く、長期安定性を評価している証しと言えます。金利差0.2ポイントは5,000万円借入で総返済額が約200万円変わり、利回り換算で0.1〜0.2ポイント向上します。
固定資産税の軽減措置も見逃せません。新築後3年間は税額が1/2となる制度は自宅向けですが、賃貸併用であっても法人名義なら適用可能な場合があります。ただし用途変更や規模要件が複雑なので、税理士に個別確認することが必須です。確実なのは、青色申告による最大65万円控除を活用し、赤字を給与所得と損益通算する方法です。所得税率が20%なら、手取りベースで年13万円の節税効果となり、実質利回りを0.2ポイント押し上げます。
さらに、将来の出口戦略も踏まえたローン設定が重要です。元利均等より元金均等返済を選ぶと、序盤の返済額が大きくキャッシュフローは圧迫されますが、残債が早く減るため5年後の売却益が出やすくなります。早期売却を視野に入れる場合は、元金均等と短期固定金利の組み合わせを検討する価値があります。
まとめ
本記事ではファミリーマンション利回りを高める要素を、計算方法、市場動向、物件改善、融資と税務の四つに分けて解説しました。要は表面利回りの数字だけで判断せず、空室期間や税効果を加味した実質利回りで比較する視点が鍵となります。管理費削減や設備改善で支出を抑え、長期入居を得れば、平均3.8%の物件でも手取り5%に近づけることは十分可能です。これから物件を探す方は、地域の人口動態と管理状態を確認しつつ、厳しめのシミュレーションで安全余裕率を確保してください。行動に移すことで、安定収益と資産形成の両方を手に入れられるでしょう。
参考文献・出典
- 日本不動産研究所 – https://www.reinet.or.jp
- 不動産経済研究所 – https://www.fudousankeizai.co.jp
- 国土交通省 住生活総合調査 – https://www.mlit.go.jp
- 総務省 住宅・土地統計調査 – https://www.stat.go.jp
- 国立社会保障・人口問題研究所 – https://www.ipss.go.jp